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シューベルトの天才を微分する

2016 JUN 8 1:01:12 am by 東 賢太郎

TVの画像は1秒間に30フレームあるから動いて見える。人間は1フレームごとには見えないが、その23フレーム目に何があるとどう視覚効果に変化があるか、という種の研究をパリのIRI研究所 (ポンピドゥーセンター)がしているときいた。非常に関心がある。

僕の音楽の聴き方はそれに似ていて、微細な時間単位での音響変化による人間心理への影響分析を自分の心で実験しながら聴いているところがある。和声法とか対位法というのはその変化を切り取って一定の観点から法則化したもので作曲には必要だが僕の関心とは別のディメンションの理屈だ。

同じくポンピドゥーセンターにIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)という組織がある。パリのイゴール・ストラヴィンスキー広場にあって、1月に亡くなったピエール・ブーレーズが所長だった。彼は音列の技法に可変性、偶然性(Aleatoricism)を取り込んだが偶然としながらフレームワークは支配されるべきとした。

ブーレーズは、僕の解釈だが、「支配された偶然」と共に「音楽の微分」を志向した。IRCAMのライブ・エレクトロニクスとヴァイオリンを合奏させたこの作品はその例だろう。人間の手による楽器演奏で追えない時間単位を実現するには電子楽器が必要だったと思われる。

Anthèmes 2, for violin and electronics (1997)

かように音楽を時間で微分する着想は、僕の知る限りドビッシーの交響詩「海」の第2楽章が開祖である。この作品はその細分化されたエレメントが再度複合されて、つまり積分されて、面積、質量をもった総体として人間を感動させる。我々はその積分の効果を心で感知して「音楽を聴いた」と思っている。「海」第2楽章を微分してエレメントの性質(数学なら接線の傾き)を解明するのは大変に興味深い。

その観点でこのシューベルトの「アヴェ・マリア」を聴く。こちらは原調(変ロ長調)である。

こちらは全音高いハ長調だ。

僕の心として、まずこの曲は清楚な女声かボーイソプラノでないとだめだ。男声版もあるがまったく論外であり、楽器版も10秒も聴く気がしない。しかし全音のピッチの差はそこまでは気にならない。どうしてだろう?

この結果が何か、何の要因によって僕にそう思わせたかというのが論点だ。楽譜を一見しても答えはないように思われる。しかし、デジタル的、ゼローイチ思考で楽譜情報のみから僕の心の結論を解明できるなら、それは発展する理論体系になる可能性がある。

そこでは和声法、対位法は完全に無力だろう。既存の音楽理論はディメンションが違うと上述したのはそういうことだ。微分かもしれない。それも対象は音の変化、その率、波形かもしれないが、今のところ僕には何ら検証のすべはない。

この解析からシューベルトの天才の要素が知れるなら面白い研究になると考えている。

 

 

 

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Categories:______シューベルト, クラシック音楽

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