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クラシック徒然草-津軽海峡冬景色の秘密-

2015 NOV 5 1:01:48 am by 東 賢太郎

石川さゆりさんのファンではありますが、天城越えも名曲ではありますが、それはそれとして、津軽海峡冬景色という曲にはどうにも僕を惹きつけるものがあります。それは何なんだろう?

やっとわかりました。やっぱりあああ、あ~~~なんですね。

たぶんあああは地声、あ~~~は裏声でしょう。この段差。すごく男心をくすぐるのです。音名で言えばミファミ、ド~~~です。ミからドへの6度のジャンプ。しかも声の色まで変わる。ここにこの曲の勝負どころ、頂点があると思うのです。

この6度ジャンプ。どっかできいたことがあるぞ。え~~と・・・

ありました。これです。

tristan

おわかりでしょうか?ワーグナーのトリスタンとイゾルデの冒頭です。ラファ~~ミはチェロが弾きますがラファは6度ジャンプです。この音程、ちょっと悲痛な感じがするのは僕だけでしょうか。チェロのラは解放弦でファでクレッシェンドして緊張感ある音に色が変わります。ppで聴こえるか聴こえないかでそっと入って、音程と音色で聴衆の耳をそばだたせる。非常に印象的な幕開けです。

この6度跳躍って、すごいインパクトがあって耳に残るというか、こびりつくのです。きのうショスタコーヴィチの15番を聴いたと書きましたが、あの第4楽章にワーグナーの引用が出てきて、ジークフリートの葬送行進曲のあとですが、まさにこのトリスタンの最初の4音が鳴ります。どきっとします。

津軽海峡が三木たかしさんの作曲なのはまったく知りませんでしたが、彼は「つぐない」の作曲家でもあったのでびっくりです。

クラシック徒然草-テレサ・テン「つぐない」はブラームス交響曲4番である-

クラシック徒然草-「つぐない」はモーツァルトでもあった-

津軽海峡のフシはこれまた似たものがクラシックにあります。

tugaru

シューベルトの「白鳥の歌」からの4曲目二短調「セレナーデ」です。たいていの人が知っている音楽の授業でおなじみのメロディーでしょう。

楽譜はチェロ用にト短調になってるので津軽海峡と同じイ短調で書きますと、出だしの「上野発の夜行列車」ミミミミファミララララシラが「秘めやかに( 闇をぬう) 」ミファミラ~ミ、「静けさは~果てもなし」ミファミド~~ミに「あああ、あ~~」のミファミド~~と全く同じ音素材とリズムで6度跳躍が現れます。

もうひとつ、和声です。

「わ~たし~も~ひとり~~、れんらく~せんにのり~」 にはDm6、Am、F、B7、E7susu4、E7というコードがついてますが、バスがfからhに増4度上がって「せんに」のB7、これはドッペル・ドミナントといいます。ドミナントのドミナントです。

実に劇的、激情的でロマンティックな効果がありますが、これの元祖はベートーベンだと思っています。上記ブログに書いたモーツァルトの20番のカデンツァがそう。そして、あまり指摘されませんがエロイカにも出てきます。

eroica1

第2楽章の冒頭、5小節目のf#です。この音符、なくてもいいんです。というより、凡庸な人は入れないでしょう、バスのgと長7度の不協和音になるんで。実際の音は鳴りませんが、ベートーベンの耳にはD7のドッペルドミナントが聞こえていたわけで、そのソプラノだけをひっそりと鳴らした。凡夫と天才の差はこういうところにあります。

「つぐない」もそうですが三木さんの和声はこういう隠し味に満ちていて、何度聴いても飽きないのだと思います。クラシックがクラシックたるゆえんをおさえている。津軽海峡冬景色をピアノで弾くのは快感です、なんたってよくできたクラシックですから。

 

 
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やっぱりLPは音楽鑑賞の王道

2015 NOV 4 2:02:23 am by 東 賢太郎

最近ですが電車ですわるとすぐ寝てしまいます。いつ寝たかも覚えてない。乗り過ごすことはなくて眠りは浅いのですが、居眠りというよりブラックアウトという感じです。妙な話、そのまま覚めなきゃ昇天ということかなあ、そうやって逝けたら楽だなあなどと考えたりします。

