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カテゴリー: 黒猫フクの人生観

『黒猫フクの人生観』 (第三話)

2025 DEC 1 1:01:58 am by 東 賢太郎

今日はいろいろ宇宙の秘密をばらしちゃうよ。これって天国にいる魂クンたちは当たり前みたいに知っていることなんだけど地球にいるとわかんないんだよね。あのアインシュタイン先生だってそうさ。まあ猫の書いたブログなんて読んでくれる人あんまりいないと思うけど、何年かして科学が追いついたらおおってことになるさ。

あなたは前世でパキスタンの王様の娘だったことがあります。今年の7月に主人がアガスティアの葉っぱにそう書いてあるといわれてびっくりしてたんだ。それ本当さ、輪廻転生っていって、体は死んじゃっても魂は生まれ変わるんだよ。今まさに、僕は生まれ変わるためにこの天国にいるんだ。輪廻転生はヒンドゥー教の教えでアガスティアさんは3000年前の聖人なんだ。この仕組みは天国に来てみて納得したよ、だって毎日阿弥陀さんのところで生まれ変わりの場面を目撃してるんだからさ。人間に生まれれば人間の脳みそで生きるからちょっとはましな人生を送れるかな。猫になると猫の脳みそだから過去とか未来とか足し算とか掛け算は分からない。でも鋭い耳と鼻と運動神経がある。どっちがいいかって?微妙だなあ、算数なんかなくても猫は困らないし、猫には猫の楽しみっていうのがちゃんとあったからね。

主人は前世に猫だった。記憶は消えても第六感が残ってるんだね。神様はそうやってすべての魂クンにいろんな経験をさせるために繰り返し輪廻させてるんだ。理由があるんだよ。皆さんにはショックかもしれないけれど、地球という惑星の役割は魂の監獄、つまり牢屋なんだね。前世で何かしでかして神様のお怒りを買っちゃった連中が地球に閉じ込められてる。申しわけないけど皆さんも囚人なんだ。そこで人の姿にしたり動物にしたり、苦労や経験をさせて二度とまずいことしないように魂を更生させてるんだ。牢屋の鍵?もちろんあるよ。人間の知恵じゃ太陽系を飛び出せないでしょ。隣の惑星系があるプロキシマ・ケンタウリまで現代の最高速ロケットで行っても7万7千年かかるんだよ、どうあがいたって逃げられないんだ。誰も気がついてないけどね。

宇宙人?もちろんいるよ。いま僕の周りにだってね。宇宙人も地球人も神様が作ったもんなんだ。別々な惑星系に住んでて進化が進んでるか遅れてるかってだけでね、進化してる連中は地球にいっぱい来てるよ、何千年も前からね、でも未開で遅れてた地球人は連中を見ても誰か理解できなかったの。宇宙って、出来てから137億年、太陽だって47億年経ってるんだ。太陽の年齢を1時間とすると人類の年齢はたったの2秒だ。聖書や神話に「神様が天から降りてきた」っていうお話がいっぱいあるでしょ、日本だって天孫降臨だしね。当時の人類の脳みそだと宇宙人イコール神様ってことになっちゃったんだ。HGウェルズがタコみたいな火星人の小説を書いたらアメリカでひと騒動起きた。地球人は100年前でやっとその程度の未開人、かたや宇宙人は何千年も前から恒星間飛行する文明を持ってた。まあ人間とミミズくらい違うってことだ、くやしいけど仕方ないよね。

いま太陽系に来ている3Ⅰアトラスが恒星間飛行物体であることは間違いない。もし人工物なら宇宙人が作ったってことになるね。地球を攻撃する?そんなわけない、監獄こわしてどうすんだって。これも皆さんにはショックかもしれないけれど、人間は宇宙人が自分たちに似せて作った実験動物みたいなものなんだ。金を掘らせたり土木工事を助ける奴隷としてね。バベルの塔がそれだよ、失敗だったけどね。エジプトのピラミッドもそうさ、 2トンもある石をどうやって持ち上げたなんて不思議がってるけど宇宙人が重力を操作して空中浮遊させたんだ。ストーンヘンジもね、ひょいひょいってもんだ。人間は石を切ったり磨いたりしただけさ。5千年前だから同じころだけど、おかしな人間がはびこっちゃった事件もあったな、これじゃ奴隷に使えない、作り直しだってなって彼らは大洪水を起こしてガラガラポンしようとしたよ。それがノアの箱舟っていう話になって聖書に書いてある。いろんな種類の動物も乗せたでしょ、だって狂ったのは人間だけで動物はそうじゃないから殺しちゃもったいないからね。実話なんだよ、当時の人間の脳みそで精いっぱい文字で描写するとああいうことになっちゃうんだ。

