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リントゥ指揮フィンランド放送響のシベリウス5・7番を聴く 

2015 NOV 3 1:01:00 am by 東 賢太郎

土曜日の近松門左衛門がそうでしたが、ご縁のなかったものをおすすめにしたがって見聞きしてみるというのは非常にいいものです。予期しない出会いがある。もっといえば、おすすめがなくたっていい。たとえば本屋が好きなので2時間も3時間もいることが多く、買ったのを家で見返すといつもおんなじようなジャンルになってしまうのです。だから30分と時間を区切って、題名と目次で面白そうと思ったらぱっぱっと5,6冊適当に買うとけっこう新しくていい選択になってます。

食い物でもそうで、鮨屋はまず光り物と貝を1貫ずつぜんぶ、あとおまかせ。これがスタイルです。ねたの良し悪し、わかりませんからね。「今日のおすすめ」という注文はだめです。大将に従うという意思表示になる。うまくないぞといったって、でもおすすめはおすすめですがね、だ。「おまかせ」はそうでないんです。俺を満足させてくれって、それをまかせる。おすすめかどうかは問わないよ、そんなことはあんたの都合。俺が食うんだからね、俺。そう、大して変わらんが大将にちょっとした緊張がでるんですね。

コンサート。これがけっこう難物で、選ぶとだいたい本屋とおなじ羽目になる。定期会員になると「おまかせ」になりますが、こんどはへたすると毎回お子様ランチを食わされるリスクがある。運命、新世界、未完成・・・おい勘弁してくれ。だから会員といってもコースを選ぶ必要があります。気に入ったのが読響定期。マチネとか名曲シリーズとかあるが、そうではなく「定期演奏会」。これはオケのシグナチャーなんですね、来期もデュティユーの交響曲第2番、メシアン「彼方の閃光」なんてのがある。このレベルのおまかせならまちがいない。

ただ僕の場合、その日の気分で今日はやめってのがあって、これがいけない。マーラーなんて書いてあるともうあかん、と欠席したことが何度もあります。そこで、しばらくすれば忘れるので、今日のプロを見ないでとにかく出席する。そうして初めて「おまかせ」になるんです。だから今年は読響とN響と、おまかせ2つでほとんどでした。例外が先日のモーツァルトのオペラと生誕百年でにぎわうシベリウス。特にシベリウスは狙いを定めて気合いを入れて買いました。

ところがバカなんですね、同じ日のをダブって買ってる。ひとつはウィーン・フィルと、仕方ないこれは家内に、もうひとつはシベリウス同士のがちゃんこ(ほんとバカだ)。ええい、こっちは息子でということに。行けなかった方が良かったんじゃないかと思わないでもなく、なんともお騒がせなシベリウス・イヤーでありました。家内が行ったリントゥの2,3,4番、これはリハーサルは聴いたものの、痛かったですね・・・。

リントゥの全曲の最後が今日ありました(すみだトリフォニーホール)。

ハンヌ・リントゥ[指揮] 
フィンランド放送交響楽団[管弦楽]

曲 目:シベリウス/交響詩「タピオラ」、交響曲第7番、交響曲第5番

でした。オケが新日フィルでなく上記に。感じるものが多くありました。団員の入場で拍手は好きでないが、団員がそれを意気に感じてる風情なので加わりました。みなさん客席に正対して(こっち向きに立って)応えてる。なんとなく客席と一体感がありましたね。

タピオラはマゼール盤(ウィーンフィルの方)が好きなのはマゼールの稿に書きましたが、あの冬空の冷めた緊張感がぴりぴりした演奏で覚えてオーマンディーのを聴いたらあまりにフツーの曲になっていてずっこけたり。面白い曲です。リントゥではこんなに激烈な曲だったんだとまたまた感心。氷と雪景色より雷鳴の印象が強いかな。

7番は感動しました。音楽が熱して行って9度のレではいってくる素晴らしいトロンボーン、良かったです。この楽器のソロとしてあらゆる曲で最高の場面ですね。いつもレード-ソードレーミーと音名を耳が追ってしまいますが今日は我を忘れて聞き惚れました。リントゥの指揮は、筋肉質というとやや語弊があるが引き締まった質感のボディで、リズム、フレーズの隈取は明瞭。音をなめらかにするより多少ザラついてでも情感とメリハリを高めることを優先しているようで、この曲ではそれが見事にはまりました。

5番は第1楽章の最後の速さにびっくりです。ネーメ・ヤルヴィも速いが負けてます。セゲルスタム(デンマーク国立響)に近い。しかし楽譜の速度表示はPiu prestoですからね、これでいいんでしょう。スケルツォ部分のヴィオラの疾走も耳に残ります。最後のコーダ、鶴の平原で底冷えしていた音楽が徐々に熱くなるとテンポがアップしていって、これまた大変速くなり、激烈なFFがふくれあがり、最後に至ってリタルダンド!いやあ最高の5番、大変な名演でございました。

会場は3連休にして中日の人も多かったんでしょう、8割ぐらいの入りでしたが、シベリウス・プロの会場はオペラと違ってミーハーがおらず、一体感があって喝采も半端でありません。昔はブルックナーもこういう感じでしたが今は猫も杓子もになってしまいました。シベリウス好きは、僕もそうですが、本当に熱狂的に好きなコアな人が多いんです。一日中シンフォニー7曲流しっぱなしで飽きない。あんまり庶民的な曲でもないから変な奴だと思われたりするが、われ関せずですね。ほっといてくれって。

5番の感動があって、アンコールがペルシャザールの饗宴(ノクターン)と悲しきワルツでしっとりした弦をきく。甘すぎずのデザートもセンス満点でした。オケの団員さんは起立、正対。北欧らしい美しい金、白のブロンドの女性も多い。出し切った満足感の笑顔。シベリウスはフィンランドのお国物じゃないですね、シグナチャー・ピース、国歌です。それを東の果ての国民がスタンディング・オベーションで喝采する。オケが退場して誰もいなくなったステージなのに拍手が鳴りやまず指揮者がひとり呼び戻される。久々に大満足で帰路につきました。

 
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