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オリックスのロべコ買収

2013 FEB 16 1:01:06 am by 東 賢太郎

Netherlands-CIA_WFB_Map-10-10-10ロンドン時代、駆けだしの僕がまず担当させてもらった大きな顧客はオランダの機関投資家でした。アムステルダムはもちろん、ロッテルダム、ユトレヒト、デンハーグ、アイントホ―ヘンなどにある銀行、年金、運用会社などで、ロンドンから数えきれないぐらい何度も出張して各地を駆け巡りました。ロンドンの投資家も資金量は巨大ですが、オランダも当時数十兆円の投資資金があったのです。

まず何より覚えているのは土地に高低差のないことです。とにかく車で行けども行けども平地。「平地酔い」というのがあるのかどうか、とにかくあるはずのアップダウンがあまりになく、しばしば気分が悪くなりました。そういう時はバート君という飛ばし屋の運転手に道端に止めてもらって「立ち○○」などしますが、そうやって風車が点々と回っているだけで何も目に入らない広大な牧草地の中でぷーんと漂ってくる浮世離れした田舎の香水をしばし嗅いでいると、「俺はどうしてスーツを着てこんな所にいるんだろう?」と我とわが身のわけがわからない不思議な気持ちになったものでした。

220px-Delft_-_Universiteitsgebouw_(Rode_Scheikunde)僕はオランダの世界的石油企業の年金が顧客だったのですが、ある日、同社幹部からスポンサーをしている名門デルフト工科大学(ノーベル賞学者3人輩出・右)の経営学講座で僕に講師をしてくれと依頼が来ました。言語はもちろん英語です。オランダ人にとって英語はほぼ母国語に近い水準なのです。当時はやりだった「日本型経営モデル」の講義で1コマ2時間でした。理系の学生ばかりだからどうせ何もわからんだろうとナメていて、とにかく日本のすごさだけはわからせてやろうと気合は入っていました。なにせこちとらMBAを取ったばかりでもあり、まずはアメリカンな「経営学」「経済学」っぽいことをしゃべり、そのアメリカ人だって日本型経営を研究してるぞなどとまくしたてました。その演説が一段落した時です。一番前にいた学生が手をあげ、「日本経済の強さはよくわかったから、江戸時代の日蘭関係について話せ」とリクエストが来たのです。そんな話題は想定外で準備もなく、えっ、こいつら意外に手ごわいなと思ったがもう遅く、仕方ないので「よしっ!」と知ってる限りの知識を並べたてました。どうして長崎に出島を作ったか、当初は洋学=蘭学だったこと、ドイツのターヘルアナトミアも蘭語で読まれたこと、幕府の開成所が新政府によって東京大学の法学部や医学部になったこと、だから今でも東大では法・医・工・文の順番に教授が並ぶ等々。そうすると今度はそれに質問殺到となり、議論が大いに湧きおこってびっくりしました。なるほど、東インド会社は彼らの先祖が作ったんだ、この勢いで来たから幕府もオランダを認めたんだと実感させられる迫力でした。うれしかったので講義の締めくくりに

「日本にとってはオランダこそ西洋への窓口だったんだ、アメリカでもイギリスでもドイツでもないぞ!」

と言うや教室は爆発的な拍手とブラヴォーに沸いたのです。経営学なんてくそくらえだ!講義を終えると10人ぐらいの学生たちが校内を案内すると言って校長室から貴賓室から何から僕を引っ張りまわし、学食のディナーではビールで乾杯乾杯の嵐となりました。こっちも30歳ぐらいの若僧でありすっかり無礼講になって、時計を見るともう夜中の3時ぐらい。僕は頭も朦朧となっていて、「ホテルは?」と聞かれても口からその名前が出そうにないと見るや連中、「まかしとけ!」と勢い込んでデルフト市内のホテルというホテルに手分けして片っ端から電話をし始めるではないですか。こうして長い1日が終わりました。後日ロンドンまで来てくれてわが家に泊まってくれた学生もいました。あの中から偉大な学者が出てくれたらうれしいなあ。これは僕の16年の海外生活を通しても最高に痛快な思い出となっています。

お客様として怖かったのがロべコの日本株投資運用責任者ヤン・オームス氏でした。ロッテルダムに本社を構えるロべコは現在も20兆円超を運用する欧州最大級の投資運用会社です。氏はこっちが勉強不足と見るや推奨を歯牙にもかけてくれず「おとといおいで」という冷たい対応になり、電話も出てくれません。後で聞くと他社にはそうでもなかったそうですが業界1位の野村には期待値が高く、徹底的に鍛えられました。だんだん認められてからは、行くとグルメの氏がお気に入りのレストランでいつもランチにワインとなり、後から大きな発注をいただきました。プロとしての自信を養ってもらった忘れられないアカウントのひとつです。

その名門ロべコがオリックスに2500億円で買収されるというニュースは、僕にとって青天の霹靂です。ジャガーがタタグループに買われてインド車になるに等しいインパクトです。それがいい値段かどうか判断する材料を持っていませんが、オリックスに経営力さえあればいい買い物になる可能性はあります。運用業界ではエルメス、グッチ級のブランドですから。不思議なのはどうして証券会社がこういう買い物をしないのかです。自分で海外運用せず、単に目利きとして輸入国内販売するというのは小売りにおけるデパートと同じです。投資家がネットで世界の業者選別できる時代なのですから、いずれデパートと同じ運命をたどるのではないかと危惧します。

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