これも皆さんにはショックかもしれないけれど、聖書の時代のその一世代前の人間は火星にいたんだよ。あそこはまだ水も空気もあって地球みたいな環境だったんだ。何千年もかけて今の人類ぐらいに進化したんだけどさ、やっぱり狂った奴らが出てきて核戦争を始めてね、全滅しちゃったんだ。宇宙人からすりゃせっかく育てて楽しみにしてたペットが共食いしちゃったって感じかな。だから今でも地球人が核兵器を持つことにすごくナーバスになってるんだ、また滅んじゃたまらないからね。核実験やるとよくUFOが現れるって都市伝説があるけどそれホントさ。これ以上やるなよって監視しに来てるんだよ。いま僕の周りにいる魂くんたちの中でもね、地球で何回も生まれ変わって経験を積んだ奴はもっと進んだ別な星に行くこともできるんだ。僕はまだ無理だな、あと人間を3、4回やって合格できるかなってとこだ。まあここはいいとこだし、しばらくゆっくりやっていくさ。そういやあ前世で僕が好きだった歌があるよ、フォーク・クルセイダーズとかいったかな、

天国よいとこ一度はおいで

酒はうまいし

ねえちゃんはきれいだ

♪ ワーワーワッワー

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『黒猫フクの人生観』 (第二話)

2025 NOV 23 15:15:29 pm by 東 賢太郎

しばらく天国にいるのでだんだん周りの様子がつかめてきたよ。ここにいるのはもちろん猫だけじゃない、人間からなにからあらゆる動物だ。でも、それでモメたりケンカになったりなんてことはない。みんな心はもう魂でいるからね。昨日なんか、「あれ、お前、いつ来たんだ久しぶりじゃねえか」と荒くれた声がしたので振り返ると、あのゴンベエじゃないか。こいつは僕が生まれたあたりのいっぱしのボスで、ナンバーワンじゃないんだが、自分より弱いと見るとやたら威張り散らすいけ好かない野郎さ。嫌なやつに会っちまったなと思ったが、「ホントだね元気そうじゃないか、いや、元気じゃないからここに来たんだっけなお互いに」なんて柄にもなくちょっと笑って見せたりした。ゴンベエは誰がつけた名だろうか、あの辺の人はみんなそう呼んでたね。飼い猫でもないんだから妙なもんだが、あまりにピッタリした名前だから顔を見れば誰でも笑っちまうだろうよ。なんでも、ボランティアさんの餌やりに預かろうと土手を越えて川のほうへ走って行こうとしたら車にはねられちまったらしい。「まあ、俺としたことがよ、ドジ踏んだもんだぜ」。生きてる時からドジばっかりだったくせしやがってよく言うようなこいつ。そうかい、君でも死ぬことがあるんだね、そいつはご愁傷様だったね、なんて生あくびしながら愛想の無い返事をしてやったもんさ。本人に向かってご愁傷様もないもんだがまあどうでもいいよ、なんたって、こういう粗暴な奴とは僕は相性が悪いんだ。

