国民栄誉賞の謎
2013 MAY 6 17:17:31 pm by 東 賢太郎
本賞は、1977年(昭和52年)8月30日に内閣総理大臣決定された国民栄誉賞表彰規程に基づいており、その目的は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」と規定されている。
福田首相(当時)がホームラン世界記録を達成した王貞治に与えるために作った賞らしい。公開されている授与基準の他に、「これまで功績を積み重ねてきた上に、さらに歴史を塗り替える、突き抜けるような功績をあげた」という「暗黙の了解」を満たしていることも必要だそうだ。
よくわからないのは、今回の長嶋、松井のダブル受賞ではない。なぜ長嶋が受賞していなかったか、である。王は世界記録だったから?では美空ひばりや渥美清は何の記録をうちたてたのか?スポーツは別なのだろうか。たしかに柔道の山下、高橋尚子、なでしこ、吉田沙保里は金メダリスト、衣笠は連続試合出場の世界新記録達成者だし、相撲の大鵬は大相撲史上最多となる32回の幕内優勝、千代の富士は通算勝ち星最高記録更新と業界最高記録更新者だ。しかし、だ。仮にそうであるなら、世界はおろか業界でも歴史を塗り替えるほどの記録がない長嶋が今回なぜ受賞したのだろう?
最初っから、政治家がその人気にあやかる目的は見え見えなのでいい。しかしこういうロジックが通らない解釈は法学部卒としては目覚めが悪い。何で長嶋じゃなくて王が・・・と長年やはり寝覚めが悪かった人たちが日・米MVP受賞で歴史を塗り替えた松井との師弟美談をネタに仕組み、安倍首相とナベツネ巨人軍がのっかったのかもしれない。いずれにせよ、この瞬間、ロジックはなくなったということだ。
ところが探してみると意外なことがわかる。長嶋の通算守備率.965は三塁手プロ野球歴代1位である。1000回球が飛んできてエラーは35回しかなかったということだ。これは4200守備機会以上という最もサンプル数の多いデータにおいて名手の誉れ高いヤクルトの宮本慎也より上ということなのだから、史上最高の三塁手は長嶋茂雄であるといって誰も文句はない。これでロジックは守られるのではないか。
いや、ちがう。
長嶋さんは始球式で松井の投げた内角高めのボールを「打ちに行った」。とても ”らしい”。あれを見て思い出したのは、大洋のエース平松の伝家の宝刀カミソリシュートがすっぽぬけて顔のあたりに行き、一瞬球場が凍りついたシーン。ところが彼はのけぞって倒れながらバットを振っていて、ボールを見るとレフトポール際へホームランだったあの仰天シーンだ。強烈な印象だった。あんなことをした、いやできたバッターは後にも先にも彼しかいない。歴史を塗り替えた人だ。
もうひとつ。いつだったか忘れたがTV番組でONが宮里藍ちゃんにゴルフでチャレンジというものだ。目の前の3メートルぐらいの高さの段の上にサンドウエッジでボールを打ち上げて止めるというもの。長嶋さんはまぐれでも一発で決め、藍ちゃんは数回やって失敗。そのあとのONメンコ対決もNの圧勝。TVで見る長嶋さんは本当に強かった。勝負というものは全部強い人。国民は強い英雄を求めている。敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績とはこのことだろう。
ロジックが通用しない人、長嶋茂雄の国民栄誉賞。納得です。
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花崎 洋 / 花崎 朋子
5/7/2013 | 7:16 AM Permalink
ロジックが通用しない人! そうですね。長島茂雄は、本当に不思議な魅力を持つ選手でした。「匠」、「職人」、どちらも言葉も当てはまらない。既成の枠には到底収まり切れない、「何か」を持っている人なのでしょう。
花崎洋
中島 龍之
5/7/2013 | 10:59 AM Permalink
長嶋さん、まだ貰ってなかったの、というのが今回の感想です。東さんの「ロジックの通用しない男に、ロジックのない選考基準で国民栄誉賞授与」、というのが面白かったですが、意外にNO1の実績もあったのですね。
東 賢太郎
5/7/2013 | 1:27 PM Permalink
カープは散々巨人にやられましたが不思議と長嶋は好きでした。監督になってメークドラマが流行りましたが、彼自身がドラマみたいな人でしたね。