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ヌーブルジェのラヴェルを聴く

2013 NOV 11 13:13:11 pm by 東 賢太郎

J.S.バッハ パルティ―タ第2番 ハ短調 BWV826                   ショパン ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58                        リスト 巡礼の年第1年「スイス」から 郷愁                           ラヴェル 高雅で感傷的なワルツ                                ラヴェル クープランの墓

先日これを聴いてきました。なんとも魅力的なプログラムです。オペラシティは1階の前の方だとピアノはなかなかいいです(オケは音が上に飛んでしまう)。スタインウェイですがやや木質の暖か味があり、残響と程よくブレンドしてくれます。ジャン・フレデリック・ヌーブルジェ(Jean-Frederic Neuburger)はフランス人ですが独語読みではノイブルガーだからドイツ系なのでしょうか。

僕はラテン・スクールのピアニストが好きでミケランジェリ、ペルルミュテール、ポリーニ、アルゲリッチ、チッコリーニ、ルプーなどコンサートを聴きましたが、録音でもコルトー、カサドシュ、ロン、ユボー、ルフェビュール、バルビゼ、フェブリエ、フランソワ、ケフェレック、ティーポ、メイエ、ルヴィエ、アース、ウセ、クリダ、あたりをよく聴いています。ということでヌーブルジェはそれなりに気になったわけですが、何か情報があったわけではなく、ひとえに「クープランの墓」が聴いてみたかったのです。

彼の特色を結論から申し上げると、大変なテクニックながらそれを前面に出さない趣味の良さ、知性と品格でしょうか。ショパンの第2楽章。スケルツォ主題を弾く右手の弱音のレガートが印象に焼きつきました。極上の滑らかさであって、例えるなら上質のペルシャ絨毯を撫でた感触。凡庸な人とは同じ楽器を弾いているとは思えないような音です。それがあまりに楽々と出るのは、ぜひピアニストの方にきいてみたいですが、大変な技術なのではないでしょうか。

i-tuneで売っていたので「クープランの墓」を比べてみましたが、前奏曲はライブの方が心もち速くやや淡泊でした。オケ版のオーボエやトランペットの音色を意識する風でもなく。フーガはほぼ同じ。対位法を紐解くイメージで面白く、最後を遅目にするのがユニークです。フォルレーヌは同じテンポでしたがCDの方が和音への反応が繊細。ライブは中間部のフレージングもちょっと中途半端に感じました。リゴードンはライブが活気があってよかったですね。丹念に彫琢したメヌエットは中間部のバスの入れ方が好きです。これは両方とも非常にいい。そしてトッカータ。力演でした。

「高雅で感傷的なワルツ」は各曲を微妙なニュアンスを弾き分けていて楽しめました。この曲はサントリーホールで聴いたツィマーマンの名演が耳に残っていますが、第3曲(Modere)など静かな場面での見事なタッチなどはヌーブルジェの個性が際立っていました。これは名演でした。

アンコールにプーランクのトッカータとショパンを2曲(エチュード、ノクターン)がありましたが、これを聴いてみると彼のタッチはショパンに最も向いているんじゃないかな、どうもそう感じます。平行3度の速めのパッセージを軽いレガートで歌うなど、ショパンだからできたのではという奏法が彼は苦もなく出来て、聴いたことのない味を出せるのです。ショパンには興味がないですが、あれなら聴いてもいいな。

ただ、繰り返しになりますが、それがウリではなく、知性と品格でそれを支配するセンスの良さ。恐るべき27歳です。作曲家でもあり、23歳で最年少でパリ音楽院の教授就任という人だから何年に一人という天才なのですが、彼の演奏に感じたのは技術、テクニックではなくそれを用いて描き出そうとしている彼の音楽のモチーフの大きさです。

最初のバッハはハ短調の重い曲であり、次のショパンもロ短調。重いです。コンサートのトリに来てもいいぐらい。それを彼はあえて重いまま弾くのです。バッハの冒頭の和音の暗い音色は印象的でした。後半のリストもそう。暗いのです。だからそれに続くラヴェルのコントラストが眩いほどにきわだつ。プログラム自体で彼は大きなモチーフに基づいた作曲をしたのかなと思います。

Youtubeにあったショパンのエチュードです。ポリーニのデビューの同曲は衝撃でしたが、それを思い出します。わが国ではまだ知名度がいまひとつなのでしょうか空席が目立ちましたが、いずれチケットがプラチナになる人と思います。

http://youtu.be/KkOPqgpBxME

 

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