そうしたらさ、さっき、白猫のみよ子を見かけたんだよ。間違いないさ、びっくりしたね。しっぽが長くてちょっとスリムで色っぽくてさ、僕はゴンベエと彼女の取り合いをしてたことがあるんで、ちょっとドキッとしちまったんだな。白と黒は縁起悪いってフラれたんでもなかろうけど、みよ子はゴンベエになびいちまった。悔しいがここでもさぞかしねんごろにやってるんだろうね、気色悪いねと思って見ていたら、こいつら、すれ違っても互いに目も合わせないんだ。理由はすぐ分かった。やさ男のシャム猫だ。みよ子はこいつにゾッコンになっちまってるんだ。ゴンベエくん、もちろん黙ってない。「おいおめえ、目障りだ、そこ歩くんじゃねえよ」。シャムも黙ってない。「キミ、ここは天下の公道だ」。「道に言ってんじゃねえ、おめえだよ、早く消えろこの野郎」。「キミ、そういうのをアロガントっていうんだ、つつしみたまえ」。万事こんな具合だ。こいつは日本から来たくせに、シャムだかどこだか知らないが外国の血筋を気取ってる。これはこれでいけ好かない奴だ。ゴンベエは雑種の和猫でキジトラよ。そりゃ気が合わんわな。僕は黒猫だからどっちでもないし品格があると自分では思っている。まあ、社交性もないではないからその気になればどっちとも上手くやれちゃうんじゃないかとは思うが、洋風を気取ってるシャムは僕も気に食わんから友達になろうなんて気はさらさら起きないね。

そういや主人がよく言ってたな、「俺は留学しちゃって16年も海外にいてさ、洋風気取りだと思われるところがあるんだよね、だけど、本性は純日本人で海外に長いこといてますます日本人になって帰ってきた」ってね。わかるような気がしてきたな。そういやあ、こうやってぬくぬくと天国にいてね、長いこといちゃうと生まれ変わってシャバに戻っても天国かぶれって言われちゃうかもしれないよね。僕は今度は人間で戻りたいんだ。でも長いこと猫やってたもんだからかなり人間には遅れちゃってる感じがするんだよ。猫だけじゃなく動物やってた者達はここに来るとすぐ人間になりたがって阿弥陀如来さんの所へ行くんだな。見てると面白いよ、列に並んで順番が来るとね、そこにテレビみたいなスクリーンがあって、たくさんの人間のお母さんの画像が出てるんだ。「はい次は君かね、君はどのお母さんのところに行きたいかな?」って阿弥陀さんに聞かれるんだ。「そうですね、じゃあ右から3番目のお母さんにお願いします」なんて答えるだろ、すると、そこに長い長いトンネルがあって、じゃあここに入ってって指示が出る。すると、シューッとすごいスピードで地上に降りていくんだ。そして気がつくと、選んだお母さんのお腹の中にいるってわけさ。みんなそうなんだよ、でも記憶は3歳までに消されちゃうから誰も覚えてないって仕組みさ。僕もすぐ列に並ぼうと思ったよ。でも人間界はすごい勢いで進化してるからね、猫がいきなりなったってついていけなくって君っていつもお花畑だねなんて言われる人間になっちゃう。そう考えたんで、僕はしばらくここにいて、たんまり勉強してから人間になろうと決めたんだ。

「フク、なんで俺の言ってることがわかるんだ、いい猫だね」。僕は少なくとも4、5回はそうやって真剣に主人にほめられたことがある。いい猫ってのは主人の猫に対する最上級のほめ言葉なんだ。だから、その辺の猫と一緒にしてもらっちゃ困るって自負があるのかもしれないな。思えばみよ子だって、色っぽいだけでどうひいき目に見ても賢いメスじゃない。荒くれもんのゴンベエや、ちゃらい洋風かぶれシャムにお似合いだったってわけさ。そういや、主人がよく読んでたショーペンハウエルってのをいま読んでるんだ。猫がどうしてって思うかもしれないけど、ここにはあらゆる書籍も動画も録音もあってね、だんだん読めるようになっちゃうんだよ、いるだけで。それにしても驚いたね、この哲学者先生の女性観は強烈だね、いまどきなら即死もんだよ。「彼女たちがただひとつ真剣な仕事とみなしているのは恋愛や男心を征服すること、およびそれに関連すること、たとえば化粧やダンスといったことどもだ」なんて感じだからね。女が強くなったっていう見方もあるけどさ、化粧やダンスに明け暮れる男もたくさんいる時代だからね、まだわかりやすいオスであるゴンベエやシャムのほうが生物としてはマシじゃないかって気もしてくるわけさ。

