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信長、曹操好き狩猟民のすすめ

2014 JUL 19 17:17:19 pm by 東 賢太郎

案件が出たので忙しく、外部に委託して少々調査を重ねています。僕の仕事はアドバイザー(顧問)ですが、ひとことで表せば各所からいただいた情報を積み上げたり一部を外部に請け負ってもらうなどして実行可能なプランというもの(諜報)を作りあげるのが役割です。ソナー・アドバイザーズ自らがその実行部隊になるものも、そうでないものもあります。

案件はご紹介、ご縁だけです。メニューの品数をそろえて不特定多数のお客様にアピールするのが企業の常道でしょうがそれは僕の哲学に合いません。最少人数の精鋭シェフ、少数お得意さん主義の料理屋に徹しようと思います。そうでなくては大きなお客様にご信頼いただけないし、本当に大事な案件は任せていただけないものなのです。

哲学というと、何よりポピュリズムには一切接近したくありません。ブログを書いていても、誰にもわかるものなど最初から書く気がありません。HPで宣伝するような仕事はしません。シャーロック・ホームズやブラック・ジャックがHPを作るとは思えないというイメージから、ソナー・アドバイザーズはHPがありません(検索して出てきたら確実に偽物ですからご注意ください)。

さて、そういう状況でしたので、先週残念ながら大学のクラス会を失礼してしまいました。このところクラスメートとの接点といえばO君にいろいろ相談をしてます。彼は斯界の大御所でありながら弁護士に向いてなかったと自ら言う理系的頭脳の持ち主で、性格もタイプも僕とぜんぜん違いますが気は合うのです。僕のアイデアを同方向のベクトルで見ている人の箴言は聞く気になります。方向がずれた人の言はダメだと思ってしまう性癖から、合うことこそ大事という長年の経験則なのです。

法学は社会的には大事だが神学的で耐えられないところもあるというのが彼の意見で、その神学に真っ先に辟易して脱落した僕はうなずくしかありません。もちろん同期の法曹の皆さん全員に敬意を持っていますが、関心のないものはだめでした。もしもう一度東大に入れていただけるなら僕に向いているのは教養学部だろうなと思います。

先日、故木村尚三郎先生の西洋史を放送大学アルヒーフで見て、こういう授業を受けたいと強く思ったこともあります。当時も駒場では村上陽一郎先生、小田島雄志先生などから生涯残る知的刺激を頂戴しましたが、何分こちらが未熟でした。ああいうものは人生経験の浅い子供には理解できず、もったいなかったなあと感じました。

その木村先生の著書では「都市文明の源流」(東京大学出版)を欧州赴任前に読んで影響を受けました。記憶がやや薄れましたがたしかゴシック教会は都市にある森であるという意味のことがあって、フランクフルトに住んでいる頃にブルックナーのシンフォニーを聴いて初めてそれを得心したのを覚えています。

狩猟は危険であり五感の研ぎ澄ましが必要、危険のない農耕は定点観測に秀でるという意味のこともあって、だから日本でなく狩猟民族の欧州から大発明が出たのだという。証明は難しいが直感的に説得力を感じますし、通信技術が戦争を契機に進歩したなどそれの例でしょう。こういう魅力的な説が出てくるというのは先生ご自身が五感にすぐれた狩猟民なのだと思います。

僕が35年生きてきた株式市場というのは狩猟民ばかりのジャングルのようなもので、どこから猛獣が飛び出してくるかわかりません。昨日のウクライナ惨事による急落をそれにたとえるのは不謹慎ではありますが、こういう不測の事に大きく反応するのが株価です。上場企業の経営者は出資者(株主)に対して自社の株価に責任があります。株は門外漢ですというわけにはいかないという意味で狩猟民でなくてはなりません。

ブラック・ジャック、法学、ゴシック、森、ブルックナー、株式・・・無意識に書き連ねてきましたがこういう単語が農耕民の世界でつながることは想定しがたいのではないでしょうか。そして今の仕事はそういう一見バラバラな情報から「諜報」を生み出す、とても狩猟民的なものです。僕ごときが起業してそれで食えるのは、ほとんどの国民が農耕民的であるために「情報と諜報の区別を知らない日本人」に書いた状況、隙間が生じているからです。

