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ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(3)

2015 MAR 27 1:01:07 am by 東 賢太郎

ハンス・シュミット・イッセルシュテット / 北ドイツ放送交響楽団

110第1楽章は微妙に速めのテンポでコクのある表現だ。本物の手触りがある。オケは弦がトップクラスとは言えないが自然体で立派なブラームスになってしまうという風情。第2楽章ももたれずテンポは曲想に添って自在に変化する。第3楽章のオーボエは歌うというより何か主張している。終楽章もトスカニーニのように速いが無機的な響きにならない。筋肉質で武骨に聞こえるが第2主題に絶妙なギアチェンジなど細かい芸が見え隠れしている。コーダはやや加速して熱く締めくくる。オケは素晴らしい集中力で弾ききっており破綻は一切なし。録音がややくぐもっているのが実に惜しく0.5減点するが、これは純正北ドイツ流かつ達人の一筆書きの勢いある誠に立派な2番である。厳しい男性的なブラームスとしては最右翼の演奏だろう。(総合点 : 4.5)

 

カルロ・マリア・ジュリーニ / ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団

510冒頭のゆったりしたテンポからジュリーニの世界に引き込まれる。全楽章にわたるこの特異な遅さについていけるかどうかで好悪が分かれるだろう。晩年のジュリーニはロンドンやアムスで何度も実演に接したが、バッハもロッシーニもフランクもそういうテンポでなくては語れないことを語る指揮者であったしそれをVPOがやらせてくれる指揮者は当時数人しかいなかっただろうと思う。細部にまで考え抜かれ神経が通った演奏は満足をくれるがそのアプローチが最も成功したのは4番であり、この2番は個人的には求める物とちがう。(総合点 :  3)

 

ホルスト・シュタイン / バンベルグ交響楽団 (July 1997、ライブ)

51hxQfCYaZL95年にフランクフルトでこのコンビのベートーベン「田園」とブラームスピアノ協奏曲第2番(ルドルフ・ブッフビンダーpf)を聴いて大変感動した。郊外にあるヘキストの体育館みたいなホールで日本人は僕しかいなかったかと思うほどドイツの奥座敷みたいな所。そんな中でブラームスを聴く幸せは人生格別の思い出のひとつになた。このKochの全集も地味だがあのときの音がしている。何も肩ひじ張らない、ドイツ地方都市の普段着のブラームスはこういうものだと思って聴いていただきたい。2番のコーダでこんなにゆったりと慈しみ、興奮をあおらないのは見識だ。これをベルリンPOやシカゴSOの名技やらデモーニッシュな指揮者の切る見栄に欠けると批判するのは簡単だが、逆にそういう演奏のほうがよく出会えるのだ。(総合点 : 4)

 

エンリケ・バティス / メキシコ国立交響楽団

429シュタインとは対照的な速さ。湿気のないラテン的な音。指揮は実にメリハリに富み、旋律をじっくり歌うというよりリズミックな音型をすべてスタッカート気味に処理するというブラームス演奏においてあまり意味を感じないことに力点が置かれ、句読点を切った早口言葉にきこえる。と思えば意外なところで内声部が浮き出たりする変幻自在さを持ちあわせ先が読めない。第2楽章冒頭チェロ旋律はもうModeratoの別な曲だ。普通は9分ほどかかる終楽章が上記のシュタインは10分半と最遅クラスで、一方このバティスは7分台と超快速のショルティよりさらに1分近く速いというウルトラぶりである。初めての人にこれとシュタインを連続して聞かせたら同じ曲と思わないだろう。クラシックの面白さだ。マニア向き。(総合点 : 1)

 

ヤッシャ・ホーレンシュタイン / チェコ・フィルハーモニー管弦楽団(8 Sep 1966、ライブ)

SOMMCD037モントルー音楽祭のライブ。ホーレンシュタインはロシア系ユダヤ人で現代音楽に強く、GHQ憲法草案制定会議のメンバーとして日本国憲法の起草(特に第24条)に関わったベアテ・シロタ・ゴードンは彼の姪である。チェコPOは主席アンチェルの指揮のようには好調ではない。ホルンソロがこのオケ特有の音で第2楽章のヴィオラ、チェロとの絡みは美しい。指揮者のブラームス演奏への適性は感じるがなにせオケが不調で終楽章コーダの第一トロンボーンはよれよれだ。(総合点 : 1.5)

 

エーリッヒ・ラインスドルフ / ボストン交響楽団

leinsdorf客演が好評だったスタインバーグをBSO理事会はミュンシュの後任として音楽監督に据えるつもりだったが、レコード会社のRCAがリストのトップに持っていたラインスドルフを押し込んだのだった。そうでなければこれはスタインバーグのCDになっていただろう。しかしこれは前任者ミュンシュをさらに正統派にしたような名演でオケがウィーン・フィルだったら歴史的名盤ものだったのだからRCAの独断には感謝しなくてはならない。BSOも大変見事な演奏をしておりまったく文句はつけようがない。カセットを留学中に愛聴したせいもあり耳に焼きついて僕の2番の原型を形成している演奏の一つで、右のCDは89年にロンドンで買って夢中で聴いたもの。ラインスドルフは最晩年にNYでブルックナーの3番を聴いた(NYPO)がワルターの弟子であり独墺ものは実に素晴らしい。ベートーベンとブラームスは広く聴かれてほしい。(総合点 : 5)