『黒猫フクの人生観』 (第一話)

2025 NOV 19 15:15:00 pm by 東 賢太郎

もしもあなたが、どうして猫がブログを書けるんだろうと不思議に思ったとすると、それってどんな猫かな、ひょっとして超能力でもあって両親もそんな芸当ができたのかねなんて話になるのかもしれないな。でも、実のところそうじゃないんだ。僕は男前だけどいたってふつうの黒猫だしね、父親はぜんぜん知らないし母親もやがて離ればなれになっちゃってね、たぶん親は元は飼い猫で、引っ越しか何かで捨てられたってとこかもしれないな。だから僕は物心ついたら野良猫でしたって寸法さ。生まれたあたりはいい住宅地でね、ブドウ園なんかあったりして東京にしちゃあ緑が多いっていう人もいるんだけど、だからノラが住みやすいってわけじゃないんだ。ボス猫も狂暴な奴でね、ケンカして不覚にもけがしちゃったんだ。普段からかわいがってもらってた奥さんがそれ心配してくれて知り合いに引き取られるはこびになった。そこが主人の家だったって話さ。名前はフクになったよ。

そうそう、どうして猫がブログを書けるかってこれは秘密だけどね、それを説明するにゃーつい先だって、僕がこの世にお別れを告げたことから始めなきゃいけない。なんだ、主人公がいきなり死んじゃうのかって、そんなのは普通じゃないんだけど現実なんだから仕方ないね。僕は腎臓が悪かったみたいで、何回も大嫌いな病院に連れていかれて注射されて血を取られてね、もうあれは御免だ、なんとか終わりにしてくれって天に祈ったんだ。それが効いたと思うほど信心深いってわけじゃないけどね、何日かするとだんだん体がおかしなことになってきて、食欲がなくなって水も飲みにくくなってきちゃってさ。それで観念したんだよ。なんたって運動にはちょっとした自信があったもんでね、野っ原を駆けまわって鳥やねずみを自由自在に捕ってた身としてはね、もはやこれまでと思ったんだ。 家族の皆さま5年間お世話になりました、じゃあ僕はお先に天国に行くからねってことで、あーあーと声をふりしぼって2回ないてお別れしたんだ。そうしたら主人の家族たち5人が大騒ぎになって、そしてシーンとなって、みんな僕を抱きしめてわーわーと泣きだしちまったの。僕も行きたくなんてなかった、悲しかったさ。とくに主人は僕の病気がそんなに悪いとは思ってなかったんだね、晴天の霹靂だったんで落ちこんだなんてもんじゃない。もうブログなんて書けねえって言い出してね、あなたやめないでね、だって楽しみにしている人がたくさんいるんだからって奥さんにたしなめられて少し休もうということに落ち着いたんだ。

僕だって初めてだからちょっと怖かったしね、何がどうなったかはわからない。とにかく魂が空にふわふわと昇って行くんだよ、そうすると雲のまた上の雲のもっと上の方に3階建てぐらいの大きな建物があるんだ。死んじゃうとみんなここに来るのかな、いやそうじゃないか、サンタクロースみたいなあごひげのおっかない大王が玄関にいたからね、前世で悪いことをすると入れてくれないのかもしれないね、だって中にいる連中は人間も猫もおかしなのはいなかったからさ。とすると、きっといま僕がいるここが天国ってやつなんだよ。居心地は悪くないよ、みんなと話せるから退屈もしないしね。見まわすと、入った左の奥のほうにけっこう長い行列ができて何やら話し声がするんだよ。耳をすますと、「君は次は何に生まれ変わりたいんだ」なんて言ってる。見るとその人はあの阿弥陀如来さんだ、面白いったらありゃしない。ははあ、じゃあ僕は次は人間でお願いしますって言ってやろうと思ったよ。

