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中国人の爆買いが教えること

2015 JUL 9 1:01:29 am by 東 賢太郎

西室兄がこのブログでいい指摘をしていて

そこにコメントとして書いたことが重要と思っている。「日本のプレゼンスが上がる気がする」、これは同感だが、待っていればそうなるわけではない。

先日、鳥取県の境港に4700人乗りの客船が突然やってきて停泊した。「クォンタム・オブ・ザ・シー」という名のクイーン・エリザベスⅡより大きい豪華客船で、乗ってたのはほとんど中国人観光客である。なぜかというと上海、博多、釜山というルートの予定だったクルーズがMERS騒動のため釜山寄港が取り止めとなり、代わりの港を探したところ境港が受け入れたということだ。乗客の目的は買い物だ。港に近いイオンモールが電化製品、クスリ、化粧品、お菓子などを積み上げ、その村の3400人の人口をゆうに上回る4700人の中国人が大型バス10台で押し寄せて爆買いとなった。ひとり10万程度としても5億円の売上になる。

春秋航空によると上海発関空行きのエアバス320(189人乗り)の平均乗客率は95%で、一人平均40万円の買い物をする。1機飛んでくると7200万円ばらまいてくれることになる。こうした行動の背景には商品のクオリティだけではなく、それを管理、製造、流通、保管、値づけなどする日本のシステムへのトータルな信用がある。輸入すればいいじゃないか?誰でも思うことだ。違う。間に中国人が介在しないことが大事なのだ。

待ってれば来るじゃないか!日本のプレゼンスは上がってるぞ!

そうだろうか?よく考えてほしい。その5億円や7200万円はどこから来たんだろう?中国人は火星から札束をかかえて飛んできたのか?

そんなはずはない。そのお金は誰かが中国人に支払ったものだ。中国からモノやサービスを買った人だ。それは誰?中国人ではない。なぜなら2000年まではこういうことは起きていない。外国人だ。どうして?中国が2001年からWTOに入ってグローバル・ルールで貿易(モノ・サービスと貨幣の交換)を大々的に始めたからだ。鎖国を解いたといえばわかりやすい。

僕の先祖は貿易商で、江戸幕府が日米修好通商条約に調印して横浜を開港すると即座に生糸を外人に大量に売って大儲けした。私財を寄付してそれで横浜市や熱海市が水道やガス灯を作ったほど儲けた。それと同じことがこの10年、中国の沿岸部の都市で起きた。鎖国を解くとそういうことが起きるのだ。ざっくりいうなら沿岸部の4-5億人が、つまり日本国4,5個分のひとが、日本人なみか一部はそれより格段に金持ちになったのである。そうしてより豊かな生活を求め、日本に来て爆買いをしているのである。

もう一度問おう、そのおかねはどこから来たの?

外国だ。おかねは無限ではない。輪転機を回す?おかねは増やせるが価値が落ちるから買えるものは一定だ。それを購買力という。中国人が巨大な購買力を持ったということは、すなわち、誰かが巨大にそれを失ったということだ。

それが誰かは特定できない。中国から何かを買っておかねを渡す国々すべてだ。直接買うかどうかはともかく、素材や部品を入れれば世界にメード・イン・チャイナ製品が入ってない国は皆無であるからアフリカに至るまで全員が買っている。なぜ?安いからだ。なぜ安い?賃金が安いからだ。つまりアフリカで最終製品が売れればアフリカがお金を中国に支払い、中国の工場で月給7千円ではたらく女工さんがアフリカで雇われたのと同じことになる。

つまり、中国人は世界中で「間接的に」雇用され、当地の労働者はその分の職を失ったという厳然たる事実がある。これは日本でも起きたことだが、実は、貨幣経済という目には見えないグローバルのチェーン(鎖)によってつながり、地球の裏側でも同時に起きている。仕事をした者におかねが手渡され、その者が働いた分に見合うモノを買えなければその鎖は切れる。だからそうならないように為替レートというものが変動して、中国の工員さんは10年にわたってお金をもらい、購買力を高めることができたのである(その為替レートを購買力平価という)。

もう明白だろう。中国人の爆買い購買力は先進国から移転してきたのである。

そのツケが回った先進国では、そのしわ寄せが最も弱い国に回る。これも自明だろう。弱い、何が?経済力だ。経済力ってなに?いいものを安く作って高く売る力だ。日本はその力が充分にあったが、購買力平価をかけ離れた円高によって安く作れなかったから負け組だった。こういう経済原理を知らない政党と浮世離れの左派経済学者と日銀総裁が経済力をめちゃくちゃにしかけたが、お鉢がまわった自民党によってからくも一命をとりとめた。日本は去年は世界で一番上がった株式市場になったがあたりまえだ。

安くも作れないし高くも売れないし、そもそもいいものを作る能力もなければ努力もない国は失業が増え、経済力が失墜し、税収が減って国家が破たんする。これもあたりまえだ。だからピンポイントに終点同士を点と線で結べば、ギリシャのような先進国の末端にいた国が大負けして、中国人に爆買い資金を供給しているのである。まさかそんなこととは知らないギリシャの人々は自国政府やEUをこきおろす。そのどっちが好きですか?が先日の国民投票なのであって、どっちが好きになっても実はなんの解決にもならないのだ。

日本は爆買いで漁夫の利をえたぐらいで安心してはいけない。ギリシャがコケるとこれまた貨幣経済というグローバルな鎖をつたって地球の裏側でも何か良くないことが起きる。日本の評価がいろんな方面であがっているのは円安で安いから行ってみよう、買ってみようという力のドライブがあり五輪の期待もある。その反面でエネルギーや食品や武器を日本人は高く買わされるという負の面がでてくる。本来通貨は強い方がトータルに得なのであって、弱いからお得なんていうものの理にかなってない利益が国家の長期繁栄を約束することはない。

日本に追い風は吹いてるから形成は有利だが、敵がレッドカードで10人になったにすぎない。攻め込めば勝てる確率は高まったが、オウンゴールを待っても勝利は永遠にやってこない。

 
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