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令和の初読書は論語(山田史生教授の本)

2019 MAY 3 1:01:36 am by 東 賢太郎

先日のこと、

物語として読む全訳論語

という題名の立派な本が郵便で届きました。弘前大学教授であられる著者の山田史生先生からで、丁寧なお手紙が同封されていました。「できるなら直接に参上して手づからさしあげたい」と心のこもったお言葉を頂戴し、さっそく全部読ませていただきました。

先生はもしかしてこのブログをご覧になったのでしょうか。

③私の好きな本・ベスト3 (東)

好きな本ベスト1が論語というのも実は僭越というか、僕はあんまり論語的に立派に生きてきたとも思えず、孔子先生にはまっさきに破門されそうな人間です。それに漢文は苦手で、読んだのが全文なのかハイライト版だったのかもわかってなかったのです。味読より乱読する性質(たち)で本を繰り返し読む習慣がありません。だから「座右の書は?」と聞かれると「ありません」とあっさり答えるしかなく、論語は3回ぐらい読んだ数少ない書だから1位にあげたのです。ただし、それも幾つかの名言が好きなだけでそれ以外はピンときておらず、こう書きました。

「こんなのを真面目に暗唱などして守ってたら現代社会で経営などできるはずもないとむしろ否定的です。**界の重鎮などと気取るときにないと格好悪い『座右の銘』のネタ本というところが大方のホンネと推察」

いやこれは考え違いと思い知りました、本書を読ませていただいてそうじゃないよと諭された気分です。論語はビジネスマンのために書かれたわけではないし、先生の書かれるとおり「人生の指南書」として楽しむつきあい方が本来のものであったのです。

読後の感想ですが、4日間オペラハウスに通ってワーグナーのリングを初めて通して聴いた思いです。あれは4つバラバラに楽しめるし、名所だけハイライトでまとめ聴きでもいいのですが、通して味わうと長大な筋とライトモチーフがリアルに見えてきて格別の充実感があります。論語も同様だというのは発見でした。全文二十篇五百九章を通すと、バラバラと思っていたのが存外に体系があり、孔子、弟子の性格や人物までわかって人間くさい面白さも多分にあり、単なる箴言集ではないわけです。まさに人生訓の物語であって別世界の体験。これはぜひ多くの方に味わっていただきたいと思います。

例えば、「音楽にかんして孔子はプロはだしである」(述而13)のに子路の超ヘタクソな演奏にぼやきつつも喜んでいる(先進第11)。こういうところが温もりがあっていいですね。孔子は子路が好きだったんですね。顔淵の死。孔子の号泣。これも深いですね、それを弟子が書くこと自体が。こっちも歳を取ったんでしょう、弟子や諸侯の人間を看て語る言葉がずっしりきました。そういう孔子の礼や気配りに対して「他人の見る目がちがってくるわけじゃない。自分の気持ちがちがってくるのである」(郷党第十9)と註解されたのはまったく同感です。そうありたいものです。

読んでいただくしかないですが、先生の現代語訳はところどころユーモアも交えたエッセイ風で、現代人の眼とやわらかい感性を感じます。若い人も肩がこらずにすいすい読めますから、2~3日もあれば「論語を読破したぞ」と言えてしまう。論語風に書けば「難しいものを説明できない人は凡人、難しいものを難しく説明できる人は賢人、難しいものを易しく説明できる人は超人」と思っておりますが、今回で論語は難しくないと思うようにしていただいたことに敬意を表しますし、それを鏡としてご自身の経験や人生観を投影もされており、正に人生をかけた渾身の作品と思います。ご著書が他にも数多あるようで、アウトプット量の多さも学者の鑑ですね。

お言葉に甘えて手紙の返信は失礼させていただきますが、せめてもの返礼でこのブログをお贈りしたく存じます。

「量が質を生む」(大フーガ と K.546)

令和の初読書が論語読破というのはちょっと誇らしい。おかげさまで少し賢くなった気がしますし、良い記念にもなりました。家族にも読ませます。ありがとうございました。

 

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Categories:読書録

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