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山水電気の破産という警鐘

2014 JUL 18 1:01:59 am by 東 賢太郎

山水電気が7月9日に東京地方裁判所により破産手続きを開始決定したというニュースには寂しさを感じます。サンスイ(SANSUI)のアンプというと高校生のころ僕のあこがれで、雑誌の広告を見ていつかはあれで聞いてみたいという存在だったからです。

オーディオというのは大きく分類すれば①信号を読み取る部分②伝送・制御する部分③増幅する部分④空気振動に換える部分とありますが、聴感への影響度でいうと④(いわゆるスピーカー)の選択が大事だという人が日本には多いように思います。同感ではありますが、読み取り(ピックアップ、プレーヤー)、伝送・制御(ケーブル、プリアンプ)、増幅(パワーアンプ)もそれぞれの在り方で影響するので、どれか一つが特に重要というわけではありません。

オーディオ装置を選んで自分なりのシステムを作るというのは、算数的にいうと①~④の4つの変数がある関数の最大値を求める問題です。ところが困ったことに各変数は独立ではなく、a,b,cまでは良くてもdを入れると関数値が大幅に下がるなどします。変数間の相関性は未知数だからとにかく4つのどれかを固定して順次試行するしか手はなく、まずどれを固定するかがその実験の要諦になります。例えばスピーカー重視派は④を固定してから①②③を試して相性を確かめていくわけです。

そこからは今度は「何を聞くか」によって①②③が変わってきて、ジャズ、ロック、クラシックetcでおのずと選択は変わるはずです。これがオーディオマニアの楽しみといわれ、もちろん正解はなく完全に趣味と主観の世界です。僕はトータルでたまたま気に入ればそれでよしというわけであんまり個々のパーツ入れ替えでぎりぎり「追い込む」ことに時間はかけたくありませんが、それでもドイツにいたころあれこれ「実験」はしてみて、それを趣味とされる方々のこだわりの気持ちは少しは理解できるようにはなりました。

そういう実験の失敗から学んだことなのですが、クラシックを想定した場合、昔のサンスイのような透明感のあるあまりスペック偏差のない優良アンプ固定でスタートするのがいいと思います。同じクラシックでもメインソースが歌か室内楽かオーケストラかで違ってきますが、室内楽中心に聞く人を除けば、アンプが大事と思います。いや、貧弱なアンプに何を組み合わせてもお話しにならないと言ってしまってよろしいのでそう結論します。これは西洋の石の家に長年住んで聴いているとわかります。逆に木造住宅の小さめの部屋ですと、それがスピーカーということになるのです。

サンスイのアンプは結局使うことがなかったですが、親父に買ってくれとせがむには高かったというのもありますが、当時の部屋が狭くて高級なセパレートシステムがいらなかったというのが正解だったでしょう。

いま聞いているシステムはスピーカーに先に惚れたというか、特定の色をつけないからむしろここ起点でいいというB&Wだったのでアンプ選択が後になりました。5,6回とっかえひっかえ自宅に運び込んでもらって試聴し、やっと行きついたのが米国ホヴランド社のストラトスでした。有名ではなかったですがウィーンフィルやコンセルトヘボウを僕のイメージ通りに鳴らしてくれる銘器であり、不合格にした方はどれも当時一世を風靡していた著名ブランド物ばかりでした。

ところが、このホヴランド社も数年前に倒産しているのです!

こういう目にあうとどうも世の中がわからなくなります。いいものを作っている、これは自信を持ってそういえるのですが、そういうメーカーである山水もホヴランドも時代についていけずに倒産。いったい何が起きてるのでしょう?

結局、需要が減ったということです。オンラインでヘッドホンで聞く。僕も時々使いますが、そこそこ音はいいと思います。日本の住宅事情の制約条件に合わせて低出力のアンプを鳴らすくらいならそっちのほうがコストはもちろんでも満足度だって上でしょう。デジタル時代のすう勢はソースの情報量を飛躍的に増大させ、直接PCで信号化して伝送・制御、増幅はミニマル化し、空気振動変換も最小限で関数値をそこそこ高くする方向に一気に進化しました。消費はいかなる場合でも、安くてかつ良いものの方に向かいます。オーディオにも「クラウド革命」が起きたわけです。

この流れに山水電気やホヴランドが追従する手がなかったということです。ついていかなければどんな名品を作ろうが老舗だろうが企業は簡単に倒産するということです。

そうしたら昨日、このニュースが入ってきました。

米電機大手ゼネラル・エレクトリック(GE)が創業事業である冷蔵庫や洗濯機などの家電事業を最大25億ドル(約2500億円)程度で売却することを検討していると報じた。発明王エジソンが研究した白熱電球に由来する照明部門も含まれるという(米、ブルームバーグ)。

創業事業を売ってしまうというのは大きな決断ですが、企業というのは生き残るためには何でもありです。しかし大事なことは、GEは事業を積極的に多角化してきたからこの手が残っていたということではないでしょうか。山水、ホヴランドはそれがなかったから本業と共に沈没するしかなかったのです。

ウォートン・スクールでは米国企業の栄枯盛衰の様々なケーススタディを学び、証券業という側面から多くの日本企業のそれも間近で見てきましたが、いま強く感じることはデジタル革命、ネット化がいよいよ本格的に進行した結果そのサイクルがここ数年で比較にならないほど短くなっていることです。携帯の覇者であったノキアがスマホの出現であっという間にモバイルとは無縁だったアップルにとって代わられたのがその例です。

この時代をチャンスと取るかピンチと取るかは業界によって様々でしょう。日本企業の典型的スタンスとして「様子見」があります。いきなり行動するとリスクがあるのでじっくり趨勢を見極めてからやる。しかしこういう時代は、何もしないで見ている方が知らず知らずにリスクを取っている可能性があります。それは趨勢が見えた時にはゲームオーバーというリスクです。

山水電気の社名は「山のごとき不動の理念と水の如き潜在の力」という創業理念から来ています。そして同社はその理念を寸分曲げることなく、不動の理念で優れた製品を生み出してきた立派な会社と思います。しかし、何かが足りなかったのです。

 

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