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クラシック徒然草《クレンペラーのシンフォニエッタ》

2023 DEC 15 7:07:44 am by 東 賢太郎

仕事で頭いっぱいだ。音楽はぜんぜん欲してないが、何の拍子かヤナーチェクのシンフォニエッタが聞きたくなった。こいつは塵が積もった頭を洗浄してくれる大変に奇妙な音楽である。

共産時代のプラハへ行ったが昼飯の肉団子みたいなのがまずくて閉口した。失礼ながらこれ食ってる人とは合わねえだろうなと思ったりしたあらぬ記憶があれこれ蘇って、出てこないのは何の仕事をしに行ったかだけだ。そういやあロシアは未踏だが渋谷にあったロゴスキーのボルシチは大好物であり、あれを食うとなぜかいつもムソルグスキーを思い出したのだがロシア人も合いそうにないから食い物とは関係ないかもしれない。そう、ウィーンで食った肉団子もまずかった、ありゃだめだ。でもブラームスもブルックナーもあれが好物だったんだ。

シンフォニエッタは楽想も田舎色ぷんぷん丸出しで無骨。洗練のかけらもなくオーケストレーションも大いに奇天烈だ。ラヴェルの極限の繊細を愛する僕として最も遠い音楽のはずなのだがなぜかこれは大好物であり、フレンチを食した翌日に鮒寿司をつまんだ感じである。スコアを自分の手でシンセサイザーで弾いて録音しているから本当に好きなんだと思う。こんな不可解な音が頭に鳴っていた男はどんな奴だったんだろう。

聞いたのはyoutubeにあったクレンペラーだ。この男がこれまた輪をかけてすごい。こんなカロリーこってりで管が脈々と浮き出て奇天烈に叫び吼えるシンフォニエッタをやろうなんて指揮者は絶滅して久しいのであって、高いレコードに投資して強烈な個性に一喜一憂してた昭和が懐かしいったらない。冒頭からなんだこれは葬式かと訝るほどの我が道ぶりだが終わるとガツンと腹に響く。いや素晴らしい。思えば俺も我流でわがまま放題に仕事して、きっといまはもっと頑固になってるのだろうがそれでやってきたんだから何だというものであって、クレンペラー爺さんに益々の共感が湧き出てきている。

フィガロの稿に書いたが、あれを遅すぎだ滑稽だモーツァルトじゃないなど散々にこきおろした連中がいたがまあつまんねえ人生きたんだろうな、病気でサナトリウム生活を送ったと思いきやオペラを振り終わってソプラノと駆け落ちしたり、ホテルで女と寝ていたら娘がはいってきてしまってロッテ、紹介しようと言ったこのおっさんの破天荒な生きざまを僕はまったくと言って憎むところがない。そんなものがバレようがなにしようがクレンペラーはクレンペラーで巨匠であった。裏金ごときに姑息に手を出したのがバレて失脚しちまう小物ばっかり目に入る現代の、一服の清涼剤である。

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Categories:______クラシック徒然草, ______ヤナーチェク

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