 

クルト・ザンデルリンク / ドレスデン国立管弦楽団

sanderling2番の滋味あふれる表現は何度聴いても飽きず、いつまでも聴いていたい。DSKの木質の管弦のブレンドはブラームスに実にふさわしく、全楽章が理想的なテンポで揺るぎのない堅固な構成を見せる。この全集の1番がLP(独オイロディスク)で出たのが僕の高校の頃で、当時の日本の評論家に凡庸な指揮だと酷評されたのを記憶している。そうではないからこの録音が欧米で長く生き残っているのであって、何か奇天烈な個性がないと無能という評価はまったく音楽の本質と遠いものだ。ザンデルリンクは96年にチューリッヒでシューベルト9番の名演を聴いたが、やはりこういう語り口で感動的だった。ドイツ人がドイツ語でやったブラームスがどんなものか、まずそれを熟知するのがブラームスを味わう第一歩と思う。(総合点 : 5)

 

キリル・コンドラシン / アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 (29 Nov 1975、ライブ)

51S6Wz7A4ZL__SL500_僕のCD(右)は93年にドイツで買ったもの。指揮者晩年のアムス・ライブ・シリーズで全部が格別に素晴らしく、全部買っておいた判断に感謝している。2番は全体に速めで第2楽章などそっけなく聞こえるが、語るべきは語っている真打の落語のようなもの。コンドラシンがN響を振ったビデオを見ると特異な魔性を感じる男前の風貌で、ださいロシアの田舎もんのイメージが覆った。ACOをここまで自在に歌わせコントロールする磁力は納得だ。並録のシベリウス5番がこれまた魅力的でこのCDは大事にしている。セカンドチョイスとしてぜひ一聴してみて欲しい。(総合点 : 4)

 

(補遺、2月28日)

ダニエル・バレンボイム / シカゴ交響楽団

51NWRQBNYBLこのコンビの2番はフランクフルトのアルテ・オーパーで聴いたがあまり印象がない。これで聴き直すと、重量級だ。第1、4楽章第2主題はCSOの弓の圧の強い弦の合奏、このたっぷりした歌はききもの。第1楽章コーダ前のホルンソロのpp、そこからの滑らかな起伏は逸品だ。2番で非常に重要な金管アンサンブルも敢然とするところなし。うまい。第2楽章は彼のロマン的な表現がはまっており名演である。しかし終楽章のコーダの加速がいらないのだ。トロンボーンのソロなど全演奏でも特筆ものなのだが、どうしても趣味に合わない。(総合点:3.5)

 

(補遺、3月28日)

カルロ・マリア・ジュリーニ / ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団

51XCKSqLWZL79年12月11日、ドロシー・チャンドラー・パビリオンでのライブ。アンサンブルは荒っぽく、録音も高音がやせて弦が薄い。テンポのアップダウンが少ないのは上記盤VPOと同じだがライブのせいかこちらは熱気がある。同じオケでのDG録音はこれの約1年後になるがここから練り上げていったということだろう。ジュリーニ節は既に健在だがいかんせん音が悪い。終楽章コーダは大人の扱いで加速は少ないがティンパニが1発多くたたいたり最後は楽譜と違うので気になってしまう。(総合点:2)

 

(補遺、2018年8月26日)

サイモン・ラトル / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

youtubeのビデオですが、あまりに素晴らしいので。この第1楽章の出だし、すぐに惹きこまれ心がふるえる。深い呼吸は最高に素晴らしい。これぞ2番だ!第2楽章も弦も楽器奏者たちの歌ごころを引きだしてあまりなく第3楽章が室内楽アンサンブルのよう。指揮者は奏者たちの呼吸を合わせているだけだからだろう、終楽章第2主題への減速が実に自然だ。展開部最後の深い霧。堂々たるインテンポの終結。BPO音楽監督就任2年後である。ラトルを選んだ理由がわかる。(総合点:5+)

 

ヨーゼフ・クリップス / チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

1960年5~6月 、トーンハレ (チューリッヒ)の録音。オケは好調で技術も音程も良く、弦が主体のアンサンブルが中心だが木管とVa、Vcの内声が希少なほどくっきりと聞こえ、しかしバランスを損なわない録音のセンスも良し。クリップスは活躍の場がウィーンで王道。昔は微温的と評されていたが、我々世代がこれぞブラームスと安心、納得する音楽をやってくれる。終楽章コーダだけが僕の賛同しかねる部分だが、これが好きな方はおられるだろう。(総合点:3)

 

カルロ・マリア・ジュリーニ / ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団

ジュリーニがLAPOとドイツ・グラモフォンに録音したベートーベン(5)、シューマン(3)、ドヴォルザーク(9)は評価が高く(9)、特にブラームス(1,2)は垂涎だった。ジュリーニ一流の遅めのテンポ。濃厚な時を刻んだ2番の第1楽章はブラームスの後期ロマン派的側面を意識させるのはいいが総じてVPO盤に書いたことになる。オケの魅力は落ち、fではバックの金管(特にホルンはうるさい)、ティンパニが弦とは浮いて聞こえるバランスもあまりブラームスには好ましくない。終楽章コーダはトランペットの信号音のところで速くなるが(VPO盤も)全く賛同できない(総合点:2)。

 

(つづきはこちらへ)

ブラームス交響曲第2番の聴き比べ(4)

 

 

 

 

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