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我が家の真上を行った巨大台風19号

2019 OCT 13 2:02:07 am by 東 賢太郎

過去最大の台風といってもピンとこなかった。我が家は南西方向が崖の高台に建っているから風はもろに受けてしまう。ついこの前のも大型だったが、あれは暴風雨が夜中であり、家族は眠れなかったらしいが僕は来たのも知らずに朝まで熟睡だった。

しかし今回の19号は二日も前に巨人・阪神のCSの中止が発表されており、ドーム球場なのによほど強力なんだろうということで一応の心構えはあった。世田谷区から防災警報が放送マイクで何度も何度も物々しい口調で流れ、スマホ情報で台風を眺めてみるとなるほどでっかい。東は仙台あたりから西は愛媛あたりまでの図体ではないか、こんなのはたしかに見たことない。アメリカで巨大ハリケーンとして勝手に名前はついてるし、娘にはブラジルの友達から安否を心配するメールが入っている。なんか地球規模の化け物みたいだぞ。

そうこうするうち、こいつはずいぶんゆっくりと北上してきて、午後7時にとうとう伊豆半島に上陸した。なにもわざわざそこまでキレイに伊豆を狙わなくてもいいだろうというほど見事にドンピシャだ。まずいね、ウチの辺も雨脚が強まってきているぞ。心配になってきてそこからの進路予想図を見てみると、伊豆からいい塩梅にスライス気味にカーブしていて、「目」はどうも我が家のあたりを直撃しそうである。直撃も初だが、そいつが過去最大だなんて・・・。

「その時」は午後10時に来た。我が家のほぼ上空にこいつは悠然とやってきた。伊豆南端からちょうど3時間で意外に速いではないか。その30分前から窓という窓に吹きつけるかつてない暴風のピューピュー、ゴーゴーいう音と、バリバリと全開の高圧シャワーのような強烈な雨音の宣戦布告がフォルティッシモで始まっていた。話し声も聞こえなくなってくる。ガラスは二重だし壁も頑丈だから大丈夫と思っていたが、窓や壁の心配をするまえに家ごと持っていかれるかというド迫力だ。それが1時間も続くとさすがに怖さを覚える。といって何ができるわけでもなく、家族5人とネコ3匹で耐えていたらだんだん音はフェードアウトになっていった。

そうしたら午後11時ぐらいになって「多摩川の水位が上がって、ついに氾濫した」という聞き捨てならないニュースが出た。箱根の降水量が日本一になったようで、ここからは川の氾濫が危険だ。一難去ってまた一難。サイレンを鳴らしながらパトカー、消防車が何台も通る。場所は二子玉川らしい。あそこはあり得るなと無事をいのる。我が家は離れてるし30メートルの高台だからと高をくくっていたら、そこでいきなり停電に見舞われた。ここから家中がやおら災害モードになる。真っ暗になって歩くのも不如意になってしまうと人間は何もできなくなることを悟る。しかし妻子は懐中電灯とスマホで家中を照らして手際よくブレーカーを落とし、復旧時期が不明だから冷蔵庫の生ものを片付けてしまおうという機関決定がが僕ぬきで下されていた。昔からそうであるが、こういう時に家長はからっきし役に立たない。階段でころげ落ちないようにへっぴり腰で手すりを伝い、義務で平らげた生ものは一番どうでもいいヨーグルトであった。

そんなドタバタをしり目にネコたちは平然としたものだ。世田谷区の防災警報が「レベル5です、避難してください、命の安全を第一にしてください」になったときまっさきに心配したのは、ネコを連れていけないかだ。「避難所はダメらしいよ」「どうしてだ、犬は」「犬もだめ」「じゃあインコはどうだ」と禅問答になっているのを横目に我関せずと寝そべったままだ。最悪クルマに積んで逃げるんだろうなあなどと考えていたが幸い避難するには至らず、大箱のヨーグルトをがんばってフィニッシュしたと同時に停電は15分ぐらいでおさまった。そうしたら、やおらクロが僕の膝に飛び乗ってきた。普段は家長はただの踏み台であって、そこからいい匂いのする食べ物が並ぶちゃぶ台に乗り移ろうという魂胆のクロなのだが、この日はそうしない。ピューピューバリバリが怖かったんだろう。

11時半で外はすっかり静かになった。雨も風もなし。玄関から出てみると湿った外気がそこでひと騒動あった物々しさを残しているが、塵ひとつない自然の香りに満ちていて胸いっぱい吸い込むと新鮮な気持ちになる。前の道へ出ると人っ子一人いない。完全な静寂。それにしても凄まじいエネルギーだった。あれで発電、蓄電できたら原発いらんだろう。台風はミクロネシアあたりで生まれるからマリアナ海溝で産卵するウナギみたいなもんだ、台風の赤ん坊なら核爆弾を打ち込めば日本に来ないよう進路を変えられるんじゃないか?いろいろ馬鹿なことを考えながら戻ってきて、2台の車を見たらこれが洗車したみたいにピカピカに光ってるではないか。

古来より日本人は台風を仕方ないものとして甘受してきた。清冽な水、豊かな作物、みんなそのおかげであって、いろいろ厄災はあったけど神様はお恵みだってくれてるじゃないかと長いものには巻かれ、つにには争い事まで「ここはひとつ水に流して」なんてノーサイドのきっかけにまでなってしまった。とても疲れた一日であったが、過去最大のモンスターに耐えられたんだからもう何が来ても大丈夫。水に流そう。これを古来より台風一過という。

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Categories:______日々のこと, ______箱根

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