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ビル・ゲイツの思い出

2015 APR 1 12:12:57 pm by 東 賢太郎

 

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くじら座タウ星という恒星がある。太陽から11.9光年の距離にあり、太陽と似た星である。右の星図の中央下から二番目がそれだ。この恒星にタウ星eという惑星があり、生命の存在する可能性があるとされる。エリダヌス座のイプシロン星という恒星にも同様にその可能性があるとされる。

 

この2つの比較的太陽系に近い星を対象として、1960年に天文学者フランク・ドレイクがアメリカ国立電波天文台の口径26mの電波望遠鏡で始めた地球外知的生命体探査の試みがオズマ計画(Project Ozma)である。これを契機としてSETI(Search for Extra-Terrestrial Intelligence)なる「宇宙人探しプロジェクト」が始まった。電波を受信して発信源を探すだけでなく、アクティブSETIといって地球から電波を発信して未知の生命体との交信を試みることも行われている。

これは政府予算が組まれたが現在は大半を民間の寄付でまかなっていると説明されている。さらに面白いのは、誰でも電波望遠鏡の観測データを自分のPCにダウンロードして分析する無料のプログラムを実行させることでSETI@homeというボランティア・コンピューティングプロジェクトに参加できる試みも行われいることだ。全世界で520万人以上が参加しており、これまでで最大の参加者数の分散コンピューティング・プロジェクトだが、この手法はマイニングといってビット・コインの第三者による保有証明にも応用されておりとても興味深い。

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米国人は地球外知性とのコミュニケーションのために人工言語を作ったり、地球上の自然音、言語、音楽、大統領メッセージを録音した金のレコード(左)をボイジャー探査機に積んだり、2008年2月4日にはNASA50周年記念として北極星へ向けてビートルズの「アクロス・ザ・ユニバース」を発信したりしている。

 

アインシュタインの一般相対性理論を発展させ、ブラックホールの特異点定理を発表した英国の理論物理学者スティーヴン・ウィリアム・ホーキング博士は銀河系に知的文明を持った惑星が200万個は存在するだろうと明言している。1961年にアメリカの天文学者のフランク・ドレイクがドレイクの方程式を示し、地球外文明の数の存在する可能性・確率を具体的に数値で論ずることを可能にし自然科学者らに大きな衝撃を与えた。それを解くと、我々の銀河系に存在する通信可能な地球外文明の数は10個である。

それに対し、wikipediaによると、我が国において独自のSETIのようなプロジェクトはないようで、ちなみに上述のくじら座タウ星を検索してみると、その星が「ミニスカ宇宙海賊」(笹本祐一のライトノベル)、「ズッコケ宇宙大旅行」(那須 正幹の児童文学)に出てくるぐらいのものだということがわかった。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が北極星に向けて何か発信するなら坂本九の「上を向いて歩こう」かなと思うが、それは安倍さんついに気がふれたと格好の週刊誌、政局ネタになるだけだろう。

SETIプロジェクトは大方の日本人にとっては絵空事、夢物語、SF小説もどきというイメージではないか。皆さんが「宇宙人はいま~す」と真顔で言ってご覧になれば、99%の人の失笑を買うかこのヒト大丈夫かいなという眼で見られることに気づかれるだろう。それが日本だ。「宇宙人」はやめて「地球外知的生命体」(同じことだが)と言い直すと99%が70%ぐらいには減るだろうが、それは同感してくれたわけではなくもっともらしい言葉に思考停止しただけだ。

 

そう思っていたので、この記事を読んでさすがに欧米人は違うとうならされた。

地球外知的生命体探査計画に専門家らが警鐘 – AFPBB News

そんな馬鹿なことカネがもったいないからやめとけ、なんてみみっちい話ではない。危ないからやめろといっているのである。相手は獰猛なライオンかもしれないぞ、シマウマが自分で居場所を教えて食われたらどうするんだということだ。送っている電波の先に「誰か」がいることが前提になっている。

こういうことがホーキングのような大物理学者を交えて喧々諤々と議論されてしまうというニュースは、これまた宇宙人ネタとおんなじぐらいなんの波風も立てずに日本人の頭を通り過ぎるだろうが、実にショッキングなことだ。僕はそういうコミュニティの人々と日々世間話をしたいし、それが日本にないなら仕方ないからアメリカに移住したほうが老後は楽しいのかなとまじめに考える。