起業家というのは100%狩猟民です。そうでなくてはできません。一方で銀行員は100%農耕民です(我が親父も典型的に)。少数民族の狩猟民をアブナイ人たちであると下に見ていますから新興起業家に融資したがりません。狩猟民の世界であるエクイティファイナンス(株式資金調達)も薦めません。そこで企業家は同じく狩猟民である証券会社に資金調達を頼ることになりました。銀行が系列証券を作って反攻しなくてはならなかった背景はここにあります。

しかし我が国に起業家が出にくいのは銀行が貸さずベンチャー投資家が足りないせいばかりではありません。そもそも狩猟民が少ないからなのです。だから政府が金を出してそれを育成するというのは強精剤を配れば人口が増えるだろうというようなものです。ひょっとして起業したい人は多くいるかもしれませんが、五感が鋭敏でなければ失敗する確率が高いでしょう。

狩猟民になれるかどうかは試しにNISA特典を利用して失敗しても良い程度の金額で株式をお買いになってみればわかります。成功するかどうかではなく、楽しいかどうかが分岐点です。苦痛であればおやめになった方がいい。楽しいと思った方も、それだけで狩猟向きというにはまだ早い。ここが大事なところです。

他人のチャットや掲示板のような皮相的、扇動的な情報に乗って売買して、結果に一喜一憂するような方は狩猟は無理です。木村先生の言う「五感の研ぎ澄まし」ではなく「定点観測型」ですからすぐれて農耕民的性向です。長くやっているといずれ虎に食われますからやめた方がいい。

「五感」というのは、例えば「この株は買いだ」という記事を読んだとして、その内容の信憑性を判定するためにそれを書いた人物が何者かを徹底的に調査するような行為が、また調べて信用して買おうと決めてたとしてもタイミングや売り時は自分の感覚だけを信頼するというメンタリティーが絶対に必要です。「この事業が伸びる」に置き換えれば起業にあてはまります。

例えば僕のあるブログがあちこちにコピペされて2万人以上に読まれました。それが誘発したと思われる雑誌記事まで現れました。僕の知り合いでそうしそうな人はいませんから彼らは筆者である僕をネット検索情報以上には知らないはずです。そういう人たちがそこで書いた株を高値でつかまされている可能性があるのです。それの警鐘のつもりで書いたのがひとつもそうなっていないというのは日本的だと思います。

狩猟民のほうが農耕民より大事だ、得だ、等々を言っているわけではありません。農耕民とは程遠い僕がそう言う資格もないし、日本の骨格は農耕民が作ってきたと考えるしかありません。しかし今の世界情勢は明治までの日本、明治維新以後の日本、どちらをとっても「それでは遅い」という速度で歴史が進展している感じがするのです。だからじっくり定点観測していては遅れてしまう。「五感の民」がたくさん出て政財官を引っぱらないと21世紀は苦しいと思うのです。

特に企業経営というのは本質的に狩猟民的な職域です。これまで我が国の重厚長大産業を占めてきた農耕民的アプローチは加速度的に時代遅れになりつつあります。ジャパンクールの浸透でドラえもんが米国で放映される時代ですが、一方では比較的に狩猟民的なカルチャーを有していて我が国のお家芸である「ものづくり」企業の代表格であるはずのシャープやソニーが円安でも赤字という時代でもあるのです。

僕は個人的に「狩猟民の若者」が日本にどんどん出て欲しい。それは勇気、胆力を要することではありますが、しかし、単なる元気や闇雲なチャレンジ精神を意味してはいません。むしろ逆であって、一歩ジャングルに入れば五感全てのセンサーを通した「判断力」「集中力」「繊細さ」を要するのです。まったくのイメージですが、三国志なら曹操、戦国史なら家康が農耕民、信長が狩猟民と思います。秀吉は狩猟民を真似た農耕民だったと僕は解しています。僕はもちろん信長、曹操が好きです。

今ざっと毎日500人ぐらいの方が拙文を読んでいただいており光栄に思っております。どれがそれということもないのですが、どれも根っからの狩猟民の見方を記したものであり、若い方になにかヒントをつかんでいただければ本当に嬉しいことです。

 

(補遺)ソーナー・アドバイザーズHPについて

本稿(2014年)の2年後にお客様よりのご意見が多くあったことから作成することに方針転換いたしました。http://sonaradvisers.co.jp/

 

(こちらへどうぞ)

戦争の謝罪をすべし、ただし日本史を広めるべし(追記あり)

織田信長の謎(1)

 

 

 

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