家でCDをならしても、やっぱり寝てしまう。こんなことはなかったんですが、やっぱり仕事が追い込みでストレスがたまってます。

先日西室と飲んでから中古屋でLPを適当に5,6枚買って、なんせ酔ってたのでなんだったか記憶がないのですが、袋を開けてみて片っ端からかけました。新世界、未完成なんて1枚があって、何でこんなのを買ったか不明。案の定、かけながら熟睡。

2枚目はヘンデル。ハンス・プロハスカという昔懐かしい名の指揮者とアッピアといスイス人がウィーン国立歌劇場Oを振った「水上」と「王宮」の米エヴェレスト盤でした。昔は盤質粗悪とされたレーベルですね、ところがなんとしたことか、これがいいんですよ。

音に滋養があっておいしい。演奏も悪くない。一気に頭に血がめぐります。こういう音が鳴るならもうCDはいらん。ライブすらしょぼいオケなんかならこれのがずっと快感!

次に出てきたのがサファイアというドイツ・レーベル(当然もうない)のニュルンベルグ交響楽団のコリオランとエグモントの序曲。指揮者は全く無名。こういうのはたまらない。僕はドイツのオケはいろんな田舎で聴きまくりましたからC級グルメなんです。

楽器が安手の音で、演奏もなんら誇るものは無し。しかしこれ、田舎のおふくろ手料理みたいでいいなあ。芋の煮っころがしとナス田楽っていうか。ほっこりしますね、ベートーベンで・・・。

次。ショスタコーヴィチの15番、なんと初演した息子のマキシム・ショスタコーヴィチ指揮だ。盤面に傷があったがこいつはよかった。僕は15番、さいきん最高傑作じゃないかと思うようになっていて、この演奏はなかなか濃いですよ。おすすめです。

15番初演したのが72年で、すぐ同じオケ(モスクワ放送SO)をロジェストヴェンスキーが連れて大阪、東京で海外初演することになって、迷ったけど悲愴なんかの日を買っちゃいました。もったいないが、子供でした。

思えば僕らはショスタコーヴィチがまだ生きて交響曲を書いてた時代の人なんですね。彼の15曲は永遠に残りますから未来はそう記憶する。同時代人が彼の音楽をどう聴いてたか、書き残すのも一興かもしれません。マキシムのこのLP、音の良さも感涙ものです。

部屋には積んどく状態のLP、CDが山積みで、よしもう少しという気になってフンガロトンLPのバルトークの2台ピアノと打楽器があったんですが、あれっと思ってさがすとおんなじのをダブって買ってるではないですか。前にもありましたが、なんと中古を2回買ってる。7千枚ためるまでこんなことはあり得なかったんですが記憶力はかなり衰退してますね。自覚してつきあわないと・・・。

93491495最後にコリン・デービスがボストンSOを振ったシベリウス全集の蘭フィリップス盤。まだきいてなかった。とりあえず5番と7番を。うーん、いい音だ。ボストン・シンフォニーホールのいい席だ。やっぱりCDはいらんか。

思えばLP録音再生というシステムは70年代に完成していたんですね。高度なレベルで。それをCDがぶっこわした。ピアノの録音はたしかに良くなったけど、弦は僕は懐疑的です。ちゃんと再生したLPには絶対かないませんね。

SACDってのはCDよりいいというのがうたいです。たしかにそうだがLPより良くないのもそう。デジタル録音+CDで弦が悪くなっちゃって、その失地回復にすぎませんね。ホールの臨場感が増すって、AKBじゃないんだしクラシック鑑賞でそんなのが重要とは思いません。

デービスの7番、名演です。こんなに良かったっけ?彼の唸り声まできこえますが、終板の意味深いうねりは尋常じゃない。非常にmovingな、なにかを揺り動かされるような、忘れない聴体験ですね。

いやいや居眠りからはじまったリスニングでしたが、結局こうなりました。いい音楽はやっぱり人生の宝物です。

(こちらへどうぞ)

クラシック徒然草-ワルターのモーツァルトはLPで-

シベリウス交響曲第2番ニ長調 作品43

 
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リントゥ指揮フィンランド放送響のシベリウス5・7番を聴く 

