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国家とは(朝日新聞とSTAP事件など)

2014 SEP 15 14:14:29 pm by 東 賢太郎

 

ペンシルヴァニア大学ウォートン・スクールで、何の授業かはもう忘れてしまいましたが、先生が「国と企業とは敵対的な関係にある」と指摘したのが新鮮でした。彼が使った hostile (敵対的な) という形容詞のニュアンスは非常に強いものです。

米国の政治家や兵士はGod(神)の御名で誓いを立てて合衆国のために職務遂行をします。僕もミクロネシアに会社を作るとき、当地は米国法ですから米国式のoath(宣誓)を致しました。だから、神の代理人としてやっている国と敵対するという表現は実に重いものなのです。米国民と連邦政府とが決裂した、民が神に決定的に逆らった初めての事例が、ベトナムの反戦運動ではなかったでしょうか。

前回、「孤独権」というものについて書きましたが、実は企業ほどそれを求める者はありません。企業が僕個人の様に哲学したり音楽を聞いたりするわけでないのでそれは経済的な面に限定した話ですが、国家が神であろうと人であろうと対立をいとわず、自分で自分の時間を支配し、干渉を避け、自己責任で最良の人生(企業の継続性)を希求する。少なくとも米国では企業とは本質的に、純粋に、そういう存在であり、特に株式会社制度というのは会社法によって当の国家がそれを法的に認めたものです。

企業とは利益にならないことに時間を使うことはありませんよという暗黙の了解のもとに資本家からお金を集めて成り立っている存在です。無益なセールスマンの売り込みをきいたり、利益の出ない研究などに1秒たりとも時間をさくことは許されないのと同じで、国に過剰な分量の報告書を書かされたり箸の上げ下げまで指導されるようなことがあれば利益が犠牲になり、資本家の認容を得られません。つまり「孤独権」が保障された国の住民であることは大前提で、それがないなら僕と一緒の理由で海外移住を考える存在なのです。

会社の存続は収益のみに依存します。収益は孤独のままでは得られません。それを好むと好まざるとに関わらず、孤独を捨てて他者との関連をもって初めて生じます。商機を得るためには他人の都合や時間に支配されたり、好まざる譲歩を迫られたり、理不尽なマージンを飲むことを覚悟することもあるでしょう。つまり利益とは孤独権の犠牲で生まれます。犠牲という代価を払って得た利益の一部を搾取されるなら、それは孤独権を一部拠出したということになるのです。それが、支払う側から見た場合の税金という物の本質です。

税率というのは、孤独権の少しの拠出で、その大きな侵害を防げるなら良しとするぎりぎりの所に設定されなくてはなりません。不測の侵害から守ってくれるのはありがたいのですが、いつ何時邪悪な心を発して権利を過剰に侵害するかもしれないのが権力だというのが西欧の考え方です。その権力を握る者の邪心を縛るためにあるのが憲法であり、それがやりにくいので改正手続きのバーを低くしましょうと国家が言いだすというのは本末転倒でありましょう。

国家は警察官としてはありがたいが、ちょっと間違うと強盗にもなる、だから性善説、性悪説でいうならば当然に性悪説でしょ、というのがウォートンの先生の言葉であって、そういう相手(国)とはhostile(敵対的)な関係であるのは当然と理解されるのです。ここが、税金を年貢とカン違いしている日本人と決定的にちがいます。日本人にとって国とはクニであり、言うことを忠実にきいていれば守ってくれ、泣きつけばお金をくれる慈母のような心のふるさとであって、いつも変わらぬ「性善説」なのです。

外交、軍事はともかく内政において政府性悪説寄りに立っている有権者が多いアメリカでは政府の税金の使い方に厳しいのは当たり前で、国民の権利保全をする役目の国家に権利侵害されても仕方ないかどうか、という観点から国家を見張っているわけです。これが市民革命で自由を勝ち取った国民の常識です。しかし我が国は明治政府がそれの形骸を輸入しただけで、国と国民の関係は江戸時代までの藩主と農民の関係とちっともかわりません。少なくとも潜在意識のうえでは。

例えば、きのうTVで安倍政権の女性登用をやっていて、「女性に優しい社会を」とアナウンサーが言ったところ、「それはいいことですが、機会均等をいうなら優しいかどうかより公平性が大事でしょう」と言う人がいる。そうしたらこの女性アナウンサーが、「安倍さんは家事で奥様を手伝うそうですよ、だからぜひ皆さまも」とくる。将軍さまを見習いなさいです。社会に出ている当の女性がこういう江戸時代か北朝鮮なみの精神構造のままだから女性が社会進出できないんだという説得力には富んだ番組でした。ちなみに公平が大事と言ったのは英国人の大学教授でした。

