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NHKスペシャル「STAP細胞不正の深層」の感想

2014 JUL 31 18:18:21 pm by 東 賢太郎

NHKスペシャルを拝見した。まず、NHKが「不正」と題して気合いの入った番組を作ったのだからそこまでの証拠があるのだろうというのが第一印象だ。

ただその証拠は番組では明示されず、関係者、学者らのインタビューから理研、小保方氏、笹井氏が論文不正をしたようだという推察を生み出そうというトーンで描かれた印象でもある。

これは日本人に限ったわけではないが、悪い人がするのは何でも悪いことだという思い込み(前提A)は広くある。「悪いこと」の証拠はなくても、その人が悪い人だと思わすことができれば「悪いことをした」(結論B)ことになってしまう。

これを演繹法というが、前提Aが常に正しいならBは正しいと証明される。しかし、悪人だって善行をすることがあるから間違っている。だから結論Bは正しいとは言えない。

そうやって問題になるのが冤罪であり、大昔の魔女裁判もその一例だ。そこまでいくと「トンデモ演繹法」だ。きっと続編があるのだろうが番組がここで終わるとそういうものだったようにも見えてしまう。

僕は科学の素人だし情報源はプレスとネットしかない。それでもアームチェア・ディテクティブは可能で、僕がもっと知る分野での仮説をもっている。それは3月のブログにある。ところがそれに2万4千のアクセスをいただいたのはいいが、インサイダー取引の傍証として各所に引用されてしまったのは非常に困る。

第一に、インサイダー取引=悪人⇒悪事、というトンデモ演繹法に加担する気は毛頭ない。第二に、内部者取引を構成する重要事実はないか立証が難しい。それでもインサイダー取引だと言ってしまうのは法学部卒業生の良心から堪えがたい。

第三に、不正利得があった可能性があるとはブログに書いたことだが現行法の網にかからない、まさにインサイダー取引でない、そこに論点があるのであって、それをインサイダーだと騒いでしまったらなんのこっちゃなのだ。

米国ではかような経済犯をSEC、FBIが動いて逮捕しており法整備もされる。だからウブな日本を狙った可能性があるのであって、それが僕の仮説を構成している。論文不正があったのかということとその仮説は別の話だ(正確には、仮説の一部分の構成要素である)。

ただ僕の論法は「もしAならBがうまく説明できる」というものだ。それ以上はできない。これは帰納法(厳密にはアブダクション)といい前提が正しくても結論が絶対に正しいという証明力はない。

僕は「刑事コロンボ」が好きだが彼の方法はアブダクションだから物証がないと逮捕できない。それがない場合が面白い。アブダクションで得た結論Bを正しいと仮定して今度は華麗に演繹法に転じてみせ、犯人にカマをかけて尻尾をつかむ。だめを押すのは物証か演繹なのだ。

不正を立証するならコロンボみたいに「事実」と「論理」の組み立てによらなくてはならない。トンデモ演繹法はいけない。それで世論ごと追い込むのは政治手法であり、政治で人を裁くことは法治国家であってはならない。

僕個人的には小保方さんや笹井さんが悪い人という印象は別に持っていない、というよりも、どういう人かというプロフィールやご評判には関心がない。仮説に何の関係もないからだ。

少し前だが理学博士の竹内薫氏が「ES細胞との混合は超絶テクニックだ」として、「5年10年とずっと細胞培養をやった人じゃないと出来ないと思うんですよ」「小保方さんはそんなこと出来ないと思いますよ」とTVで指摘した。

だから彼女は「誤りによる混入の可能性は常に否定できません」と言っておいて「でもあるとしても過誤です。故意じゃありません。だってそもそも経験不足の私にそれはできないのになぜ私が疑われるのですか?」と言えば逃げられただろう。

ところが彼女は「コンタミ(混入)が起こらない状況が確保されていました」と言い、混入はない=STAP細胞なのだという路線でつっぱった。だから、論文撤回(=STAP細胞ではない)となると、混入があった、それは故意がないとできないと追いつめられている。「不正」とは故意があったと同義であることは言うまでもない。

一方、笹井さんは、「論文撤回でこれは仮説に戻った。しかし、STAP細胞が存在すると仮定しないと説明できないデータがある。検証する価値のある仮説だ。」とした。早稲田論文と同じで「草稿」段階でネイチャーに提出しました、勇み足でしたごめんなさいということだ。

論文不正?とんでもない。あれは単なるフライングです。まだ「存在すると仮定しないと説明できないデータ」解析のプロセスのさなかですよ。プロセスはまだ終了していないんです。だから検証実験をやるのです、というはこびになったと思われる。

この笹井さんの論法もアブダクションである。このロジックはホシを推理する手掛かりにはなるが、最後にはしかし、「コロンボくん、証拠はどこにあるんだね?」とうそぶくホシを観念させる「物証」がないと意味がないのは前述のとおりだ。

時効成立までに物証が出なかった、あるいは、そのデータも捏造だった、別な理由で説明できたということが「検証」される可能性もあるが、もしそうであれば、そのいずれにしても、STAP細胞は暗い闇の中に戻ったということを意味する。

NHKの論法がトンデモ演繹法ではないことを祈るが、不正を証明するならSTAP細胞とされたあの物体が何だったのか、伝聞ではなく即物的な事実を究明することだろう。

万一これが暗闇の幻、誘蛾灯だったとするなら、何かの理由で誘い出された日本の科学者の方々はむしろお気の毒に思う。本件はさらに大きい構図があると思うが、これもアブダクションゆえ物証がいるのだ。あの世からピーター・フォークを呼んでこないといけないだろうか。

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