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フランス革命を連想する大物議員の落選

2021 NOV 3 9:09:47 am by 東 賢太郎

ちらほら聞こえてくる話だが大勝した自民党に明るい空気はあまりないらしい。甘利氏の件だろう。現職幹事長の小選挙区落選は前代未聞だが、そうした衝撃は自民だけの話ではない。立憲の枝野代表も最後まで薄氷を踏む接戦だったし、野党の顔として人気のあった辻本議員は比例復活すらなく国会を去る。どの党が勝ちであれ負けであれ、全国会議員に首筋が寒い思いが走っていよう。

今回の衆院選の投票率は史上3番目の低さだった。つまり、過去の常識では、自公にとって史上3番目に強い追い風の吹いた選挙だったのである。現に、自民は単独で過半数と、大方の予想を覆す圧勝だったことが雄弁にそれを示している。ところがだ。それにもかかわらず、過去の常識では一番落ちないはずの現職幹事長が落ちてしまった。これをどう解釈すべきだろうか?

甘利氏本人が指摘するように「落選運動をされた」からか?たしかにそうだったのだろう。最高裁判事の国民審査は辞めさせたい人に「✖」を書いて落とす。議員の選挙にその仕組みはないので落としたい候補者の対抗馬に票を集中する。甘利氏はそれが起きたといいたいのだろうが、「前回までダブルスコアで勝ったのに」という認識があまりに甘い。票田がある俺が負けるはずない、だから落選運動がけしからん。悪いが、この物言いは最悪だ。ショットが木に当たって「誰がこんな所に木を植えたんだ」と激怒した某大物ゴルファーと民度が変わらない。そもそも世の風を読めてない時点で、政治家は失格ですらある。

小選挙区制での野党共闘という「舞台設定」はかねてよりあった。新しくない。でもうまくいかなかったのである。では何が変わったのだろう?甘利事例の衝撃は、有権者が大物だろうがお構いなしに首をはねる、そのギラリと光る刃の鋭さと強い意志にある。まるでフランス革命なのだ。何か不気味なほど巨大な不平不満のマグマがあった。だから甘利氏だけでない、石原伸晃元幹事長、野田毅元自治相、若宮健嗣万博相(現職)、桜田義孝元五輪相、松本純元国家公安委員長、辻元清美立憲民主党副代表、小沢一郎元民主党代表が小選挙区で落ちている。

大物政治家の小選挙区落選は、失礼ながらそのレアさから猿が木から落ちたといわれる。ドラえもんの「比例代表ネット~~」にボヨ~ンと醜く引っかかって救命される姿も国民の眼に焼きついてしまい、政治家としては出世に関わろう。今回は、絶滅危惧種とされていた自民の「魔の3回生」ですらボヨ~ン組をいれて9割も生き残ったのだから、落ちてしまった方の豪華な顔ぶれがさらに目立ち、革命だなあと国民に感慨を持たれている。実に異様だ。兵卒、足軽が元気に生き残って大将だけが首を刎ねられることは物理的に戦場ではあり得ない。つまり、今回の総選挙は「戦場でなく刑場」の性質が包含されていたのがとても異質で、だから自民内部でも勝利の雄たけびは控えめなのだろうと思料する。

以下、シンプルに本稿の要旨をまとめる。

小選挙区制、野党共闘の「舞台設定」はかねてよりあった。新しくないから革命でも何でもない。そうではなく「舞台裏」で静かに起きている革命があった。今回はそれが表舞台に大規模に顔を見せた史上初の事例である。

革命とはSNSの浸透だ。僕は10年前からこの現象に強い興味を懐いてきた。ソナー・メンバーズ・クラブを立ち上げて、いろんな実験をしてきた。動画を百本作り映画を作る寸前まで行ってコロナになったが、実験精神は変わらない。

SNSは20年も前からある。新しくない。変わったのは、それを閲覧するユーザーの質と数なのだ。書き手も読み手も匿名の無学な層だと政治家、オールドメディアは思っているが、そうでないことを彼らは知らないか無視を決めている。

「アンチ政治とカネ」運動は甘利氏の神奈川13区の有権者だけに起きた個別事象ではない。彼らは自由にネットを閲覧し、全国の有権者の意見を知り、自由に意思決定する。4割いる「最大政党」の無党派層は日々そう進化している。

例えば僕のブログ記事は東京都世田谷区の有権者しか読めないわけではない。北海道から沖縄まで毎日2千人以上の読者がいる。そうしたメディアのプライベート化、読者の多様化、多層化が40代より若い層で進んでいる感触がある。

発信者、受信者の多様化は順列組合せの数を増やし、増加速度は乗数的である。いずれテレビ1局の視聴率増で獲得できる受信者数を上回る。それによる政治インパクトは不明だがオールドメディアが信じたいゼロということはないだろう。

鍵を握るのは30代だ。彼らは10年前に車は持たない、テレビは見ない、新聞も読まない20代の子たちだった。我が子に近いスマホ世代だが、もちろん昭和の我々とちがう極めてまっとうな社会性と正義感を持った世代と感じる。

僕のブログ読者の53.7%は44才より若く、34.1%は34才より若い。その世代なのだ。しかも高等教育を受けている(でなければ僕の文章は読めない)。次世代を託す層だと実感するので頑張って書こうというインセンティブはある。

その世代の皆さんに言いたい。今回の衆院戦で皆さんはフランス革命を起こせるようになったことを知った。票田を相続するだけの家業議員や、私腹を肥やしたり、税金を無意味にばら撒く不届き議員は公開処刑できるということだ。

革命は暴動、殺戮と紙一重だが、そこから発した思想である主権在民は貴族制を否定するヘゲモニーであり、国民は政治を委託する代表者を選択はするが罷免もする。つまり今回の事例は、まぎれもない民主主義の正統な姿なのである。

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/ をクリックして下さい。

Categories:SMCについて, 政治に思うこと, 若者に教えたいこと

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