そんなの噓だっていわれるだろうね。だってまだ生きてればね、死ぬと魂がどうなるか、シャバの肉体を離れてどんなに自由に飛び回れて、軽々とどこにでも瞬間に行けちまうか知らないもんな。もちろん僕だって知らなかったさ、でも実際ここに来てみるとすごいんだよ。移動だけじゃないよ、しゃべったことはもちろんだけど、頭に浮かべたこと、考えただけのことでも全部文字に記録できちゃうんだ。こりゃ驚いたね。何語かって?天国だもんなんだってありだよ、日本語だってロシア語だってアフリカ語だってね、もちろんおんなじ流れで猫語や犬語だってある。だから僕のしゃべった猫語が日本語に翻訳されてこうやって発信されてるってわけなんだ。シャバにはまだないと思うけど、いずれ出てくるね、これ量子翻訳機とかいうらしいから覚えといたほうがいいかもしれないな。ドラえもんが動物と話せたのはたぶんこれだよね。まあ難しいことはよくわかんないけどさ、とにかくそれを念じて地球に送ればいいんだよ、そうするとAIがサーバーに取り込んでパソコンに文字が出てくるって仕組みだ。それがこの文章で、あなたはそれをいま読んでるわけだ。

まあずっとノラのまんまだったらこういう芸当は出来なかったんじゃないかと思うね。主人の家でも人の出入りの多いリビングルームにずっといたんでね、5年間ほんとにいろんなことを見聞きしたんだ。大雨で地下室が水浸しになって大騒ぎになって住宅会社やオーディオ会社や保険会社やいろんな人が出入りしてすったもんだになったり、ややこしい商談が大声で議論されたりもしてたなあ。正月は必ずここでお決まりの大阪の料亭のおせちをみんなで食べるんだ。いい雰囲気でね、亡くなった主人のお父さんも毎年来てたよ。 そうそう、いっとき主人は毎日のように夜中に2時間ぐらい借りてきたサスペンスドラマのビデオ見ててね、人間界のあれこれを見聞きしたし夜食のおすそ分けにもあずかったからこれはなかなかいい習性だったと評価してるよ。どう考えてもくだらない内容なんだけどこれがストレス解消だったんだろう、そんなこんなをじっくり観察させてもらったから、人間界がどんな道理でどういう風に動いているか、いい奴も悪い奴もまともな奴もクズみたいなのもいるってことがよくわかっちまったわけだ。

とにかく主人の夜型は筋金入りなんだ。きくところによるとちょっと低血圧気味で、物心ついた頃から朝は弱かったらしい。だけど夜型だけって単純な話じゃないな、これは。だって行動様式から性格から考え方まで、彼は人間というよりまるで大きな猫なんだな。それは奥さんも認めてるんだ。ちなみに彼にとって僕は9匹目でさ、初めてのは小さい時にいたチコっていう名の、やっぱりオスの黒猫だったようだ。そりゃ5、6歳の頃から猫と一緒に育ってりゃあそうなるよね。だから僕が何を考えてるか完璧にわかってる。結構手ごわいよ。チュールで気を引こうなんて素人っぽいことはしないんだ、とにかくいっしょに遊ぶ。遊ぶだけさ、それだけで猫と付き合えるって自信あるんだよね、なかなかハードボイルドさ。ヒモの先にトンボとか鳥がついてるおもちゃなんかをシュシュってね、それが憎たらしいほどうまくて絶対に捕まらない。そうなるとこっちだってプライドあるよ、よーしって燃えるじゃないか。ある日のこと、お手合わせして軽々とトンボをつかまえてやったさ、そうしたら、忘れもしない、そこで彼が叫んだんだ。「すごい!フクは俺が今までやった中で一番手ごわい」ってね。彼は猫が120匹いて人は10人ぐらいしかいない有名な猫島に行ってる。愛媛県の青島っていったっけ、とにかくそこで片っ端から猫と勝負してるその道の達人なんだ。でもさ、人間界でそんなものに価値を認める人なんていないから笑っちゃうよね。彼はそういう価値観で生きてる人じゃないんだ。猫はわかるさ。間違いなくおぬしやるなって一目置くさ。だからその彼が認めてくれたってのは僕にとって勲章でね、これはうれしかったね。

