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ポジショントークやる奴は例外なくクズ

2023 MAR 14 2:02:35 am by 東 賢太郎

ポジショントークなんて英語はない。こういう和製英語を誰が発明するかは知らない。馬鹿がシミュレーションをシュミレーションと英語できます顔で言ってるのと変わらないレベルだが、要はそれが横行しているから名前が付くのだ。ポジショントークは自分が利益を得る我田引水の主張を気づかれないようにそれとなくすることで、誰が見てもその売り子ですよという者が堂々とやるセールストーク(これも和製っぽい。米語はpitchだ)とは異なる。

要するに、象徴的にいうなら、自分が持ってる株を「上がりますよ」と言って皆に買わせて株価を吊り上げようとする行為のことであり、そういう魂胆があるなら「それとなく」だろうが「堂々と」だろうが品性を問われることに変わりない。資産(持ち高)を “position” と呼ぶのは金融業界の用語であることから、和製英語「ポジショントーク」の発生源には我が業界が関与していた可能性は否定できないように思う(ちなみにこの業界はグローバルを気取る者の巣窟だが、英語がまともにできる者はほとんどいない)。しかし品性の是非はともかく、金融業界はおカネを商品とするそういう業界なのであり、嫌なら入るなというものだ。日本だけでない、この業界は世界的にそうであり、そこの住人である僕はその是非を論じる気はない(それこそポジショントークである)。

そうではなく、問題と思うことは、金融業界の住人ではない人たち、つまり社会的地位はあってもこの一点において僕の目には一般人、シロウトにすぎない人達が国会やテレビなどの公の場でポジショントークをしゃあしゃあと展開する風潮の世の中になってしまったことなのだ。立ち位置(例えば「私はこの会社の社員です」「その株を持ってます」)を明確にお断りしておいてからその会社をほめるならそれはセールストークであって許容される。さらにいうなら、自分で自分をほめる行為だって宣伝、広告、PR、マーケティングであって何の問題もない。しかし自分のポジションを隠しながら巧妙にそれをやろうとする魂胆(悪だくみ)があるのがポジショントークであって、一歩間違えば詐欺と変わらない。そういう輩が増えたことと、電話で老人を騙す詐欺師が増えたことは同根の社会現象と僕は考えている。理由は簡単だ。どちらも表向きはどうあれカネ目あてなのである。とすれば、金融界というカネを商品として扱って稼ぐそのプロの世界で100年かけて磨きぬかれた手法が世にはびこるのは道理があることだ。

しかし、カネが商品でない業界がそれを真似ることに僕は一抹の危惧を覚えざるを得ない。学生だった頃、「レコード芸術」誌の音楽評論を熟読しながら「推薦盤」の裏にコネの癒着はないか疑った。ひねた学生だったのは、受験勉強をしながら問題を作る側の心理を見抜く癖がついていて、評論家にそれを当てはめて文章を読んだからだ。個々の推薦に癒着はなくても、商品としてのレコードを論じる雑誌はレコード業界全体の羽振りが良いことこそ自誌の寄って立つ好適な「ポジション」であり、どれであれレコードは売れて欲しい、つまり “推薦盤” としたいバイアスが雑誌社にはあるはずだ。するとその会社にカネをもらって雇われる評論家にも「 “無印” はあっても “買うな” はない」(どのレコードも基本的に良いものだ)というバイアスがかかり得る。その意味で、癒着とまではいわないが共生しているわけだ。

演奏家のえこひいきぐらいは人間のサガで許せるが、カネ目あてになってよい業界といけない業界は厳然と線引きがある。いや、まともな国家であるならばなくてはならないのである。雑誌は所詮そういう性質のものだから前者で結構だが、芸術は後者である。アートの評価がカネで買えるなら文化は崩壊するからである。ましておや、国の会議、公共の電波を使うテレビ等でポジショントークをたれ流すとなると、その者は公共財を流用して世論を私利のため操作して我田引水を目論んでいるわけだから、それに成功しようがしまいが、その行為だけで国家が厳罰に処すべきなのは当然のことだ。その者をメンバーに指名した者、雇って出演させているテレビ局は、その者の魂胆(悪だくみ、疑似的詐欺)をシェアしていることにおいて同罪の共犯者であり、公共財を使用させる資格要件を本質的に欠く者であるという世論の審判を下さなくてはならない。

