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ベンチャーズ 「キャラヴァン」は凄い

2015 MAY 9 17:17:23 pm by 東 賢太郎

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和泉多摩川にいた昭和30年代は小田急のロマンスカーはこの型で、オルゴールをならして(!)走っていた時代です。ただこれはあんまり好きでなくもっぱら通勤電車マニアで、ブレーキの摩擦で多摩川のガード下に落ちる鉄片を収集してました。

 

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こんな型の電車がまだ走っていました(Wikipediaより)。幼稚園のころ真ん中についている終点駅表示ボックスを自作し、割箸でくるくる巻き取ると行き先が変わるようにして自転車の前につけ、レール音の口真似をしながら友達と「電車ごっこ」してました。

 

出発前に大声でアナウンスをするわけですが、「向ヶ丘遊園を出ますと、相模大野、本厚木、伊勢原、鶴巻温泉、大秦野、渋沢、新松田、終点・小田原の順に停車いたします」が小田原行のアナウンスで、箱根湯本行だと風祭、入生田が入ります。まだスラスラいえます。

そこから数年で、小学校へ入って、次に関心が移ったもの、あそこに行った以上どうしてもベンチャーズを書いておきたくなります。何から聴いたのか、たぶんウォーク・ドント・ランだったでしょうが、衝撃的だったのはこれでした。一度書きましたが今回は音を聞いて思い出していただいて、もう少し詳しく。

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これはLPからのピックアップですが名盤で、4曲ともハマったのですがキャラヴァンのインパクトは強烈でした。ドラムのスティックだけ買ってもらい、音色が変わるように厚さのちがう本を並べてメル・テイラーのリズムよろしく叩きまくりました。アパッチは今思うとクラシックのテーストを植えつけてくれた曲かもしれません。

 

 

キャラヴァンです。これは上のEP盤をさらにドーナツ盤にカットしたものですね。

こういうものにややこしい事を書いて申しわけないのですが本ブログの悪癖ということでご辛抱ください。

まずノーキー・エドワーズのリード。早弾きもすごいのですがトレモロアームも控えめで実に音楽的。クラシック的にいうと「歌っている弦」であります。冒頭、シンバルの一撃から襲いかかるメルのドラムスのタムタムの2種の音色のカッコよさ!もう脳天直撃モノであります。バチさばきのワザに当時の日本人は驚嘆したのですが実はそれだけじゃない。ソロの途中で乱れ打ちみたいになってリズムがわからなくなるのですが、ちゃーんと4拍子を守っている均整も美しい!達人の芸です。

このタムタム、ひとつひとつの打撃音自体がばりばりにテンションが高いじゃないですか。こういうドラムヘッドの張りかたを選んだことだけでもメル・テイラーは凄い。これはブーレーズが春の祭典でバスドラムの皮を「ゆるめ」に張っているのに匹敵する快挙で、理屈じゃなく、どうしてそんなことができちゃうの?と驚くしかないセンスの良さです。これの刷り込みがあったから春の祭典にはまったことを確信します

さらにこの曲のアンサンブルとしての凄い所は2つあります。ノーキーのリードとボブのベースのからみがその1、そしてさらに重要なのが右チャンネルのメルのドラムスと左チャンネルのドンのサイドギターの後打ちリズムのキザミが絶妙にコラボしていることがその2です。この2ユニットのアンサンブルが複合してゴージャスなリズムの饗宴となっています。これもクラシックならポリリズムを予見させるハイクオリティです。

特に後者(その2)は何度聴いても音楽的に最高級!素晴らしいの一言!これがあるから精緻かつ灼熱のカルテットとなっているのです。youtubeで多くのアマチュアバンドさんがコピーされていていくつかききましたが皆さんいいノリですね、でもサイドが伴奏になってしまっているのが多いです。むしろ主役です。これを意識すればもっと「らしく」なること請け合いですよ。

このスタジオ録音があまりに完成度が高く、ベンチャーズはライブのアンコールでいつもこの曲をやるのですが2度とこのハイレベルな演奏はできていません。時と共にスティックでベースの弦をたたくなどなどショー化していく傾向があり、それに比例して音楽性が低下していく様は彼らの米国での人気凋落を物語って悲しいものがありました。それはメルの死で決定的となりましたが。

この録音、テンポは後年のライブに比べると一番遅いのですが非常にテンションと密度が高く、遅いという感じが全くしません。そういう音楽はジャンルを問わず、例外なく、レベルが高いです。各楽器の発するオーラとリズムのキレは一点非の打ちどころもなく、僕の耳はブーレーズのストラヴィンスキーを聴く状態になります。

2度目のサビの後ノーキーがほんの微小に指が回らず音がぶれるのまで覚えてしまっているので、これと違うバージョンは受け入れ難くなってしまっています。ポップスはクラシックの世界でいうスコアがありませんが、こういう決定的な録音に記録した音がそれの役目になってしまいます。

ビートルズがライブしなく(できなく?)なっていった一因はそこにあるかもしれません。そういう録音というものは、アビイ・ロードの稿でも書きましたが、それこそが字義どおりの意味におけるクラシック音楽であると思います。

ところでキャラヴァンの原曲は「A列車で行こう」のデューク・エリントンの作曲でジャズのスタンダードナンバーであるなんてことはちっとも知らず、これがそうだそうです。

この真っ黒い音響世界、けだるく怪しいメロディーラインと不可解な和声、それにからむトロンボーンとクラリネットとピアノという突飛な組み合わせ。米国に来た黒人がまず西洋音楽を聴き、それを彼らの感性フィルターを通したところにジャズが生まれたわけですが、う~ん奥深いですね。

そして今度は西洋人がそれをアレンジする。この世界、僕はまったく語る資格ありませんが、チェロキー族(インディアン)の血をひくノーキー・エドワーズのギターヒーローであった(Wikipedia)チェット・アトキンスとレス・ポールの演奏があります。

サビのコード進行、リズムのアクセントなど、ベンチャーズ版の原点はこれのように聞こえますが、ドラムスの野蛮と洗練、クリスピーなサイドギターのピッキングとリズムのエッジ、ノーキーの軽々とした歌い回し、というトッピングはやはり強烈な個性!やっぱり僕にとってはベンチャーズが永遠のヒーローです。

(こちらもどうぞ)

ベンチャーズ 「アパッチ」

ベンチャーズ 「10番街の殺人」

ベンチャーズとクラシック

再録「クラシックとベンチャーズ」

 

 

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