なぜくじら座タウ星が大事かというと、太陽はあと40-50億年で確実に死を迎えるからだ。地球は膨張した太陽に飲みこまれて跡形もなく消える。これは確実に起こる。だから「ノアの方舟」で人類は他の星に移住しなくては死滅するのである。日本人と欧米人の違いは「科学的かどうか」ではなく、そんな先のことは私は知らない関係ないと思うかどうかだろう。サイエンスというよりも宗教観のように思う。

星々の彼方に彼の御方がおられるはずだ

これは新興宗教の祈祷の文句ではない。ベートーベンの第9交響曲の歌詞の一節だ。これをドイツ人は Über Sternen muß er wohnen.  と歌い、日本人は イューベる シュテるネン ムス エる ヴォーネン と歌っている。このmuß(英語のmust)、「はずだ」というのがいい。日本と西洋の精神構造の決定的な違いを見事に教えてくれている一語だ。

50億年後の子孫の存亡をまじめに考え議論できるから、50億年前の太陽系の起源も137億年前の宇宙の創成も真面目に考えられるのだろうし、その逆も真なりだと思う。それは思考の基盤のようなものだ。物をきちんと考えるためには「基盤」がしっかりしてないと難しい。基盤はテニスコートと一緒で、どっちにも傾いていない、真っ平なものが望ましい。そうでなくては自由な発想、自在な着想、自然な論理の展開は妨げられるからだ。

その記事を読んで、ふと、1997年のダボス会議でビル・ゲイツが「21世紀の人間はどこの国に生まれ、どの大学で学んだかではなく、何を学んだかで生涯年収が決まるだろう」と言ったのを思い出した。もちろん、学ぶべきはITだという結論だ。「生きがい」とか「人生」とかアバウトな言葉を使わずにズバリ「生涯年収」というところがいいなと別なところに感心したこともふくめ、彼の淡々とした口調と物静かな物腰と合わせて、強い印象として残っている。

当時僕はそれをマイクロソフト社CEOの我田引水の議論と思って聞いていたように思う。企業経営者はそういうものだと偏見があったからだ。それこそ、僕が本稿で「頭の中のテニスコートが平らでなかった」という表現に置き換えていることだ。しかし、素直に客観的に、ビル・ゲイツがあのときに打ってきたボールをながめると、彼は18年前に今日の社会を正確に予見していたということだったと気づく。

彼の方は平らなテニスコートを頭の中に持っていたのだろう。それを使って彼の立場で見聞きする事物というボールの軌跡をじっと観察し、ああいう発言をした。そういうマインドの人でなければ、つまり単なる金儲けと欲得に目がくらんでいる人だったならば、あれだけの会社は創れていなかっただろう。

おそらく、僕を含めてほとんどのダボス会議参加者はゲイツの真意を見抜けなかったか、見抜いても心から信用はしていなかったように思う。そんな馬鹿なと思われるだろうが、1997年というと携帯電話がまだ珍しく、同じダボス会議の場でインテルの初代CEOアンドリュー・グローブが演壇でそれを取り出してストックホルムの支店長を不意打ちで呼び出して話をして見せ、満場からオーという感嘆の声が上がった時代だ。同年に初めて携帯電話と称したものがNTTから発売されたが、その重量は900gだった。グローブがかけたのも小型の箱のような不細工ででっかい物だった。

未来を予見し、社員にそれを語って納得させるのは経営者の最大の仕事だ。しかし、来年の話をしても鬼が笑うと教育されてしまう日本人は5年以上先の話はまじめに取り合わないし、10年以上になると宇宙人を信じます程度の話にしか聞かない。これは個人にも社会にも大きな損失であるし、政府の大本営発表にだまされやすい国民性をつくる。宇宙人がいるかいないかぐらいはきっと誰もが興味を持てる話だろう。ホーキングの本を読み、それを真に受けるのではなく批判精神を持って自分で考えてみるのはけっこう楽しい。

「宇宙への秘密の鍵」(ルーシー&スティーヴン・ホーキング)が小学生向けで誰でもわかる。

(こちらへどうぞ)

クラシック徒然草-ダボス会議とメニューイン-

天文学は清涼剤

ハワイ島 標高4200mの天文台にて

 

 

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