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「恐怖の記憶」が遺伝する

2014 FEB 8 12:12:11 pm by 東 賢太郎

「身の危険を感じると、その「記憶」は精子を介して子孫に伝えられる――。マウスを使った実験で、個体の経験が遺伝的に後の世代に引き継がれる現象が明らかになった。米国の研究チームが科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス電子版に発表した。」

これは驚きました。その結果もそうですが、それが証明されていなかったということにもです。実用性がなく研究されなかったのでしょうか。

「本能」と我々が呼んでいるものは遺伝しています。いや、逆ですね。遺伝する(先天的に備わった)能力や個性的行動を我々は「本能」と大雑把に呼んでしまっているのです。例えば馬の子は生れ落ちるとすぐ立ち上がって歩こうとします。猫の子は鼠を捕る練習行動をすぐ始めます。どちらも、母親が教えている光景を見た者はいないでしょう。

記憶と言うのは、その個体だけの固有のものと我々は教わってきました。しかし、「恐怖の記憶遺伝説」が出てくるとこう考えられるかもしれません。例えば猫は足が濡れるのを嫌います。それはこういう経緯で「本能化」したのではないでしょうか。

1.太古の昔に猫の先祖は水辺にいた

2.多くが水難で死んだ

3.「足が濡れた」という恐怖の記憶が生存者の精子に書かれた

4.それが遺伝した子孫は水を恐れて内陸へ移動した

5.内陸が生存に適していたのでその子孫が増えた

6.その結果、そのまた子孫たちが猫という種を形成した

7.その記憶に基づく行動が水に濡れるのを嫌う「猫の本能」になった

そうであれば次に、

精子を介して子孫に伝わるのは恐怖の記憶だけなんだろうか?

という疑問が生じます。「鼠捕りの練習」はどうでしょう?これは恐怖の記憶ではありません。むしろ「快楽の記憶」です。それが上達すれば食糧確保が楽にできるのだから生存に有利でした。1~7と同じ経過で、太古の昔にある猫がその動作練習で「鼠捕りの名人」になり、彼だけの記憶にすぎなかったものが精子を通して子孫に伝わってその子孫が繁栄したと考えていけない点があるのかどうか?

そうであるなら「恐怖の記憶遺伝」も「快楽の記憶遺伝」も精子内ではDNAの書き換えという同じ現象であり、前者は「本能」そして後者は「嗜好」と呼ばれているものの正体なのではないか、というのが僕の仮説です。つまり、

楽しみや喜びの記憶も「嗜好」となって精子を経由して遺伝するのではないか?

ということです。この真偽をどなたか科学的に証明していただけないか楽しみに待ちたいと思います。それが難しいことは直観的に理解しています。冒頭に

それが証明されていなかったということ

に驚いたと述べました。遺伝子への書き込みがあったと結論するに足る統計的に有意な結果を導くには「恐怖」という大きなショックが必要だったのでしょうから、「楽しみ」「喜び」という「小さいショック」でそれを科学的に結論付けるのはさらに困難だと推察します。しかし、人間という微細な知性が証明という方法でそれを知ろうが知るまいが、神の書いたプログラムはそうなっているに違いない。僕は固くそう信じています。

 遺伝子の記憶

 遺伝子の記憶 Ⅲ

 

Categories:______サイエンス, 徒然に

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