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クラシック徒然草-ブラームスの「ペルチャッハの二音」-

2015 APR 6 0:00:53 am by 東 賢太郎

 

2番聴き比べシリーズ、これまでに38種類のCDについて勝手意見を述べてまいりました。もう飽きただろう?いえ、ぜんぜん。この曲、溺愛してますから。

どうしても耳にこびりついてきたのは冒頭のチェロとコントラバスによる二音(d、レ)です。これが今、頭の中でいつでも鳴っています。これ、ヴァイオリン協奏曲の開始の音でもあって、どちらもオーストリアのペルチャッハで書かれている。

ペルチャッハはこんなところのようです。行ったことはないです。

2060

そういえばチューリッヒ時代、家の庭のすぐむこうがちょうどこんな感じの所でした。ブラームス氏のお心持ち、なんとなく察するものがあります。

Vn協と交響曲第2番は、出社の時に車の中でよくかけていて、今もさあ聴くぞってなるとこういう当時の景色が条件反射で浮かんでくるんですが、僕には二音にオレンジ色がついています

ブルーじゃなくオレンジです。チューリッヒ湖に日が昇ってくる、その朝の色です。レという単音なんですが、ほのかにあったかくて、希望の光に満ちた。

Vn協のレーファ#レシラー、あのオレンジ色がパーッと眼前に広がって、スイスの朝の幸福な気分がよみがえります。2番のレード#ーレー、そして続くホルンの和音、これはブラームスが早朝にペルチャッハのヴァルター湖畔で見た朝日かなと思っています。

 

ブラームスは交響曲第2番(作品73)を1877年に書いてからヴァイオリン協奏曲(作品77)を同じニ長調で、ヴァイオリン・ソナタ第1番(作品78)をト長調で書き、ピアノ協奏曲第2番(作品83)を変ロ長調で書きました。

二音はト長調のソ、変ロ長調のミにあたります。つまり主和音(トニック)に二音を含む調性で書いています。しかも、ピアノ協奏曲2番の第2楽章はニ短調、そのすぐ前に書いた作品81の「悲劇的序曲」もニ短調です。

想像ですが、ペルチャッハの二音はそのころの彼を支配していたかもしれません。寝ても覚めても頭で鳴ったかもしれない。

ブラームスは交響曲を書く前後に器楽曲をまとめ書きする傾向がありました。交響曲が太陽で、周りを回る惑星のイメージですね。以上の曲はみな第2交響曲の惑星たちで、みな二音に関連しているのですね。

それが1883年の交響曲第3番(作品90)になると調性はヘ長調になります。その惑星であるピアノ三重奏曲第2番(作品87)はハ長調、弦楽五重奏曲第1番(作品88)はヘ長調です。いずれも主和音(トニック)に二音を含まない調です。

そして1885年の交響曲第4番(作品98)がホ短調で書かれます。惑星たちは、チェロ・ソナタ第2番がヘ長調、ヴァイオリン・ソナタ第2番がイ長調、ピアノ三重奏曲第3番がハ短調、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲がイ短調。やはり、どれも主和音に二音は含まないのです。

 

「ペルチャッハの二音」は、ブラームスにとって人生の飛翔を象徴する音だったんでしょうか?それも、なにか忘れがたい美しいもの、そして、もう戻っては来ないものだったのかもしれません。

 

4つの交響曲の主音、ハ-二-へ-ホ はモーツァルトのジュピター音型です。これ、人生になぞらえると、ハで幕を開け、二で飛躍して、へで頂点をきわめ、ホで終息をむかえる、そんな風に聞こえます。

ブラームスの人生は、それにあてはめると、

第1番(ハ短調)・ 先人との闘い、20余年の苦行、そして勝利

第2番(ニ長調)・ 安息、平穏、ロマン、そして頂点への飛翔

第3番(ヘ長調)・ 名声、かなわない老いらくの恋、夢、そして平静

第4番(ホ短調)・ 枯淡、悲しみ、回想、そして先人への回帰

というイメージを僕はもっています。まるで全体が4楽章の人生交響曲です。

 

そして、もはや交響曲の筆を折った最晩年になって、彼はヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調(作品108)、弦楽五重奏曲第2番ト長調(作品111)、そうして最後の器楽曲となったクラリネット五重奏曲ロ短調(作品115)を書きました。すべて、二音が入った調なのですね。最後の最後に、人生絶頂期に回帰したかったのかもしれません。

だからでしょう、あの暗くて悲しい作品115が暖かいオレンジ色に感じられる、そのことはこのブログに書きました( ブラームス クラリネット五重奏曲ロ短調作品115)。この音楽が強い過去への郷愁をかきたてるのは、人生の頂点に登るオレンジ色の二音に塗られているからだと感じています。

 

僕にとっても、二音は幸福への登り坂、スイス時代の音であり、とっても特別なものです。でも、あれはもう帰って来なくて、もうヘ長調の時代も越えて、いまやホ短調になってしまいました。

交響曲第2番をききながら、自分の中にペルチャッハの二音を希求するとても強い衝動を感じます。まだ枯れちゃいられん、そういう声が聞こえます。

 

(こちらもどうぞ)

ブラームス ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品77

ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(1)

ブラームス ヴァイオリンソナタ第1番ト長調作品78「雨の歌」

ブラームス ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品15(原題・ブラームスはマザコンか)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 作品83

 

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