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カール・オルフ 世俗カンタータ 「カルミナ・ブラーナ」

2016 APR 9 7:07:11 am by 東 賢太郎

a0057280_1505056カール・オルフ(1895-1982)はミュンヘン生まれのドイツ人作曲家ですが器楽曲はほとんど書いていません。音楽史の系譜でどこにいるのか、未だに僕はよくわかりませんし先人も後継者も不明。「フーガやソナタといった純音楽を書くことは不可能」として劇場音楽に専念した人です。「音楽と動きの教育」の理念を持った人で教育者でした。

子供もできる動き(リズム)と音楽の融合の理念を持っていて、というと確かにフーガやソナタとは遠いですね。シンプルでリズミックで同じ音型のくりかえしが多い曲になります。しかも劇場音楽だから歌がついてくるし、歌詞も小難しいものでなく人間の原初的なもの。頭でなく体で感じる音楽。そこが現代のロックに通じる要素の根っこかもしれません。

僕はドイツに住んでいてドイツ人に囲まれて仕事をして、なんともいえぬ「規律正しさ」を感じました。ドイツのイメージとしてあたりまえのようですが、日本人のように道徳観とか社会常識としてのそれよりも動きや行動様式の規律ですね。もっと人間の性質、本能としてのメカニックな律動があって、たとえば体操選手が体型も性格もちがうけど演技ではみな同じ動きになる、ああいう感じです。

やや危険なことを覚悟で書きますが、政治的意図は皆無なのでご容赦お願いしたい。ナチスが出現しやすい国民性がそこにあったかもしれない。現代のドイツ人はそれを了解し、戦後の困難を乗り越えましたが、その復興プロセスにもその特質は発揮されたわけであり経済的にちゃんと強い国になっている。

オルフの音楽の本質にこのドイツ的なものがあることは大いに感じます。カルミナ・ブラーナの解釈にはその立脚点がオリジナルであることも。しかしそれをわかったのははるか後年であり、大学時代に強烈な洗礼を受けたこの曲は僕にとって格好いいロックであり、ビートルズとクラシックを橋渡しする重要な存在でした。

d36c411a-f568-40ba-a779-3c645fc8f25eなんといっても、この曲はあらゆるクラシック音楽の中でも最も麻薬的なものを含むと断言してしまいたい要素に満ち満ちています。空想する限りの媚薬、向精神薬、抗うつ薬、麻酔薬みたいなものが混然となって、あなたの疲れた頭も体も癒し、場合によってはぐにゃぐにゃにほぐしてくれ、最後はちゃんと元気にしてくれます(右は魔力にハマって買ってしまったショット社のピアノ版スコアです)。

ラテン語、中高ドイツ語の歌詞がついてます。11~13世紀の学生や修道僧が書いた詩歌集で、まじめに考えたら大間違い。若者の怒り、恋愛、酒、セックス、パロディなどてんこもりで、わが国における落首のお下劣版のイメージですね。ローマやポンペイの遺跡の壁画のセックス表現も凄いがこちらも大変にストレートにエッチであり、それが修道院から発見されてしまうところがまさに人間くさい。いつの世も人間は変わらんことを納得させてくれます。

この曲にはカトゥリ・カルミナなる姉妹曲がありますが、そっちにいたってはポルノ小説でもここまでやると発禁だわなという超絶ド迫力であり、皆さまのお上品なクラシック音楽のイメージを粉々に打ち砕いてくれるでしょう。とてもここには書けませんのでご関心ある方はぜひ検索してみて下さい。

この性的なものにあけっぴろげというのもなんともドイツ人で、サウナやバート(公衆浴場)に行くと堂々たる混浴でびっくりします。もちろん素っ裸で若い女性も平然と闊歩。目のやり場どころかこっちがあせる。これはドイツ人だけスケベだというのでなく、立派な文化です。でもこれを目撃するとアングロサクソン人やラテン人とドイツ人が混じり合うなんてありえねえ、ユーロはやっぱり仮想通貨だなと思う僕なりの人間の根源的瞬間でもあるんですね。

ともあれラテン語、中高ドイツ語ですからわけがわかりません。ヤマモレ ビギナリ トトサレオーとかアッター レンコン  スミレーとかきこえて時に日本語回路を刺激することはあるのですが基本的に僕にはどうでもいいことを歌ってるのであって無視。とにかく音楽の鮮烈な素晴らしさだけで1時間があっという間にたつのです。

本郷に進学した4月に初めて買ったマイケル・ティルソン・トーマス盤がロックにシャープなエッジの立ったジャズを混ぜたみたいな快演で、あまりのカッコよさに脳天がしびれました。これをカビの生えたようなクラシックのイメージで聴くことなどまったくもってナンセンスですね。これは聴くというより「体験」するしかない、僕が精神的に大人になる通過儀礼みたいなもんでした。

同じほど素晴らしいのが我が小澤征爾さんが若かりし頃(89年)にベルリン・フィルを振った、ベルリン・フィルハーモニー・ホールでのジルヴェスター(大晦日)コンサート。冒頭の誰でも知ってる『おお、運命の女神よ O Fortuna(オー・フォルトゥーナ)』、主部が遅くてがっかりのが多いですがこの速さですね、これしかない。ソプラノのキャスリーン・バトル、まさしく素晴らしい!2曲のソロ、僕が知る限り、最高の歌唱であります!

