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ライオンキングの落日

2018 DEC 23 2:02:08 am by 東 賢太郎

きのう森嶌医師が診療で「音楽は聴いてますか」と質問してきた。「いや、ぜんぜん、その気にならないんでね」と答えながら、それがかつてドツボの兆候だったことを思い出した。彼は統合医療の専門家だから心療内科の意味合いからその質問をしたのかなと思う。「いまは猫ですよ、最高の癒しなんで」。とにかく疲れてる。

仕事はジャングルだと書いたが、そうかどうかは仕事による。僕の場合は「良い投資機会」というものが獲物に見立てられるわけで、だからジャングルの比喩がぴったりくるということにすぎない。株式投資に限らず良い投資機会というのは「嗅ぎ分ける」もので理屈ではない。理屈で分かるものは誰でもわかるからすでにほかの猛獣に食いつくされて骨だけになってるのである。

資本主義はジャングルを肯定する所に成り立っている。一匹のライオンが獲物を全部食ってもいい。ライオンもシマウマもエサは配給制なのが共産主義だ。強すぎのライオンにはレバノン系のフランス人であっても森林管制官からお咎(とが)めが入ったりする日本は和を貴しとなす配給制に親和性がある国民性であり、森林管制官が大勢飯を食えるという側面ですぐれて共産主義的である。かたや米国と中国は相反するように見えるが、ライオンが森林管制官をやっているという側面においては、実は国民性においては非常に資本主義的で似ている。だからこそトランプが習近平をライオンであると察知し、知的財産権にかかわる血みどろのトレード・バトルが発生しているのであり、草食獣の森林管制官がまじめにライオンを取り締まっている日本とはどちらも水と油の国なのである。

ジャングルで獲物を嗅ぎ分ける能力というのは、何度も書こうと思って断念してきた大きなテーマだ。この「嗅覚」は自分で起業して経営をしたり、他人がそれをした会社の株式に投資してそれを疑似体験するということに長年たずさわっていないとなかなか身に着くものではないからだ。どうやって習得しようとある人にはあるものだとしか書きようがない。ジャングルで獲物があれば、同じ嗅覚の他の動物も寄ってくる。基本はそれらはみなハイエナのような敵なのだが、そう思わずむしろ共同したほうが大物を得ることができるのは長年の知恵だ。

この共同ハンターは大事だ。ライオンのハンティングを見ればわかる。僕は長年それらに猫パンチをくらわしてしまう手癖が抜けなかったが、最近になって足腰が衰えてきたせいもあり、むしろそれを集めようと180度趣向をかえた。かといって一人で倒せそうもない大きな獲物を見つけていざっという刹那に、一緒にハントしません?なんて草食獣に声をかけるライオンはいない。しかも同じライオンでも得手不得手があるから選択が肝要である。ハントに役に立たないのに肉を食いに来るフリーライダーは邪魔なだけでいらない。

そのハントのリーダー格になれるかどうかが我が業界の死活問題であり、僕自身がリーダーで長年食ってるわけであり、その感覚は研ぎ澄まされているがそれ以外のことはあんまり興味もない。これを他業界の人にご説明するというのは猫が犬にマタタビの魅力を説くようなもので全く意味がない。証券会社にいた人でも99%は使い物にならない。だからこそ自分の嗅覚で僕に寄ってくる人は貴重なのだ。その人たちは社員になってもらう必要などない。そのほうがコストが安いし機動性は倍加する。それが「伊賀の影丸経営」なのだ。

大手総合証券の強みは引受業務の主幹事ができることで、引き受けた株を「玉(ぎょく)」と呼ぶがそれを握った者がそのディールの支配者、王者であり、いい玉を握れば同業者は放っておいても嗅覚ですり寄ってくる。それを力関係で配分して少しでも多く売らせるわけだ。そうやって需要が多くなれば売値は高くできて発行会社も喜ぶからまた主幹事ができるという寸法だ。そのメカニズムで「ライオンキング」になった者こそがジャングルの王者なのである。

聞けば簡単だがきれいごとの通じる世界ではない。ライオン同士の主従である。支配者になった経験のない者にはとうてい無理で逆に食い殺されるのが落ちだ。僕が野村證券という引受業界で世界のライオンキングであった会社の最盛期に海外でたっぷりと、食ったり食われたりの血みどろの戦闘経験を積ませていただいたのは天の恵みというしかない。向いていたとは思わないが、唯一ネコ科であったからハントの瞬発力では負けない。

しかしライオンにも落日はくる。今の案件が終わったらどうしよう。

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