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羽田事故は海保機機長の責任か?

2024 JAN 6 9:09:34 am by 東 賢太郎

元旦の朝、富士山を遠望しながら今年の行く末を思念した。まさかその日の午後からこういう年明けになろうとは思いもしなかった。亡くなられた方のご冥福を心よりお祈りしたい。そして被災者の一刻も早い救済を願う。

16年の海外赴任で数え切れぬほど飛行機に乗ったが、1月2日の羽田空港での18分の救出劇はJAL機長、クルーの方々の日々の厳しい訓練の賜物でなくて何だろうと思った。奇跡ではなく、誇るべき真のプロフェッショナリズムだ。

JAL機長、海保機機長、管制官の3者も訓練され、身を賭して業務にあたっておられるプロフェッショナルだ。ところが、残念ながら、こちらはそれでも事故が起きた。それにつき私見を述べる。

どこかに特異な事故原因(便宜的に「エラー」と呼ぼう)がなければこの事故は回避された確率が非常に高い。さもなくば、世界中の空港も旅客も毎日事故に怯えなくてはならず航空行政も事業も成りたたないだろう。

では本件のエラーは何だったか。それが1つでも、関わったのが3人全員か、2人か、1人かで7通りの可能性がある。さらに2つになって事故が起きたとすれば、それに関わったのが3人全員か、2人か、1人かで39通りの可能性がある。1つ増えると事故に至る道筋は32通りも増える。つまり抑止は等比級数的に困難になるので、2つ目を許すエラーは許されないのである。

人間のすることに完璧はない。これはあらゆる分野のリスクマネジメントにおいて世界の常識である。従って、1つ目のエラーが起きることは想定の範囲内とし、各々のケースで2つ目が誘発されないように防御策が講じられている。

1月2日に羽田空港で起きたことは、➀海保機が滑走路に出て40秒静止した➁管制官はJAL機に「滑走路は空いている」と伝えた③衝突した。以上である。

➀が海保機のエラーと仮定する。それを想定して➁を防ぐために各機はトランスポンダー(位置情報発信装置)を搭載しており(防御策a)、③を防ぐために空港には滑走路警告灯(可変表示型誘導案内灯)が設置されている(防御策b)。

問題はすでに多くの方がSNSで発信されている。「海保機に最新トランスポンダーが搭載されておらず、空港の滑走路警告灯が作動していなかった」、すなわち、防御策a、防御策bが1月2日の羽田空港では欠落していたことをである。

仮に➀➁が海保機あるいは管制官の「完璧でない行動」だったとしても、それは世界の空港事故事例の蓄積から想定の範囲内である(だからこそ、防御策a、防御策bが世界の常識になっている)。

JAL機長、海保機機長、管制官は「防御策a, bの存在を前提として訓練されたプロフェッショナル」だ。その欠落が想定外の「完璧でない行動」を誘発する偶発事象は想定の範囲内ではなく、JAL機長の「目視できず」という2つ目を生んでしまった可能性も否定できない(かように39通りの可能性で事故が起きる)。

従って、公共の安全の見地からは、問題の責任をJAL機長、海保機機長、管制官の3者による「完璧でない行動」に帰することは、エラーが単体であれ複合的であれ、問題の解決にならない。

事故確率を可能な限り低くすることは空港管理者の責務であり、世界の航空運輸の安全はそれを前提に成り立っている。防御策aの欠落は軍事的理由がある可能性を保留するが、防御策bの欠落が「特異な事故原因」であった可能性については理由を問わず国交大臣は説明責任を免れない。

航空法第4条 (東京国際空港は)国土交通大臣が設置し、及び管理する

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