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FRBとドラギが握った?

2015 JAN 22 0:00:08 am by 東 賢太郎

スイス中央銀行(SNB)は僕が3年スイスの社長をしていた間に何度も行き、当時のツヴァ-レン総裁ご夫妻には懇意にしていただきました。007のロジャー・ムーアやソフィア・ローレンの家がある高級リゾートのクラン・モンタナに奥様がホテルをお持ちで、2回も家族でご招待いただき、ご夫妻と教会のアンティーク・オルガンでバッハを聴いたり、ゴルフをしたり、素晴らしい思い出です。

ツヴァ-レンさんには政策策定の裏話、苦労話を色々教わりましたが、当時欧州金融のドンであったドイツ連銀とうまく距離感を置いた運営の仕方には独仏伊3大国に囲まれて生きてきたスイスという国の英知が詰まっていると大変に勉強になったものです。

そうしたSNBの手堅さと金融政策運営のうまさは折り紙つきで、それゆえに97年以後もユーロ通貨同盟から独立という超然としたスタンスをキープし、スイス・フランという信用力ある通貨を保持してきたのです。その信用力が結果としてあだとなったのが今回の突然の対ユーロ上限撤廃によるSF急騰です。

SNBとはそういう経緯があるので僕はこれには複雑な思いをいだいています。通貨が一気に4割近くも上昇するというのは、ひょっとして人類史上初じゃないでしょうか。消費者物価、通貨価値を安定させるのが中央銀行の責務ですから、これは大失政と批判されて文句はいいようのない事件です。

上限保持のための継続したユーロ買い介入でSNBのバランスシートの対名目GDP比は83%で資産の91%が外貨であり、外貨建て資産の含み損は名目GDPの15%という試算もありますから危機的な事態であったのは事実でしょう。しかしなぜあの堅実なSNBマネジメントがそこまでリスクを張りこんだのか、そこがよく理解できないのです。

つまりリスクを取ったまでは順当な判断だった前提が崩れ何か不測の事態が起きて、やむなくその判断をしたのではないか。それならわかる。GDPの3割強が輸出の国です、1割ちょっとの日本よりはるかに通貨高は自国の首を絞めデフレ化するのは目に見えています。SF上昇率も異常だが、SNBの判断自体が異常であり、それが気持ち悪い。

これは僕の推測ですが、FRB利上げ遅延が長引くと世界の総需要停滞の憶測を生み唯一の牽引車である米国までデフレが及ぶ懸念が蔓延します。そうなると世界経済は崩壊しますからそれだけは避けたい。流動性供給の代役だった日本と欧州ですが、日本は全くの期待外れで、そこに原油安の物価低下圧力がかかってきた。欧州はいずれにせよユーロシステム堅持から逃げ場はない。

FRBとドラギが握った、その情報がSNBに入ったんじゃないか?(わかりません。007と思ってお読みください)。そうであれば大損は必至であの判断はやむないでしょう。ギリシャのユーロ離脱はGrexit(グレグジット)という単語にさえなってます。国債借換えのカネすらない。ECBが青天井の緩和をすればしかし国債は買ってもらえ成長機会は残る。ギリシャの政党はどこもユーロ離脱に控えめです。ドイツはユーロ安は賛成だ。

もしそうだとすると通貨のパラダイムは変わるかもしれません。各国中央銀行がお金をばらまいたのに歩を合わせてリーマンショック後に世界の株価は上がってきました。

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しかし世界の物価は上がっていないのです。

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これが中国ビッグバン仮説の帰結であることを僕はいささかも疑っておりません。どこの国も逃れることの出来ないデフレの波です。これはパラダイム変換だから元に戻らない。この認識が最重要なのです。しかしわかってない人は、行き過ぎは元に戻る、いわゆるシクリカル変動というものを盲信しています。世界の9割の人はそうです。

この事態の特効薬は流動性供給だと世界の中銀が体を張ってきましたが、限界が来たのです。産業革命を発端とする機械文明がけん引した世界経済の成長波動が終焉し、次が見えない。金融政策だけの片肺飛行で飛行機がダッチロールに入っているのがいまです。SNBがまずその犠牲になった。いつ日銀がならないとも限らない。いよいよオペラは次の幕が始まった。そう思います。

 

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Categories:______グローバル経済, 経済

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