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日本の情報戦略は脆弱である

2015 FEB 10 2:02:32 am by 東 賢太郎

先日TV で本田圭佑がサッカースクールの少年たちにノートを渡して「将来何なりたいか書きなさい」といい、「次にそれになるために今の自分は何が足りないか書きなさい」と指導していた。彼自身は「サッカー選手になる、イタリアでプレーする」と書いてその通りになっている。

誰でもそうできるわけではないし、僕も「野球選手・天文学者」だったが今や見る影もない。しかし、それでも思う。目標はあったほうがいい。達成できればそれにこしたことはないが、失敗してもいい。なぜなら「悔しい」という気持ちが残る。いまだにメジャー大会日本人男子最高位である全米オープン2位に輝いたゴルファー青木功がこう言っている。「人は悔しくて成長する」。

いま、閣僚や議員にそのノートを渡して、将来の日本国について同じ質問をしたら何を書くのかなと思って聞いていた。長期目標がないのは致命的だ、なぜなら用意周到な準備ができないからだ。米中とも国家ビジョンを持ってそれをやっている。中国はニカラグアに運河を掘っている。パナマ運河の北だ。米国と戦争になったら大西洋に艦隊を廻せるからだろう。

中国はミクロネシア連邦に対して国会議事堂の建設費を寄付した上で、その真正面に立派な大使館を建てている。かたや日本国大使館は民間の建物の間借りで、大使も常駐せず巡回大使だ。国家予算は約90億円でうち半分ほど米国が補助しているが米国は海軍の前線基地はグアムでありミクロネシアに大枚をつぎ込むインセンティブはもうない。一方、中国はアジア太平洋海域支配を拡大する「用意周到」な準備が着々と進んでいるのである。

日本もご縁が深いミクロネシアには数億円のODAを行って前田道路や三井物産が道路や発電所を作ったりしているが、ベトナムでもきいた話だがで現地の許認可等でODAで感謝されて日本企業への認可が速かったり有利になったという話は聞かない。それを韓国企業から「おかしいですよね」と同情される始末である。昨年、ミクロネシアが日本のカツオ漁船を領海侵犯で拿捕した。驚いたのは罰金が法外な3億8千万円だったことだ。僕は一昨年同国に行って外務大臣まで会っているが、あの雰囲気からは腑に落ちないニュースだ。

かたやこっちはお寒い限りで、民主党政権時代の3人の首相にも議員にも、お世辞にも国家という意識が感じられなかった。反日の国家公安委員長を出すなど、昭和20年に日本は一度滅んでもこんないい生活ができているんだからまた滅んでも大したことじゃないだろうとでもいいたげな印象だった。いずれ米国はミクロネシアはおろか日本からも第七艦隊を引き上げるだろう。イスラム国のようなのが出てくる一方で直近の60年間だけでも180以上の国が地球上から消えているそうだ(「消滅した国々」吉田一郎著)。

僕が危惧するのは軍事よりも情報だ。日本の官庁、銀行のIT、英語リテラシーは低い。起業して投資助言代理業の供託金500万円を振りこもうとしたら「現金を持ってこい」だった。札束勘定機でぱたぱた数える窓口はそれが役所の威厳だとでもいうのか古色蒼然、50年前の郵便局を思い出した。前職(東京)で米国人を20人採用してメガバンクに口座を作ってこいと言ったら、大手町の本店にいるが窓口で英語が通じず説明書も契約書も日本語しかない、中国でもそんなことはなかったぞと苦情の電話が来た。

日本政府はサイバーセキュリティーセンターを作ったそうだが人員は百人ぐらい、自衛隊のサイバー防衛隊も百人ぐらい。中国の情報戦要員は上海だけで数万人、米国は情報機関と軍に全部で百万人だ。これが何を意味してるか?米中は情報を取りに行っているが日本は守りだけなのだ。徳川幕府と変わらず鎖国だけしようという人数である。取りに行く気がないのは攻める気も情報戦略もないからで、それでどうやってサイバー戦争に勝てるというのだろう。

金融の仕事にいると痛感するが、商品がお金である金融ビジネスの競争力は情報力しかない。そこがモノを扱う商社やメーカーと違う。情報力は英語力でもあり、日本の金融機関が世界で勝てないのはその両方が弱いせいなのだ。えっ、MBAも多いしそんなことないでしょと思われるかもしれないが、メガバンクや大手証券の社員で英語で商売できる人は1割もいない。僕のいたところでせいぜい5%であり、それでも日本企業としてはハイレベルでならしている。

だから英語の生情報を取る能力は低く、日本で働いている大手証券の社員で、いまFEDとECBで何が起きているか、つまり世界の金融総本山が何をしそうか推測してみろといわれて、英語世界の情報の8割以上を即座に答えられるのは1000人に数人しかいないだろう。テレビに出ている専門家や政府のアドバイザーもそれには入らないはずだ。なぜならどんなに能力があっても情報収集は一人では無理だ。だから大手証券はシンクタンクでそれを集団でやっている。

しかしシンクタンク、何々総研といっても他人(顧客、投資家)のための情報収集しかしない。はずれても御免ですむ。そんなものに政府が乗るわけにはいかない。だから米国にはinformation(情報)とintelligence(諜報)という別な言葉がある。「CIAのIはinformationのIだよ」といわれれて「嘘でしょ」と見ぬける日本人は、これも1000人に数人しかいないだろう。 情報と諜報の区別を知らない日本人

サイバー防衛隊に「ITの専門家」を百人もおけば事足りると軍である自衛隊が考えているなら太平洋戦争時分と大して変わっていない。まして我が日本国は国家中枢へ行けば行くほど英語がダメでITに弱いときている。つまり、軍事戦略のようなintelligence(諜報)を作りだすベースとなる「ITによる英語情報取得」に多くの専門家を擁しないといけない。それを入れて日本は百人、英語を母国語とする米国の情報戦要員が百万人という数の意味がそれでお分かりいただけるだろうか。だから「中国の数万人」というのは、サイバーのみならず国防上も震撼すべきことなのである。

従軍慰安婦問題で明確な反対情報を世界に発信し遅れるなど中韓に後手後手なのは、戦時ですら精神論にたより情報収集にあまり重きをおいてこなかったツケだ。自分で集めない物は価値もよくわからない。相手は徹底した合理主義による用意周到な情報発信をしている。例えば昨年11月の安倍・習近平会談で中国は尖閣などについて自国に都合のいい内容を英語で約束より早めに発表し、間違った情報が世界に発信されてしまった。

間違ったinformationでも堂々と発信する。間違っているからかえってinformationとして反論しにくいのを計算したintelligenceであって、それをまったく無視するのが日本流のintelligenceなのだが、それがワークした時代は終わった。相手はそれがネット社会では不利に働くことまで見越している。これにヘイトスピーチで立ち向かうのは相手の思うつぼだ。それが今度は「碁盤をひっくり返す蛮行」として世界にネット放映されてしまい、イメージを落す。囲碁には囲碁で、碁盤の上でやりかえすしかない。

 

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