もっといえば、この家事を手伝うというのが小保方さんに割烹着を着せたのと同工異曲の臭いパフォーマンスで、こういうのに騙されやすい国民の民度の反映であるのです。アメリカは家庭の半分以上がCATV(ケーブルテレビ)契約をしていますから、番組を流す方も視聴者のレベルを選別できます。しかし国民の大多数が地上波の公共放送番組を見る日本では、視聴者のアベレージに合せるしかないでしょう。

それが小学校高学年レベルになってしまうというのはおそらく米国でも大差ないか、むしろもっと下でしょうが、知識人も小学生につき合わされているというのが我が国固有の問題であります。知識人ではあっても、TVの潜在意識下でのイメージ操作には引っかかります。それに新聞が加われば、我が国は非常に政治的な意図による大衆のオピニオン操作がやりやすい国ではないかと危惧します。

朝日新聞の従軍慰安婦誤報は各種興味深い展開を見せています。あんな報道を米国のプレスがすれば即刻抹殺です。まして嘘でしたなどとなれば責任者は国によって暗殺されるかもしれません。報道できたのも不思議だが今度は間違いでしたと国民に謝罪する。しかしこの事件は社長の言う「朝日新聞に対する読者の信頼を大きく傷つけた」というレベルではないでしょう。嘘を書いたなら信頼はもう残っていないだろうと思うのです。

ところがそれに対する批判を見ると、謝罪が遅いだの、掲載を断られただの、黒塗りになっただの、社長はいつ辞めるんだなどの騒ぎになる。そうではなく、朝日のやるべき唯一のこと、信用回復する唯一の道は、英文で、世界に向けて、真実はこうですと、社長名で発信することではないでしょうか。国民に謝罪するのは不買運動が怖いだけと思われてしまいます。いま大多数の国民にとっては、朝日の経営や信頼よりも、朝日を敵視する勢力のプロパガンダよりも、慰安婦の銅像まで建ってしまった外国での日本国、日本人の信頼回復の方がどう考えても大事ではないでしょうか。

こういうマスコミに洗脳されてきた国で、徴収された年貢の使い道を見張ろうなどという発想は期待できませんから、あの公衆の面前で泣きわめいた市議が税金泥棒問題を喚起してくれたのは実に健全です。彼自身は西宮市の不利益でしたが、彼の行為は国益になりました。僕がSTAP論文捏造事件は徹底究明すべき国家的問題であると思うのは、捏造とわかっていた行為に多額の税金が投入された形跡があるからです。私事であった偽ベートーベン事件とは次元がまるで違うのです。

大衆の洗脳、扇動という米国の手段、手法はそれ自体が非常に体系的、科学的であり、ほとんどの日本人には何のことか見抜けていない魔法のような「マーケティング」という学問にすらなっています。ウォートンで僕はそれを「仮想のケチャップ製造会社のCEO役」という想定でグループスタディとして学びました。そこで我が社のケチャップのプラスイメージを増幅する装置としてのCM、プレス報道の米国的な意味を知りました。ケチャップを候補者に置き換えれば、その手法はそのまま選挙活動です。

昭和20年に米国は日本を領土化しませんでしたが、異教徒を直接支配するという無用のリスクを冒さずに為政者を傀儡(かいらい)として間接支配する道をとったと思われます。防衛権と外交権がないことが国家と地方政府の違いの定義です。軍隊のない国に外交などありませんから、安保条約を結んだ瞬間に、明確に論理的に、日本は米国の州となったのです。

この間接統治とは英国がインドを支配した手法です。英国は我が国に対し「日英同盟を破棄しましょう」とは一度も言っていない。「日英二国間条約を解消して、米国を含む多国間条約にしましょう」と言っただけです。日米二国間関税協定では日本は納得しないからTPPにすり替えて押そうというのと同じ「ネコだまし」です。その時点では英米の国益は一体になっており、日本統治の手法も合体、統一されたと思います。

米国と殺し合いをして300万の尊い命を失った代償としては軽すぎますが、少なくともその犠牲に報い、平和に生きていけることへの感謝のためにも、日本人はもっと知り、学び、決断しなくてはいけないことがたくさんあるものと思料いたします。

 

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Categories:______世相に思う, 若者に教えたいこと

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