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不思議の国だった人生初めての入院

2023 DEC 30 8:08:20 am by 東 賢太郎

この仕事、休日はないし年末年始もない。さきほどアメリカの投資家向けに履歴書を書いていたが、ずいぶんの昔のことだ、なんだか他人の出来事みたいに無感動である。いっぽう、こんなことを45年もやってきてよくもったなと体をいたわる気持がわきおこった。今年は仕事があんまり順調でなかったが身体だけはすこぶる元気だ。どうなっちゃってるんだろう。だから、去年の話だが、コロナでとうとう病院に格納された無念が頭をよぎる。「先生、僕ね、67年生きてて入院歴、手術歴ないんです、悔しいなあ」というと感染症科の医長がお茶目に返してくれた。「ようこそ**病院へ!」。

履歴書のどれよりもそれは大事件だった。アメリカのえらく高いらしい点滴薬を5発(5日)打ってもらい、体調に何の変哲もなくけろっと治った。こんな病気で何を大騒ぎしてたんだ、で、俺なんでこんな処にいるんだっけとなり「先生、あした帰っていいでしょ」というと「東さん何をおっしゃいます、2類だからあと5日ですよ、お疲れなんだからゆっくりしてってください(笑)」と告げられた。コロナはそんなもんだった。ところが、これが悲劇の幕開けだった。あと5日?ちょっと待ってよ。ここにひとりで閉じ込められるの?

パニック障害というのは誰もわかってくれない。コンサート、床屋、飛行機、とにかく何時間か動けない、外に出られないと思うだけでアウト。10階だし窓はあかない。やばい。5日も缶詰なんてとても耐えられない。大病院だしナースもたくさんいるがそういう問題じゃない。売店ぐらいOKでしょ、だめです、ナースが買ってきます、ウーバーイーツで食事とってもいいですよ、ちがうちがう、自分で行きたいわけ。ここから出られるって思うだけで薬いらずなんだ。誰かそばにいたり話したりして気がまぎれればいい。そこであちこち電話しまくるが、夜になると地獄がじわじわ迫ってくる。

そこで妙案が浮かんだ。カップ麺を段ボールで何種類も買ってナースステーションに置いてもらい、食事はぜんぶキャンセル。今日はキツネにしてくれとかお湯がぬるいとかあれこれしょうもない注文を付ける。「なによあのクソジジイ」。嫌われてるに違いないが仕方ない。何度も来てもらって彼女らとお話しして地獄から逃れたい一心だった。みんなやさしくていい娘だ。ところが、キツネかタヌキかだけで彼女たちがその都度身ぐるみ着替えていることが発覚する。そうか、2類なんだったっけ。参った。この手も使えなくなってしまった。

検診があった。注射が大嫌いだから逃げたいが、この時ばかりはナースがかまってくれるのでうれしい。「採血しまーす」と明るく言われ、「ちょっと待った、俺ね、たぶん血管細いんだな、言っとくけど難しいよ、だって人間ドックでタオルで温めたのに2回も失敗されたりするんだよ、キミ大丈夫?」と牽制なんかしたりする。「大丈夫でーす、ここに太いのありまーす」。あっさり1発で済んだ。痛くもない。針が抜ける。おお!キミすごいね、まさしく天才だ、これから一生やってくれないかな。けらけら笑われるがこっちはけっこうまじめだ。

待ち焦がれた釈放の日、清算は100万円いくかなと思ったら4000円ぐらいで目を疑った。この時ほど日本国に感謝したことはない。コロナ対応がヘマだボケだとブログにぼろかすに書いてしまって申し訳なかった。医長先生に御礼のあいさつをしたら「東さん、さっき10階に行ったらナースがみんな寂しがってるんです、さすがですねえ、実はステーションで大人気だったんですよ」。この時ほど世の中がわからなくなったことはない。そうか、大量のカップ麺、みんなの夜食にねって置いてきたのがきいたかな、いやよくわからん。

娑婆に出ると太陽がまぶしかった。

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Categories:健康

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