法人業務が大きな収入源である証券会社が書くアナリスト・レポートの「売り」推奨比率が圧倒的に少ないのも同じことだ。株式を推奨される法人が顧客でもあるからだ。僕は証券会社に入ってみて、左様なことがあまりに日常的に当然のように堂々と業務としてまかり通っているのにけっこう驚いた。これが社会というものか、世の中とはそういうものなのかと。しかし当時はまだ健全な世の中であったと感慨すら禁じ得ないが、それは社会でも世の中でもなく、株を売買してもらわないと収益があがらない「証券会社というポジション」の中だけのことだった。つまり売買手数料で儲けるというビジネス・ポジションを張っていれば、売りだ買いだと情報が飛び交う環境を作ることで注文が増えて得になり、それが法人業務の基盤にもなる。レコード業界の売上が多くないと売れない音楽評論誌と同じ理屈なのだ。だからそれはポジショントークになり得るが、証券会社は自己の立ち位置を公然と明かして堂々とやっており、社内では適切な用語で「セールストーク」と呼んでいたのである。

初めは抵抗があったがその理屈と業界のなりわいには一理あった。当時の東証一部の日々の出来高は3億株ほどで、それだけの売買量があるから企業は銀行借入れより低コストの資金調達を株式市場からすることができ、日本経済は1980年代に世界を驚かす未曾有の急成長を遂げることができたことは誰も否定できない事実である。もし最大手の野村證券が売買情報提供のサービスを止めれば出来高は5千万株もなかろう、それでは大企業の資金調達は無理だろうなと社内でリアルに体感していたのをはっきりと思い出す。だから大河の中の一滴に過ぎなくとも参加はしなくてはと、自分が良いと思う株を買ってもらうためにセールストークを磨こう、どうしたら投資を知らないお客様に心から理解、納得して買っていただけるだろうと日々研鑽を積んだ。

だから僕はポジショントークをやろうと思えば苦も無くできる。プレゼンというのは何か商品やコンセプトを買ってもらう目的でやるポジショントーク全開の場であって、それは息をするぐらい自然にできるプロとして長年この業界を渡ってきたし、何より海外で食うか食われるかの交渉をする場で野村の利益を守る最強の武器としてもワークした。しかしその技術は自社の利益や自分のボーナスに直結するものの、基本的には資本市場が健全に働く公益のために使用していると少なくとも自負してきたし、しなくても常にそうすべきものなのであって、私利私欲だけの目的で使えば下賤になりかねないという倫理観を伴うべきもの、空手やボクシングの選手が喧嘩に技を使ってはいけないような性質のものだと思っている。

僕が証券会社を辞めるに至ったのは、自分も、どんなに偉そうなことを言おうと所詮はさもしい金融業界の人間のひとりと悟ったからだ。「公益のため」のはずが「会社のため」「自分のため」にだんだんグレードダウンしてしまうのはどうしようもなく、放っておけば自分の中で正当化できてしまい、生きるためなのだとそのノリを超えている自分に気がつかなくなっていると危惧したことが大きい。つまり、「自分が良いと思う株をお客様に買ってもらう」といいながら、理由はともあれ、アドバイスするだけで自分は買わない証券マンという職業は倫理に欠けると思うようになってしまったからだ。だからソナーはアドバイザーと名乗りながらもまず自分が投資家であり、自分が買うものだけをお客様にすすめて同じリスクを取る。それを明かすのが自分が取るべき「ポジション」だと考えて起業した。ちなみにブログを実名、履歴を明かして書くことにしたのも同じ考えからである。

ところが僕の行動とほぼ軌を一にして、真逆の現象が世の中の目につくところにはびこりだした。私利私欲だけのポジショントークを弄する者がそこかしこに跋扈(ばっこ)しだしたのである。1億総証券マン時代かと目を見張るばかりだ。それも、どこで覚えてきたのか、笑ってしまう稚拙なレベルで堂々と国会やテレビのコメントや討論番組でその下衆な魂胆が開陳され、本人は自分が張っているポジションへ巧妙に利益誘導したつもりが恥ずかしい馬脚だけが現れ、醜態をさらして自ら株を下げているというたぐいのものが多いのである。それでいて本人はどうだ賢いだろう、議員や知識人として賢く見えてるだろうと得意がっている風情があって、まさに英語のつもりでシュミレーションを連発してる馬鹿に等しいことを知らない。

断言するが、私利私欲のためだけにポジショントークをやる奴はウソつきであり、例外なく人間のクズである。これは古今東西、まともな人が他人を評価する恒久的鉄則なのである。自分のポジションを相手に悟られると計略がバレるからそれを隠しながらトークをやるわけだが、それがみっともないことだと気づく品性どころか見抜かれてるかもしれないと警戒、自省する知性すらない。こういう者が選挙で圧勝したりテレビでお茶の間の人気者だったりし、わーわーうるさいだけで何言ってるかわからない不思議ちゃんが不思議ちゃんにウケてるこの国の民主主義は大丈夫だろうかと有権者が考えないのも実に不思議である。連中をはびこらせているのは国民なのだ。国民の20%も投票してない政党が万年与党であり、それはおかしい、打破するぞと勇ましく言うのが仕事であり万年ポジショントークである野党はビジネス左翼の利権を守るだけ。異次元の不思議な国だ。

 

 

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Categories:______世相に思う, 若者に教えたいこと

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