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ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(12)

2022 MAR 21 18:18:26 pm by 東 賢太郎

ヨハネス・ヴィルトナー / フィルハーモニア・カッソヴィア

シューマンの序曲集(NAXOS)が大いに気に入った指揮者である。元ウィーン・フィルのVn奏者だったようで、そのブログ執筆時はブルックナー9番とウィンナ・ワルツ集ぐらいしか録音が見当たらなかったと記憶している。これを見つけて期待して聴いたが、だめだ。シューマンの稿では「普段着の演奏」を評価したが、オーケストラがここまで弱いと話にならない。ポーランド国立放送交響楽団が素晴らしかったということのようだ(総合点:2)。

 

レナード・バーンスタイン / ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団

バーンスタイン44才の1962年、初のアメリカ生まれの指揮者としてNYPOの音楽監督に就任して4年目の演奏だ。出来栄えはまことに素晴らしい。バーンスタインという人の真髄を知るに彼のハーバード大学における講義は必聴である(youtubeにある)。チョムスキーの言語学におけるPhonology(音韻論)とSyntax(構文)を音楽に当てはめた説明は目から鱗で、この講義は彼が20世紀の知の巨人の一人であることを示す。かような教養の土台の上に、イマジネーションを持った作曲家であり、さらに、傑出したエンターテイナー(指揮者)でもあった。彼の知性はいつも音楽への愛に包まれているので表には見えない。Mov1冒頭の春の陽だまりの暖かさ、第1主題を導く呼吸の深さ、木管に絡むホルンの明滅。すべてが室内楽的に最高のテンポとピッチと技術で提示され、展開部の声部の交叉は綿密だが理屈っぽさはかけらもなく自然だ。Mov2はティンパニの録音レベルが低く、VCのしなやかなフレージング、第2主題の歌は後年のVPO盤(DG)に一歩譲り、結尾のFgがやや先走るという微細なアンサンブルの乱れもあるが、NYPOのホルン・セクションのうまさは半端でなく録音の劣勢を補って余りある。Mov3のObはチャーミングだが弦楽部のテンポ(やや速い)を戻すフレーズなどに若さが感じられなくもない。Mov4のテンポは理想的だ。ティンパニの楔の打ち込みも良く、第2主題は情に溺れないが再現部のそれは感情の深みが出て十分な充足感をもたらす。コーダは減速の深みからTrpの信号まで少々加速するが興奮に煽られることなくTrbの下降音型は冒頭のアレグロであり、そのまま盤石のインテンポで堂々の終結を迎える。若きバーンスタインに指揮台でジャンプしてオケを駆り立てるイメージがあるとしたら誤りだ。知性がコントロールしながらブラームスの許容する範囲の情熱を内部からたぎらせる。バーンスタインはそれをclassically contained(古典的に抑制された)と別なスピーチで述べている。ここに聴く2番の「読み」にうけ狙いの軽薄さの類のものは皆無で、今なお保守派の正道の解釈であり、永遠にそうだろう。後にウィーン・フィルに受け入れられる素地はそこにあったと思われる。(総合点:5)

 

ロリン・マゼール / クリーブランド管弦楽団

1976年録音で僕の大学時代に1-4番が出たがあまり評判にならなかったと記憶している。ベーム初の1-4番がウィーン・フィルでほぼ同時期に出て話題をさらい押されてしまったと思われるが、細部まで貫徹したマゼールの意図を文句なしに秀逸なオケがリアライズした演奏は大変聴きごたえがある。我が国の世評ではマゼールの指揮に「あざとさ」を見る傾向があり、例えばMov2は弦にポルタメントをかけ、終結のティンパニを強めにして暗い谷間をのぞかせ、Mov3は曲想に合わせて微細なテンポの揺らぎを見せるような部分がそうだろう。しかし同じほど美点もあり、オケの透明感は類がなく、終楽章のallegroは快適でTr、ティンパニの合いの手などリズム要素が磨き抜かれ、当時はとてもモダンな解釈であった。Mov4コーダはバーンスタイン同様に最後の二分音符で減速、さらに、「ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(8)」の④を減速(!)という特異な解釈であり、興奮を煽る下品で安っぽい手管は微塵もなく終わる。好まない方もあろうが、dumb blonde(頭の空っぽな金髪)を思わせる何も考えてないアッチェレランド派(最近これがルーティン化しつつある)の対極に位置する(総合点:4.5)。

 

ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(13)

 

 

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Categories:______ブラームス

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