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かわいい子は谷に落とせ

2020 OCT 24 18:18:18 pm by 東 賢太郎

先日のソナー10周年昼食会は赤坂のLyla(ライラ)さんのお世話になった。和の素材と伝統の創意あふれるアンサンブルのフレンチは皆が絶賛であり、コロナ対応も万全だった。いい店だ。忘れられない昼食会になり感謝したい。

家では家族が祝ってくれた。10年無事に来られたのも家庭の支えあってこそである。家事はしないし愛想もないしでおよそ良い亭主、父親とはいえないから家族の眼にどんな風に映っているかは知らない。

それがこういうことだった。この日のために10年の歩みをまとめて作ってくれたアルバムの表紙だ。

アルバム

こいつみたいに強いと持ちあげてくれたが、ほんとうは、テレビでライオンの番組ばかり見ているせいだろう。

ところで、

獅子は我が子を千尋の谷に落とす

というがほんとうだろうか。這い上がってきたのだけ育てるというが、獅子とは中国の空想上の動物らしく、アフリカのライオンは実は子煩悩のようだ。本当に谷に落ちた我が子を母ライオンが助けてる写真がネットにある。

この故事は父に教わった気がする。這いあがるかどうかテスト中の子に明かすのも変だしそういうポリシーだったかどうかは疑わしくもあるが、たしかに子どものころ父には勉強を教わったことはおろか、ほとんどほめられた記憶がない。それどころか教えを乞うてもいつも「自分の頭で考えろ」であり「おまえの頭は何のためについているんだ」と説教まで食らうありさまだった。

あれはライオン式だったんだろうと思っていたが実はそうでもなく、高校になって野球や受験がうまくいくと父はほめてくれた。つまり、中学まではほめたくてもほめようがないほど僕が情けない息子だったのだ。小学校では虚弱でずっとクラスで背が前から2番目のチビであり、喧嘩はもちろん腕相撲は女の子より弱く、普通そういう子は勉強ぐらいはできて居場所があるのだがそれもなかった。要するに何をしても偏差値30代の最下層民であったから、どう見てもほめてやるものがなかったにちがいない。体格は仕方ないので勉強しか打つ手はなく、だから「おまえの頭は・・」になったのだ。それをしても中学受験に失敗した息子は谷底から這い上がって来ない子ライオンだった。

そこで傷をなめて救いの手を出さなかった父のお陰で今の僕はある。勉強にも生活態度にも徹底してうるさく、一切の愚痴も手加減も認めてくれなかったが、おまえはやればできるという一点にだけは揺るぎのない信用を感じていた。それを裏切ったらいかんと、最後は気迫でやるっきゃないと思わせる強いものがあった。あれは教育方針という紋切り型の理念のようなものではなく、子煩悩の本能的愛情でもなく、無産階級の子はそうしてやらないと幸せにならないという実戦訓から来たに相違ない。なぜなら17才で戦争となり大学に進めず、成績優秀で銀行には入ったが学歴の厚い壁があった。だから息子にはと、ああなるのは必然の親心だった。あとになって思うことだが、当時の父を誰かに喩えるなら、この人しかいない。まさしく書簡集に見るモーツァルトの父そっくりだ。

先日のこと、焼肉屋で他愛のない話をしていると、娘たちがあることを知らないのに気がついた。帰国子女だからときにそういう事もあると大目に見てきたが、今回はそういうレベルのもんじゃない。「いいか、おまえたち、それね、”くろ” は知らなくても “のい” は微妙だよ。”しろ” なら知ってるよあいつは確実に、そのぐらいのことだぞ」。

しろ先生

散々あれでもないこれでもないとやって、ヒントを2つ3つ出してやっと正解が出た。な~んだ、それなら知ってたよとなる。知ってたじゃないんだ。出てこなきゃ知らないんだ。

「これから呼び捨てはいかん。しろ先生と呼びなさい」

こうして僕は谷に落とす。

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Categories:______日々のこと, (=‘x‘=) ねこ。

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