そしてこの指揮、すごいです。天下のBPOを振り回してる。振らせてもらっただけで満足みたいなのが多い日本人。甲子園に出れただけで幸せですなんて1回戦で負けてくるチームみたいだ。小物ですね。そもそも指揮者で小物なんてのは定義矛盾だと思うのです、悪いけど。

小澤さんはやりたいことやりまくってます。甲子園、出るのは当たり前で初戦から優勝狙ってますね。それがオーラになってオケにびんびん伝わってるからベルリン・フィルが本気モードになってる。今日は気が乗らねえな、日本の金づるのお客さん指揮者におつきあいだ、早く終わって焼肉食おうぜみたいなのとちがいますね。だから出てくる音楽がホンモノだ。

彼がボストン交響楽団の常任指揮者になったのって、日本人がIBMやアップルの社長になったみたいなもんなんです。それだけでもすごいのにそれを29年もやった。オケ団員じゃないんです、マネジメントですからね、天と地ぐらい格が違う。我が国として業界を問わず歴代筆頭格の真の意味でワールドクラスの日本人です。ちょっとバーンスタインにかわいがられたとか、彼はホモですからね、そんな連中とわけが違う。

さてカルミナですが、全部いい曲で困りますが、僕は21番のIn trutina 「天秤棒に心をかけて」(ソプラノ独唱)(上掲ビデオの51分43秒から)が大好きです。体じゅうがとろけますね。22番の子どものオーオーオーもかわいいし木魚みたいにポコポコ鳴る打楽器がくせになります。23番の Dilcissime「とても、いとしいお方(ソプラノ独唱)」のソプラノがこれまたしびれるんです。このバトルの声はエクスタシーみたいなものをくれますね。そしてその次、BLANZIFLOR ET HELENA(白い花とヘレナ )の合唱、これはピアノで弾くのが最高なんです。快感ですね。

youtubeにすごいのがありました。僕がファンである名ソプラノ、故ルチア・ポップの歌うIn trutina です。紅白の小林幸子じゃありません。

ついでに23番の Dilcissimeもいっちゃいましょう。

まあ、ドイツ人にとってもこういう歌だということですね。ご記憶に焼きついたのでは。

という感じでこれを聴くのは僕にとってロックやポップスと同じ。次々と新しいナンバーが出てくるというのもアビイ・ロードやサージャント・ペッパーズを聴いてるのと何ら変わりません。それも一度ハマルると常習性はずっと高いです、なんせ1時間のヴォリュームありますからね性質悪いですよ、ちょっとやそっとじゃ抜け出せなくなるからご注意を。

 

マイケル・ティルソン・トーマス / クリーヴランド管弦楽団

carmina最高に鮮烈、痛烈な快演です。僕はこのLPで曲を覚えたので後から聴いた作曲家お墨付きのヨッフム盤がダサくて笑ってしまった。ドイツ保守本流?カンタータの流儀?文科省推薦と同じぐらいどーでもいいですわ、そんなの。権威主義の評論家のジイさんたちがヨッフムばかりほめるんでアンチテーゼのこれは冷や飯っぽくなりましたが、とんでもないです。この曲のリズムと和声の妖しい魔力をシャープにえぐり出してロックにしてしまったMTトーマスの瑞々しくてしなやかな感性は天才的。これとボストンSO(DG盤)の春の祭典は彼の最高傑作です。ちなみにこれはCDも買ってみましたがどうも録音レベルが低く、音量を上げると音質が落ちるという困ったものでした。もっとまじめに作れといいたい。LPは最高ですがSACDなどまともなフォーマットでの名演の復活をのぞみます。これは大学時代に買ったLPから録音したものです。

 

レオポルド・ストコフスキー / ヒューストン交響楽団

41NE9T06D1LMTトーマス盤の切れ味も精緻もないゆるいオケですが、歌が合唱がとても前面に出てサ行の発音が団員個人レベルまでよく聞こえ(!)低音楽器とティンパニはひっこんであんまり聞こえず、高音楽器は高感度で聞こえる、というかなり妙ちくりんな録音バランスにおいて「そそる」ものがあります。Full Dimensional Soundとうたった58年当時のEMI自慢のハイファイ録音方式のご利益でしょうかとにかくいろんな楽器がきこえるんですね。O Fortunaの「na」の短い切り方、軽めで速い感じからしてあっさりしてて、伴奏のピッチカートや高いクラリネットが聴こえるのがいい。胃にもたれないサラサラ系ですね。オーオーオーのポコポコの音は魅力的だなあ。ストコフスキーはカラフルな味つけがうまいんです。名人ですね。歌はうまくはないですがなんとも人間味があって曲に合ってます。この曲に飽きた人のお口直しにおすすめ。

 

クルト・アイヒホルン / ミュンヘン放送管弦楽団

720ドイツに敬意を表しあげておきます。まさにドイツ人らしい。腰の重い管弦楽、走り出すと止まらない重戦車のような質量と頑固さをもったリズム。これを僕は大学時代に下宿でFM放送からカセットに録音し、数えきれないほど聴いた、トーマス盤と並んで心のふるさと的存在であります。ルチア・ポップとヘルマン・プライの起用もあたっており、合唱も含めて歌の音圧がアンサンブルの基盤にあるのは、これがロックでなくカンタータであり、ベートーベンの第九に近いのだということを教わります。名曲は多面的で奥が深いものです。

 

(こちらへどうぞ)

モーツァルトはポール・マッカートニーである

 

 

 
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