カープ森下に見たエースのたたずまい
2026 AUG 15 0:00:27 am by 東 賢太郎
なすすべなしの12対0で6連敗。悲しくなるほど凄惨な負けだった。昨日ヤクルトの第3戦が台風で流れてよかった。しかし、ホームに帰って迎え撃つは巨人を3タテした阪神である。 20対0で負けたらカープはどうなるんだろう。こういうときにマウンドで仁王のように立ちはだかるのがエースというものである。
エースはチームの数だけいるが、背番号1や開幕戦の先発になればいいというわけではない。首位を快走する阪神は村上、高橋、才木と勝てる先発が3人いるが、はてどれがエースかなというと僕的には難しい。なぜならエースには、数字の裏付けだけではない、チームを鼓舞する「たたずまい」が必要なのだ。
たたずまい(佇んでいる様子)という言葉のニュアンスは英語にも中国語にもない。何かする前にどう在るかを静かに伝える気配や空気感、とでもいうもので美意識にもなるし威圧感にもなる。たとえば「木鶏」は中国の故事に由来する言葉で、木彫りの鶏のように全く動じることのない最強の状態にある闘鶏をさす。横綱双葉山が70連勝を逃したとき「われ未だ木鶏たりえず」と言ったが、横綱は木鶏のたたずまいあるべしという含意であろう。
今日、最強の阪神タイガースを8回1失点で抑え込み勝利した森下投手を見て、そのたたずまいにおいて、広島カープのエースだと僕は感じたのである。
奇しくも6年前の今日、森下は京セラドームで阪神を2安打完封した。
その時に書いたブログがこれだ。 カープ森下、惜しかった準完全試合
1ヶ月ほど二軍落ちに甘んじた今年を彼は勝利インタビューで「思い出したくない」と語った。当然だ。森下君の辞書に「二軍」の文字は無いだろう。今日のピッチング、力感なく淡々と投げたように見えたが、森下・サトテル・大山のセリーグ最強クリーンアップを2安打に封じ込んだ。 三振はカーブが効いたが、ストレートに伸びがないと三振は取れない。
今時150キロは当たり前で、エイヤと160キロ出すピッチャーが讃えられる傾向があるが森下は平均146だ。そんなことには目もくれていない。腕づくで球速で押し込むのは有力な戦法だが慣れれば打たれるし、エネルギーを使う。 140の腕の振りで120を投げればマイナス20の分、打者は前のめりになって強いスイングができず、しかもエネルギーの消費は少なくて済む。森下の速球は伸びがある分、落差は20以上、しかも伸びはランダムだから落差も変動してバットの芯を外す。その変数を駆使して打者のバランスを崩す。エイヤと160キロより知的であり、馬鹿力でなくインテリジェンスで打者の優位に立つ。今日も彼は当然完封しようと思っていたはずだ。理由はない。そういうたたずまいがあったのである。
投手が分業制になった昨今、 6回を3点に押さえればクオリティスタートだか何だか知らないが、僕はそんなものに何の関心もない。あっさりそう言ってはセットアッパーやクローザーという地位と名誉が確立している今は失礼に当たるが、関心ないものはない。つまり僕の美学は、ピッチャーは完投して当たり前、できれば完封を狙うである。だから8回の1アウト二三塁でサードゴロを取って一塁に投げた佐々木君、 6対0のスコアで安全策をとるのはわかるし青学ではそう教えるかもしれないけど、あれはホーム全然間に合ってただろ、ホームで殺してやれよ森下さんのために。解説の野村謙二郎氏はあれでいいと言っていたが、チームはそうでも防御率にも関わる。1点入ったからあっさり9回は交代したけどまだ113球だったからね、0点のままだったら9回も行ったと思う。野手の君たちにはわからんと思うけど、ピッチャーってのはそういう生き物だ。
あと2回の先取点ね。無死一二塁で佐々木・左飛、石原・三振だよ。ここで打席に入った森下は、高めのボール球を引っ張ってレフト前。芯くったいい当たり。あれでがぜんカープの打者の空気が変わった。ファビアンは激走して3塁打にしたし、モンテロは初球を鬼の形相でレフト前に火の出るようなヒットを放った。ヤクルト戦の12対0の屈辱的な負け。ドミニカ人の2人は、おかしなムードになっているベンチにいてどう思ってたのか。男としてやられっぱなしはありえねえと思っていたはずだよ、 2人とも強烈な一撃を放ってチームに火をつけてくれたと思うよ。その2人がベンチで森下のナイスピッチをたたえてる笑顔、本当に頼もしい。ピッチャーとしてあれほど嬉しいことはない。
結果論ではあるが、石原より森下の方が打者として芯でとらえる能力は全然上だ。石原君もっとトスバッティングを地道にやった方がいいね。もう1つは6回だ。一死三塁で打席に森下。たたずまいからして打つと思った。完璧なセンター返しがピッチャー門別を直撃。本来センターに抜けるべく狙って打った感じだった。マエケンもそうだったが森下は2刀流で通用する。打者に専念したら3割近く打つんじゃないか。ちなみに大分商業時代は、ソフトバンクに入った同期の川瀬晃とピッチャー、ショートでライバルだったから打撃力あるのは当然だ。僕は川瀬の守備の反射神経はプロでも一流と思っていてショートでもそれと競ったのだ。スポーツは何をやらしてもうまいのだろう。
たたずまいが全てを変える。それができるのがエースである。カープはこの一勝で何が変わるわけでもない大変な渦中にあるが、グラウンドにおいては、マウンドにこういう男が立ちはだかれば空気は変わる。全員が本気を出せば難敵・才木をKOし、首位を独走する阪神タイガースにこんな勝ち方ができる。ファンが望むのはこれに尽きる。
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