『黒猫フクの人生観』 (第十三話)
2026 APR 23 11:11:14 am by 東 賢太郎
天国にありとあらゆる動物がいることは説明したよね。人間だってそうさ。みんなスクリーンで地球を見てるんだ、だってあの人どうなってるかなってみんな気になってるんだよ。どこでも好きな所を見れるし、みんな魂さんだからどんな言葉でもわかっちゃうし、僕だって何語でもいけるよ。でも、主人のブログをハイジャックしてるからここは日本語だ、じゃないとすぐバレちゃうからね。
この前、主人の会社に来たお客さんがたまたまいいタイミングで言ったもんだ、「東さん、東大っぽくないですね」。これいちばんの褒め言葉でね、これさえ言っとけば機嫌いいってやつなんだ。「だって俺は成城学園初等科育ちだからさ、黒澤明、 三船敏郎、芥川龍之介の子供や孫と一緒だったし岩崎宏美もいたしね」。なんせこれが自慢なんだ。母上のおうちは落ちぶれ貴族みたいなもんでこういうサークルが好きだったから幼稚園から成城に入れたんだ、いとこたちも劇団四季や集英社にいたり芸能っぽい。するとお客さん、エンタメ業界で知られた人で「僕ね、アビイロード録音したスタジオ丸ごと買ったんですよ、楽器ごとね」と聞き捨てならない事をのたまう。「何?ビートルズの?」「もちろん」。
ここから話は大変なことになって、お客さん「映画のスコア書いてロンドンフィルハーモニー指揮して録音しました」なんてクラシックに飛んだからいけない。お客さんのアシスタントの女性もオケのバイオリンで「チャイコの4番サイコーです」なんていうもんだから「あなたね、あの第1楽章、難しかったでしょ」「そうなんです、パートで何回も合わせました」「あれ書いた時ね、ホモのチャイコフスキーは無理やり女性と結婚させられて自殺未遂してる。狂ってたの。1拍目が欠けてるリズムがだんだん夢遊病みたいになってね、2拍目がそう聞こえてくるように書いて最後に現実に戻してビックリさせて、ミステリー作家がトリック仕掛けてるみたいなもんだよ」。するとお客さん、いきなり「東さん分解ずきでしょ」ときた。これがまた図星で「きみよくわかるね、そうなんだよ、子供の時から何でも分解しちゃう」なんてところにいく。
でもお客さん、ヨタ話に来たわけじゃないんだ、ひょっとして大きいビジネスになるかもしれないネタ探ってるんだ。主人はクリエイターじゃない。なりたかったけど才能ないって分かってる。「俺ね、仕事じゃ人にも厳しいかもしんないけど自分にはもっと厳しいんだ。作曲したり人前でピアノ弾いたりなんてことはしない、だってお前みっともないからそれだけはするなよって声がきこえるんだ」。うーん、そう自分に厳しいように見えんけど本人その気なんだよね。映画やエンタメのプロデューサーやクリエイターしてるお客さんがうらやましい。それができなくてこうなっちまったって悔しいんだ。それは二つあって野球もそう。いまロッテの監督してるサブローさんが来た時もおんなじだ。どっちものっけから無理って思うけどね。
「金融ビジネスなんて誰でもできます。才能なんか全くいらない。こんなのでエリートヅラこいてる業界でね、真面目しか取り柄ないから人間として面白くも何ともない」。よく言うよね、そういう自分は変な奴だと思われてたんだ。お客さん、ついて行けなくなったとみえ、一応のお世辞で逃げたもんだ。「いえいえ、そんなことない、難しいお仕事です」。主人はお世辞はわかってないけど本気でそう思ってるから引かない。「いやいやあなたも確実にできます、俺なんかね、音楽のついでに仕事してたみたいなもんですよ」。「まさかそれはないでしょう、だからそういうポストにつかれたんで」。主人はそれが不服とみえる。たしかに留学中に「東においては音楽がすべてに優先する」と格言になってたのはほんとうなんだ。勉強ほっぱらかしてチェロ習ってたなんてあそこの学生にゃびっくりだったからね。
「いいですか?クリエイティブな人間はみんな面白いんです。みんな変な奴です。真面目が取り柄の人の作品が面白いわけないでしょ?チャイコの4番、大いに結構。ジョン・レノンがクスリでさらにぶっ飛んでストロベリーフィールズフォーエバー。ベルリオーズも間違いなくやってましたね、でも、学者や評論家ってそんな事は口が裂けても言えないんです。僕はモーツァルトは女房を孕まされた裁判所の役人が怒って棒で頭を殴ったのが原因で死んだっていうイタリア人の説を信じてますよ。でも世界のモーツァルティアンなる敬虔な信者さんたちはそんな説は汚らわしいって抹殺しちゃう。だから人間臭さがきれいさっぱり洗い流されてね、ピュアが売り物のミネラルウォーターみたいなモーツァルトが世界中で流れてる。こうやって文化は破壊されていくんです」。まあこの人が文化の心配までしなくっていいんじゃないのと僕は思っちゃうんだけどね。
「うちの映画、観てください、ネトフリにあるんで」「なんてやつ?あぁそう知らないな」「ド派手じゃなくちょっと人間模様が深めなんで」「ああいいね、好みですよそういうの」「パラサイト観ましたか?」「韓国の?もちろんもちろん、面白かったね」「ああいう感じで」。お客さんのハリウッド人脈、半端じゃない、ビジネスが一緒にできそうかって、わからないけど「今日はお互いに素のままでどういう人間かわかったからよかった、うれしいですよありがとう。けっこう似たもの同士な気もしてます」。これはめったに言わない、お世辞ない人間だから。「そうですね」「今度アビイロードの楽器なんか見せてね、俺、あれとサージャントペッパーズは耳コピなんで。でもアビイロードのほうがちょっとだけ好きかなってとこで」。ここからビジネスをどうやって創るか、これが主人にとってのクリエイティブなんだろうね、僕はついてけないけどね。
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