2015 NOV 3 1:01:00 am by 東 賢太郎

土曜日の近松門左衛門がそうでしたが、ご縁のなかったものをおすすめにしたがって見聞きしてみるというのは非常にいいものです。予期しない出会いがある。もっといえば、おすすめがなくたっていい。たとえば本屋が好きなので2時間も3時間もいることが多く、買ったのを家で見返すといつもおんなじようなジャンルになってしまうのです。だから30分と時間を区切って、題名と目次で面白そうと思ったらぱっぱっと5,6冊適当に買うとけっこう新しくていい選択になってます。

食い物でもそうで、鮨屋はまず光り物と貝を1貫ずつぜんぶ、あとおまかせ。これがスタイルです。ねたの良し悪し、わかりませんからね。「今日のおすすめ」という注文はだめです。大将に従うという意思表示になる。うまくないぞといったって、でもおすすめはおすすめですがね、だ。「おまかせ」はそうでないんです。俺を満足させてくれって、それをまかせる。おすすめかどうかは問わないよ、そんなことはあんたの都合。俺が食うんだからね、俺。そう、大して変わらんが大将にちょっとした緊張がでるんですね。

コンサート。これがけっこう難物で、選ぶとだいたい本屋とおなじ羽目になる。定期会員になると「おまかせ」になりますが、こんどはへたすると毎回お子様ランチを食わされるリスクがある。運命、新世界、未完成・・・おい勘弁してくれ。だから会員といってもコースを選ぶ必要があります。気に入ったのが読響定期。マチネとか名曲シリーズとかあるが、そうではなく「定期演奏会」。これはオケのシグナチャーなんですね、来期もデュティユーの交響曲第2番、メシアン「彼方の閃光」なんてのがある。このレベルのおまかせならまちがいない。

ただ僕の場合、その日の気分で今日はやめってのがあって、これがいけない。マーラーなんて書いてあるともうあかん、と欠席したことが何度もあります。そこで、しばらくすれば忘れるので、今日のプロを見ないでとにかく出席する。そうして初めて「おまかせ」になるんです。だから今年は読響とN響と、おまかせ2つでほとんどでした。例外が先日のモーツァルトのオペラと生誕百年でにぎわうシベリウス。特にシベリウスは狙いを定めて気合いを入れて買いました。

ところがバカなんですね、同じ日のをダブって買ってる。ひとつはウィーン・フィルと、仕方ないこれは家内に、もうひとつはシベリウス同士のがちゃんこ(ほんとバカだ)。ええい、こっちは息子でということに。行けなかった方が良かったんじゃないかと思わないでもなく、なんともお騒がせなシベリウス・イヤーでありました。家内が行ったリントゥの2,3,4番、これはリハーサルは聴いたものの、痛かったですね・・・。

リントゥの全曲の最後が今日ありました(すみだトリフォニーホール)。

ハンヌ・リントゥ[指揮] 
フィンランド放送交響楽団[管弦楽]

曲 目:シベリウス/交響詩「タピオラ」、交響曲第7番、交響曲第5番

でした。オケが新日フィルでなく上記に。感じるものが多くありました。団員の入場で拍手は好きでないが、団員がそれを意気に感じてる風情なので加わりました。みなさん客席に正対して(こっち向きに立って)応えてる。なんとなく客席と一体感がありましたね。

タピオラはマゼール盤(ウィーンフィルの方)が好きなのはマゼールの稿に書きましたが、あの冬空の冷めた緊張感がぴりぴりした演奏で覚えてオーマンディーのを聴いたらあまりにフツーの曲になっていてずっこけたり。面白い曲です。リントゥではこんなに激烈な曲だったんだとまたまた感心。氷と雪景色より雷鳴の印象が強いかな。

7番は感動しました。音楽が熱して行って9度のレではいってくる素晴らしいトロンボーン、良かったです。この楽器のソロとしてあらゆる曲で最高の場面ですね。いつもレード-ソードレーミーと音名を耳が追ってしまいますが今日は我を忘れて聞き惚れました。リントゥの指揮は、筋肉質というとやや語弊があるが引き締まった質感のボディで、リズム、フレーズの隈取は明瞭。音をなめらかにするより多少ザラついてでも情感とメリハリを高めることを優先しているようで、この曲ではそれが見事にはまりました。

