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失敗の記憶は少なめに

2017 DEC 6 1:01:22 am by 東 賢太郎

松山英樹のパットが入らないらしい。そんなときはやらないに限るが、プロはそうはいかない。勝負事はここ一番で決まるが、そこで勝てるかどうかは自分を信じられるかどうかだと思う。

入らないというのは失敗体験だ。失敗は成功の母というし若いうちは失敗の方が学ぶことが多いと思うが、反射神経の領域では必ずしもそうではない。意図してコントロールできない「微小な時間内の出来事」だからで、意図と違う結果が何度も出ると人はだんだん意図の方を疑うようになってしまう。そういう場面で自分を信じない自分が心に棲みついてしまうのだ。

香港でのことだ。当時、ハンディ8とニギリは無敵時代である。ちょうどそのころ始まったマカオ・オープンのトーナメント・コースであるマカオ・ゴルフ・クラブで社内コンペがあって、やる前から優勝は当然、70台が出るかどうかが唯一の関心事という不遜の余裕だった。ほぼパーオンで7番ホールまで1~2オーバーと悪くなかった。ところが、ピンが傾斜面に切ってあった8番ホールでなんと7パットしてしまう。

1メートルの下りのパーパットが入らず想定外にころがって2メートル先まで行ってしまったのが事の幕開けだった。強めに打った返しがまた上につき、嫌な予感がよぎったらまた同じところに2メートル行き、覚えているのはそこまでだ。最後はフックラインの30センチが入る気がせず、またはずした。人間なところを見せてもらいましたと慰められたが、その後はちゃんと記憶が失せているから人間はよくできたものだ。

僕は決してパットが下手ではない。それがどうしてああなるのか、未だにわからない。あれ以前にも5パットはやっていて、その悪夢がよぎって一時的なイップスにでもなったのだろうか。加えてショットもヘタくそな時期が長すぎた。香港時代はちゃんと芯で打てたが、それ以前にシャンクが怖くて当たらず手が痺れる記憶が多くあって、しばらく遠ざかった今はそっちのイメージが勝っている。

そういうのをクラブのせいにしている時代は下手なままだった。失敗>成功、というスポーツは上達しないと思い至って少し上達した。運動は概してダメな僕にとって唯一そうではなかった野球は打たれない記憶の貯金があって、だから怖がらずできたと思う。ゴルフも頑張ったが、なにせたまった借金が多すぎ、しかもそれをカネと時間をかけて長年作っていたのだから大馬鹿者もいいとこだ。

マカオG.C.で、転勤が決まった最後のコンペで真剣に狙った。悪夢の8番ホールもパーで切り抜け、18番ロングがバーディなら79である。狙い通り3打目ややアゲンストの155ヤードを6番でピン3メートルにつけた。そして自信をこめて放ったバーディ・パットは1センチ前で止まった。グリーンに大の字に寝転がって仰いだ青空はきれいで、どうしてあれほど入っていた勝負パットが入らなくなったんだろうと考えた。香港の最後の一打だった。

僕はゴルフを一度も習ったことがない。完全自己流なのは野球もピアノもいっしょだ。結果こそが先生であって、成功体験の貯金こそが大事なのだ。そう考えると借金だらけのゴルフ、ピアノはもうだめである。失敗体験は勝負事では少ないに越したことはなくて、7パットもしてしまうとここぞの場面でまたやるかと無意識にビビってしまうのだ。

松山はトランプ・安倍とユルフンのゴルフなどやるべきでなかった。彼はグリーン上で他人に支配された経験など皆無だろう。「オーケーあり」はそれだ。そんなゴルフで1発でも気の抜けたパットなどしてしまうと神経の精度が狂って、それが刷り込まれてまずいのがトッププロのレベルではないか。プロの投手が敬遠すると次の初球が危ないのとおんなじのように思う。

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Categories:ゴルフ, 若者に教えたいこと

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