アガサ・クリスティー「雲をつかむ死」
2019 FEB 7 22:22:55 pm by 東 賢太郎
疲れたときのエンタメというと、適度にはいりこめて雑事を忘れられるミステリーになってしまいます。中でもアガサ・クリスティーは軽くていいですね、意外に読んでないのがあって「雲をつかむ死」というのがそうでした。これ以前は「大空の死」と訳されてましたね。
手にしてなかったのはあんまり世評が高くなかったからです。今回、先入観なく読んでみて、まあただのエンタメでしたがそれなりに雑事から心が解放されて目的は達したのでした。クリスティーの人気の秘密はこれでしょう、凡作でもこりゃひどいとは思わない、ちょっとビートルズに似てるかな。
飛行機という密室で堂々と殺人がおこり、いかにロジカルに謎が解かれるかと思って期待しながら、結末はぜんぜんロジカルでない。なんで黄蜂が飛ぶ必要があるんだよなんだこれはとなるのですが、手掛かりの開示や人物描写は一応意味ありげにクリアであって、それに幻惑されてアンフェア感は不思議となく、僕は完全に別の人物が犯人と思ってましたがミスリードでした。犯行の謎解きはおいおいそんなのありかよですが、そこに至る灰色の脳細胞エルキュール・ポアロの推理の追い込みが(内容はわからないのだけれど)確信に満ちている風に見えるものだから、なるほどこんな賢い人がそう言うんだからきっとそうだったんだろうと思わされてしまう。
つまり筆力の勝利ですね、さようでしたか、あんまり考えても当たらない犯人でしたね、犯行の瞬間の描写もね、叙述トリックというかアクロイド事件に近いものでしたねと思うのですが、まあそれなりに楽しんだからいいや、800円でいいpastime(ひまつぶし)ごっつぁんでしたとなりました。当時の飛行機は荷物を客席の後部に積んだのかとか、サーブはスチュワート(男)がしたのかとか、本筋でないことが面白かったですね。
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