5番は第1楽章の最後の速さにびっくりです。ネーメ・ヤルヴィも速いが負けてます。セゲルスタム(デンマーク国立響)に近い。しかし楽譜の速度表示はPiu prestoですからね、これでいいんでしょう。スケルツォ部分のヴィオラの疾走も耳に残ります。最後のコーダ、鶴の平原で底冷えしていた音楽が徐々に熱くなるとテンポがアップしていって、これまた大変速くなり、激烈なFFがふくれあがり、最後に至ってリタルダンド!いやあ最高の5番、大変な名演でございました。

会場は3連休にして中日の人も多かったんでしょう、8割ぐらいの入りでしたが、シベリウス・プロの会場はオペラと違ってミーハーがおらず、一体感があって喝采も半端でありません。昔はブルックナーもこういう感じでしたが今は猫も杓子もになってしまいました。シベリウス好きは、僕もそうですが、本当に熱狂的に好きなコアな人が多いんです。一日中シンフォニー7曲流しっぱなしで飽きない。あんまり庶民的な曲でもないから変な奴だと思われたりするが、われ関せずですね。ほっといてくれって。

5番の感動があって、アンコールがペルシャザールの饗宴(ノクターン)と悲しきワルツでしっとりした弦をきく。甘すぎずのデザートもセンス満点でした。オケの団員さんは起立、正対。北欧らしい美しい金、白のブロンドの女性も多い。出し切った満足感の笑顔。シベリウスはフィンランドのお国物じゃないですね、シグナチャー・ピース、国歌です。それを東の果ての国民がスタンディング・オベーションで喝采する。オケが退場して誰もいなくなったステージなのに拍手が鳴りやまず指揮者がひとり呼び戻される。久々に大満足で帰路につきました。

 
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ショパン・コンクール勝手流評価

2015 NOV 2 2:02:01 am by 東 賢太郎

ウィーン国立音大で教えている生徒は10人ほど。 残念ですが、学生たちはスコアをなかなか見ないんですよ。曲の全体像をつかもうとしない。自分のパート譜は一生懸命勉強してもね。もちろん値段も高いし、経済的に厳しい。だからこそ、私の持っているスコアを見てほしい。スコアはとても大事です。

ライナー・キュッヒル(ウィーン・フィルのコンサートマスター)

 

5年ごとに開催されるショパン・コンクールですが、今年(第17回)は韓国のチョ・ソンジンさんが優勝でした。これでアジア人優勝者はベトナム、中国、韓国が輩出、残念ながらまだ出ていない日本は後塵を拝する結果となっています。

1位 チョ・ソンジン(Seong-Jin Cho)(韓国)                                                                

2位 シャルル・リシャール・アムラン(Charles Richard-Hamelin)(カナダ)
3位 ケイト・リュウ(Kate Liu)(アメリカ)
4位 エリック・ルー(Eric Lu)(アメリカ)
5位 イック・トニー・ヤン(Yike (Tony) Yang)(カナダ)
6位 ドミトリー・シシキン(Dmitry Shishkin)(ロシア)

まず、チョ・ソンジンの本選(ファイナル)のピアノ協奏曲第1番です。

出だしの序奏、おい、なんだこの遅いしょぼくれたオーケストラはとびっくりします。どこの田舎オケかと思ったがワルシャワ・フィルだ。いちおう。一瞬、アジア人への嫌がらせを疑いましたが他のファイナリストにも大なり小なりこうなので指揮者の趣味だったんでしょう。チョ・ソンジンは進むにつれだんだん自分のテンポにオケを引っぱって行きます(集中力お見事)。ところが、コーダに来るとまた指揮者が戻す。

