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インフルエンサーが結託するのは法則である

2023 OCT 21 10:10:03 am by 東 賢太郎

この仕事をはじめて13年もたつと投資機会というのはおのずとやってくる。それをもたらしてくれる人たちがいるからで、彼らは取引先でも知り合いでも友人でもない。友人であっても結構だが、この場面においてはそういうありきたりのカテゴリーでくくれない人たちであるというのが味噌だ。「人脈」とは多分そういう場面で使うために発明された造語で中国語にはない。脈というからにはネットワークの意味だろうが、知り合った相手の人たちが「僕は君と会ったこともないが東の友達だからライン交換しよう」なんてことはまずない。それは人と人の心のつながりを電気的なウェッブのつながりで代替できないことを示しており、心が通じない知人を起点とした脈(ネットワーク)の広がりは自己満足に過ぎずそこから重要な果実が得られた経験は僕にはない。

大事なのは目の前にいる人ひとりひとりが自分と合う人かどうかだ。合う人は類は友を呼ぶで合う人を連れてきてくれる可能性があるしその経験はある。いま周囲でおつき合いしている人たちとどういう契機で出会ったかをチャート化すると面白いことがわかる。31年もしていた大企業サラリーマン時代の人(第0次)の名はほとんどなく、13年前に起業してからお会いした人(第1次)、彼らから紹介された人(第2次)、その人からまた紹介された人々(第3次、4次・・)がほとんどなのだ。第0次と意図的に縁を断ったわけではないが立場変われは人変わるだ。会社を辞めるとあれほど一緒に苦労した部下、同僚などが誰も来なくなり寂しいものだった。その人との縁は会社の名刺や肩書が取り持っていただけだったのであり、そういうものを人脈などと呼んで安心してはいけないことを身をもって知った。

投資機会の話をくれる人は各次にいるがほんの10人ほどだ。この10人が僕の生命線ということであり、31年もかけて築いた「人脈」は99%スクラップになってしまったが問題なかった。くり返すが意図してそうしたわけではなく、起業して必死にもがいた中で、求められもしなかったし必要もなかったから自然にそうなっただけだ。正直に「僕はハードボイルドな人間です」と初対面の人に臆面もなく言ってはいるが、そうでないと一人で生きていけなかったからであり、元からそういう人だったかどうかは忘れてしまったが、もしそうでなかったとしても戻ることはないだろう。なぜならハードボイルドな人生はけっこう適していて楽であり、実はそれは自然体の自分であり人生の99%を適してない場所で過ごしてきたかもしれないとも思えるからだ。証券業の仕事は苦でないし成果が出せる意味では天職と思うほどだが、それとこれとは違って、人間的には適してないが技術で手なずけてきたのだと思う。

ではその大事な10人はどういう人達なのだろう?彼らはそうすることで飯を食っているわけでは必ずしもない。10人ではない人が知人を紹介してくれ、その人は彼にとってはただの友人だが僕にとっては10人に入ったというケースもある。いい話を持っているがひとりでは完成できず僕が助けてウィンウィンになったことで10人に入ったというケースもある。かように千差万別なのだが、絶対の必要条件であるのは、彼らも僕も各々の世界の「インフルエンサー」であることだ。投資機会というものは誰でも確実にもうかりますよなんて顔はしていない。リスクやコストがあってその難関を突破できる者だけに「おいしい」のだが、そうするには何らかの形で「インフルエンス」ある者同士の結託が有効なのである。

このことは、さらに大きなスケールで地球上を覆っている原理と考えてもいい。つまり、なぜ米中の国家は水と油なのにウォールストリートと中国共産党は通じているのか、なぜ宗教で激しく対立するサウジアラビアがイスラエルに接近したのか、なぜプーチンは中国の一帯一路を絶賛したのか、という一見すると??という現象は「インフルエンス」ある者同士の結託が有効であり、場合によっては歴史的諍いを封印してでもその選択が生きるためには得策だということなのだ。そういうことが起きやすいのは国民国家(ネーションステート)と民族の不一致がある場合で、どちらの利害を優先するにせよ軍事はもちろん金や利権の分捕りあいにおいても「原理」なのである。金の流れを見れば歴史がわかると言う人がいるが、それもそのいちパーツに過ぎない。ささやかながら僕が一国一城の主として日々していることはそれのミニチュア版だといえないことはない。少なくとも体感としてナタニエフならどうする、習近平ならどうするとシミュレーションぐらいはできる気がしている。

いま投資機会が複数あって目まぐるしい。出歩いてるうちに気がついたら広島カープが3連敗でシーズンを終えていた。複数の案件はできないから選択する必要がある。持ちこむ人も忙しい。昨日は東京ドームホテルのディナーで巨大買収案件の錯綜した全貌を聴いたが、それを2時間でわかる人はいないと相手が思ってるから僕に来ると思われる。それにストレートに意見し、イスラエル問題の推理を述べた。彼はそれを聴くためにぎりぎりの2時間をくれた。大物だがそれを参考に行動するのだろうから生半可な話でなくインテリジェンスである。ビジネスに確実はないがそうした進言を何度もはずしたら彼は僕を見限るだろうし、それが当然だ。つまり友達ではなくお互いハードボイルドな関係であって、お金が商品である金融の人間関係というものは秀才だとか人柄の良さとかいう世間的な要素は不要であり、そう勘違いしてる人はインフルエンサーにはなれないだろう。

一昨日は中東の著名シンクタンク首席顧問の才媛、および慶応大学教授で政治家でもある先生とランチして大いに盛り上がり、ニューオータニのラウンジになだれこんで3人で昼間の二次会になった。顧問はウォートンMBAの銀時計で米国でトップという戦績が物凄い。中東の王族が評価して当然だ。しかし、はるか上の先輩という身分は有り難いのである。ホットな中東情勢をゼロからレクチャーして下さり、トランプはMBAじゃないから先輩じゃないよねということで意気投合もした。教授も国内外で政界、官界の交友が広く東大の助教授もつとめておられ、アカデミックな世界でもインフルエンサーであるというのは大変な異能と思う。凄い人たちとお知り合いになれて楽しかった。ちなみに顧問はワグネルの第1ヴァイオリンだったというので、実は僕はついでに仕事してたみたいなもんで株より音楽のほうが詳しいといったら、椿姫の出だし最高ですよねとなって困った。ヴェルディは一音符も覚えてない。でも筋は泣けるでしょというが僕は文学的じゃなく数理的でそういうのも弱い。言わなきゃよかったと思ったらじゃあシェラザードはどうですかとなって、それなら第1楽章は暗譜で弾けますと先輩の面目を偶然に保った。

できれば飛行機だけは乗りたくないが情勢次第では仕方ない。神山先生の「安神」が効いて閉所恐怖症は鳴りをひそめているし、どうもこの病気は忙しいとそこに意識が行かないから大丈夫の気もする。問題はどれをやるかだ。まだ判断材料が足りない。

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