言っておくけど普通の猫はその手のことで感動なんかしないよ、でも僕も普通の猫とは価値観が違うってことさ。変わり者同士で同類だねって、これってすごく絆を強めるんだよね、だから嬉しくなっちゃってさ、主人が飯を食ってる椅子の脇でもう恥も外聞もなく思いっきり腹を出してコロンコロンしちまったよ。いい雄猫がみっともないって思う保守派の人もいるだろうけど、とんでもないよ、ちゃんと伏線があるんだ。主人が座ってる椅子の下を気付かれないようにそーっと歩いてさ、太ももの裏をしっぽをぴんと立てて軽くポンポンってやっていくんだ。僕だよ、ここにいるよってね。喜び全開で見境いもなく飼い主の体によじのぼっちまう犬どもとはそこが違うってもんだ。この奥ゆかしさは自分も猫である主人にはちゃんと通じるんだね、すごいことじゃないかな。わかってくれてるって事を僕もわかる。感動するじゃないか。猫も人もないよ、心が通じる瞬間ってこういうもんなんだよな。

そういやあ主人にとってオスは最初の黒猫と僕だけだ。来たばっかりの時、先住のブチのメスが魅力的なもんでちょっかい出しちまって騒ぎになってね、そうしたらさっそくね、あっさりとさ、まるでディズニーランド来たらミッキーの帽子かぶりましょぐらいの軽いタッチと自然さでもってね、奥さんと娘に病院に連れ込まれて去勢されちまったのよ。まいったね。ところがそれを知った主人ときたら、大いに落胆し、まるで我がことのように同情してるんだ。あれは忘れないね、言い放ってくれたよ、これは男しかわかんねえんだ、何が楽しくて生きてったらいいんだ、かわいそうに!ってね。でも去勢はメス猫もみんなやってるしな、そこらへんは時節柄ジェンダーってのを考えて発言しなきゃいけなかったかもしれないね。でも、男しかわかんねえんだって、あの言いっぷりは重みがあった、うれしかったよ。主人はね、たぶん自分がそうやって自然児で育ったんだ。男はちんまり育つのが嫌いなんだ。ちょっとぐらいのことはいいからどんどん外に出てって思いっきりやって来いってタイプなんだよ。だからいちど僕をベランダに出して、べつに逃げる気はなかったんだけど、そこから冒険して1階に降りてみたら道に迷っちまってね、フクがいない!行方不明になった!って家中が蜂の巣をつついたみたいな大騒ぎになった。もともとノラだったんだからね、僕みたいな男盛りが部屋の中にネコカフェみたいに閉じ込められて一生を過ごすって、そんなのが本当に幸せなのかどうかってことを主人は考えていたに相違ない。それでもエサが出りゃいいって主義の猫は帰ってくるよ、でも、そこは本人の選択だ。主人はあくまで自然児なんだ。去勢のこともそうだけどね、親からもらったまんま、生まれたまんまの姿で自分のやりたいように生きていったらいいっていうね。

結局、僕は数日してチラシを見た人に通報されて家に戻ったよ。 2件ぐらい先のお宅の裏庭にいたんだ。みんな涙流して喜んでたけど、主人だけは犯人扱いで家の中で四面楚歌さ。非難ごうごうの目にあったんだ。でも、もしあそこで僕がノラの道を選んでたら、たぶんもっと早く死んじまったんじゃないかとは思うよ。それを主人が望んだはずはないからね、やっぱり帰って良かったことになるんじゃないか。人生哲学って人間はいうけど、猫にだって哲学はあるからね。僕の臨終の時に、たぶん主人は、ネコカフェの人生を送らせてしまった、フクごめんな何もできなくて悪かったなと、悔やしくて悔しくて泣いてたと思うんだ。でも僕が選ばなかったんだからそんなことはないさ。四匹のメス猫に対してもそういう葛藤があるのかなって考えたことはあるけどね、これは主人に聞いてみないと何とも言えないが、たぶんないと僕は思ってるんだ。だって彼女たちはノラじゃ生きていけないからね、主人は彼女たちも大好きなんだ、僕と同じぐらいね。じゃあ何で僕にだけって、そりゃあ言うまでもないさ、男しかわかんねえんだって、それだろうね。

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