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リスト メフィスト・ワルツ第1番 S.514

2015 JUN 21 18:18:32 pm by 東 賢太郎

「メフィスト・ワルツ第1番」はレーナウの「ファウスト」による2つのエピソード』という管弦楽曲の第2曲「村の居酒屋での踊り」という形もあります。どっちが原曲かですが、近年の研究よりピアノ版がオリジナルである可能性が指摘されている (Ben Arnold, The Liszt Companion, p128)そうです。

1856-61年ごろの作曲ですが、冒頭は当時の聴衆にとって事件だったでしょう。

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e→h→fis→cisと5度が重なって(ダフニスの冒頭そのもの!)、そこにaが乗るとc#がdに上がり、左手がe-h-fis、右手がd-a-eという2つの「5度の柱」が長2度のズレでぶつかる。この和音はバルトークに直系遺伝し、アクセントのビートをずらせばストラヴィンスキーを予言しています。

聴衆が失神し、リスト自身も演奏中に気絶することがあり、クララ・ヴィーク(後のクララ・シューマン)があまりの衝撃に号泣したというリストのピアノ演奏ですが、演奏技術だけでなくこうした革新的な音響の方も効いていたのではないでしょうか。壮絶としか表現のしようがないホロヴィッツの演奏でお聞きください。

この難曲を弾きこなしてまだ余裕がありさらに難しく編曲してしまっています。何でも初見ですぐ弾けたリストがやはりそうだったのですが、そのリストの曲に音符を加えるホロヴィッツがどれだけピアノが弾ける人だったか、これを聴くとわかります。

「弾ける」とは「うまい」ではありません。この譜面には上記の二人だけでなくチャイコフスキー、ラヴェル、コダーイ、ラフマニノフ、メシアンが見えてきます。まず音を出す前にそういうことが見えているかどうかです。

彼らに霊感を与えた何かはピアノ書法といってしまえばそれまでですが、書法に乗っかって伝播した楽興があるのです。ホロヴィッツほどタッチ、音の色、和音の色で聴き手の心の深いところにそれを伝えたピアニストは知りません。

例えば上の演奏で右手がクレッシェンドしてd-a-eをたたく部分。左手は抑えて一番上のeをffで強調します。eに悪魔の叫びのような色があり、あたりを不気味に支配するこれを聴くとほとんどのピアニストのeが埋もれて、単なる「和音」にきこえます。

メフィストフェレスは悪魔なのです。「悪魔が狂ったようにヴァイオリンを奏でる」音なので5度音程なのです。これが普通の和音にしか聞こえないピアニストがいくら腕まくりして達者に弾いても魂の入った音楽になろうはずもありません。

やがて始まる狂おしいダンス。「居酒屋で飲む農民たちを陶酔のなかに引き込む」のです。ホロヴィッツを聴くと他の演奏は楽譜をなぞったようにしか聞こえません。腕の格段の差もあるのですが、それ以前に読みの差を感じるのです。

名手数あれど、こんなピアノは彼しか弾けないのだということを知っていただくにはyoutubeにあるものを片っぱしからご自分で比べられるといいでしょう。一聴瞭然と思いますよ。

違う読みとしてそこから面白いと思うものを3つ選びました。

まずブラームスの大家であるジュリアス・カッツエンの演奏。おどろおどろしさはないがリストの速いパッセージの疾風のごとき軽みを見事に表現してます。

野島稔です。これは実にすばらしい。平均的日本人の蒸留水みたいなピアノをはるかに超越した洞察とテクニック。脱帽です。

若手代表。ケテヴァン・カルトヴェリシヴィリ(Ketevan Kartvelishvili)と読むんでしょうか?若鮎の如し。悪くないですね。有望音楽家の宝庫であるグルジア出身だそうです。

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