ハチャトリアン 「剣の舞」
2026 APR 18 12:12:39 pm by 東 賢太郎
僕の半世紀にわたるクラシック遍歴はユーチューブにアップしたこの1枚のレコードから始まりました。
いきなり襲いかかってきた凶暴な音楽に一撃でぶちのめされ、それまでは女のやるもんだと思い込んでたクラシックのイメージが粉々に砕け散りました。それが「剣の舞」でした。自分にとってはビッグバンみたいなものだった歴史的な音がこうして聞ける。まさにレコードです。父に欲しいとねだったのはボロディンだったんですがこんなことになろうとは・・・
ハチャトリアンのスコアはPetrucchiにありません。でもシンセでつくった記憶がある。おかしいなと本棚を探してみると日本楽譜出版社のガイーヌ第1組曲がありました。第1曲「剣の舞」の冒頭余白に17Nov91~と書き込みがありこれはロンドンから帰国してドイツに赴任するまで東京本社にいた時になります。のめり込んでいたのがわかります。完成は24Apr94でフランクフルトです。スコアを全部弾くのに2年5か月かかってます。仕事しながらなので。
そのころ第2組曲のスコアを買ってます。印字はロシア語でMockba(モスクワ)1970とあり、”SOVIET COMPOSER” と国家管理を明記され、下の方に「ドイツ連邦共和国とスカンジナビアの版権をハンス・シコルスキー音楽出版社に与える」許可印が押してあります。これが必要なのでストラヴィンスキーは西側で印税を得るために1911年に「火の鳥」の組曲版を作ったのです。
剣の舞。今でも血沸き肉躍る名曲です。どうしても自分で演奏したかったんです。ところが2分半ぐらいの曲なのに録音は難儀でした。中間部でアルトサックスとチェロのソロが妖艶なメロディを奏でますが、4拍子がここは3拍子になり、ティンパニは4拍子音型のままであり拍子の頭がわからなくなってきて、裏打ちリズムのタンバリンと弦を何度もやり直しました。この曲の命はまさにその「裏打ち」で、追い立てられるような焦燥感を煽られるうちに強烈なビートがだんだん快感になってくる最もロックに近いところにあるクラシックのひとつでしょう。これがウルトラ男性的であるゆえに、中間部の中央アジア的にしなやかで翳りのある女性の出現が猛烈にエロティックで一種の麻薬効果すら帯びている。何百回も聴いてますが飽きることがありません。スコアの見かけは春の祭典そっくりです。この音楽は戦いの場ではなくめでたい結婚式のパーティーの「民俗舞踊の盛大な祝祭」の1曲となっており踊るのはクルド人です。
マイバージョンで重視したのは中間部が終わって冒頭に戻る直前のドラムです。スネアとティンパニを凶暴にぶっ叩かないといけない。ほとんどの録音は問題があって不満で、ラザレフやスヴェトラーノフは強烈ですがスコアを変えている。ゲルギエフは最速だがやりすぎ。オーマンディは意外にダサい。パーヴォ・イェルビ指揮フランス放送響は都会的に洗練された優れた演奏ですが野性味に欠け僕には物足りません。さすがなのは作曲者がウィーンフィルを振ったこの演奏です。オケはこなれてませんが重量感は魅力(ロンドン響との旧盤は2分32秒のテンポで冴えません)。
ちなみに冒頭にご紹介したアーサー・フィードラー指揮ボストンポップス盤は問題個所も秀逸で文句なし。こういうホンモノで入門するのは大事と思います。フィードラーは作曲家の解釈を尊重しており、演奏は2分20秒と1秒遅いだけ。ボストン・シンフォニーホールの音響も最高です。
次のも2分20秒。ピエール・カオ指揮ルクセンブルグ放送交響楽団の演奏です。こちらは問題箇所のパンチはもう少し欲しいですがビートの推進力が抜群に素晴らしい。このルクセンブルグの指揮者をご存知の方はほとんどおられないと思いますが、ルイ・ド・フロマンのアシスタントでキャリアを積み、だいぶ昔ですがアメリカでブラームス3番の廉価カセットを買って印象に残っています。
次もいい、問題個所はスコア通りこうこなくては。エフレム・クルツ指揮ニューヨーク・フィル、1947年の録音。同楽団初演が前年だからアメリカ人がこの曲を初めて聞いたあたりの演奏です。
次はアルメニア国立アカデミーバレエ団がサンクトペテルブルクのマリンスキー劇場で演じたもの。最後にテンポを落としますが、作曲者は結尾をディミニュエンドにしたかったと語っているのでこれもありでしょうか。いやド迫力です。これが観られるなら行きたいですね。
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