なんといっても20才のショパンが彼女を想って書いた曲ですからね、21才の青年チョ・ソンジンが弾くピアノが実にふさわしい曲です。おっさんのもっさりしたテンポは勘弁してくれよとこっちが思ってしまう(彼もそう思ってたのでは)。全体として何度も聴きたいほどいい演奏かというと、このオケは不遇でアーティスティック・インプレッションは優勝というにはいまいちです。でもソロパートの完成度は高い、ドラフト1位でいきなり新人王といううまさですね、技術的にこのぐらいは弾けないとさすがにショパンコンクール優勝という肩書はあり得ないでしょう。

第3楽章の出だし、うまいですねえ。これは最高だ。ピアノの細かいテクニックがここで成功しているかどうかは僕には判断がつきませんが、この小股の切れ上がったリズム、緩急、呼吸、オケへの受け渡しを聴くと、この人、西洋音楽のエッセンスを完全に体得しているなと納得します。これはケチが付けられない。日本人が勝てないのはここですよ。ハヤシライスをやってたら永遠に勝てない。

これは第3位のシンガポール系アメリカ人、ケイト・リュウさんの第1協奏曲です。オケは相変わらず重いがトップバッターだったチョの時よりは多少はましに。ところが彼女はこのおじさんもっさりテンポに適性があったんでしょう、こういう演奏になってます。

個人的にはこれが1位ですね、大変すばらしい。この人の集中力と没入パワーは半端じゃない。他人が聴いている見ているなどまるで眼中にないですね、音が降って来てる。このコンチェルトは男、しかもハタチ前後で強烈にある女が好きになったヤツじゃないとわかんねえだろとやや偏見気味の僕です。だから女性の弾いたのはちょっと斜に構え気味なんですが、このリュウさんは規格外良品だ。

とにかく、妙にプロっぽくないのがいいのです。2位のカナダ人アムランさんは、うまいです。どうして彼だけ2番を弾いたのか、1番だったら優勝したかもしれない腕の良さと思いました。しかし僕の趣味ですが、隙のない完成度なら大家の録音がたくさん聴けるのであって、どうしてもというのは感じません。21才のリュウはまだフィラデルフィアのカーチス音楽院の学生で、これが彼女のベストパフォーマンスとは思えないのですが、素材の良さですね、末恐ろしい!という感じが残るのです。ブラームスの2番を弾かせてみたいなあという、ショパンにとどまらない才能を感じます。

第3楽章の主題はチョの若鮎が飛び跳ねるような疾走感はなく、軽めのタッチでカプリッチオな感じ。大きなルバートがかかるんですが戻しが実に自然で、フレージングの強弱も工夫がありますが音楽に「おいしい」味つけになって恣意的に聞こえない。戻した速いテンポでオケにさっと投げ返して、オケが気持ちよく受け取る。この呼吸の良さ!指揮者も団員も聴衆も、西洋音楽の伝統のなかですっと納得してしまう。こういう流れが「形」であって歌舞伎の「見得」のようなもんです。お見事です。

第4位のエリック・ルーさんです。

若干17才とは驚きです。日本なら高校2年生。彼もカーチス音楽院の学生です。うまい!4才の年齢差を考えると素材はルーが一番かもしれない。あまりしなを作らず、すっきりと、もぎたてのレモンのように若々しいショパン。彼のこれもベストパフォーマンスではないだろうがきらりと光るものがあります。指の回りが空転ではなくいい味を出している所、こういうのは天性でしょう。第2楽章の沈静もいい。大器ですね。今回のなかで最もモーツァルトを聴いてみたいのはルーです。

最後に我が国の12人のうちただ一人ファイナルに進んだ小林 愛実さん20才です。

残念ながら入賞できませんでした。第1楽章、ほんの微妙にですがメカニックなもので上位の連中の余裕がない部分があります。ミスタッチではないのですが一生懸命感が出て、ああここは弾くの難しいんだなあと素人が納得してしまう。チョ・ソンジンはそう気がつかないのです、うまいからファインプレーに見えないというやつですね。こういうもので少しでも限界が見えてしまうとコンクールでは不利でしょう。しかし彼女は情感がこもるところはとてもいいのですよ、すごく才能があると感じます。これは伸ばしてあげたいですね。第2主題は僕は彼女のが一番好きです。

第3楽章は出だしが苦しいですがケイト・リュウも回ってないんです。違うのは音楽の流れですね。一例をあげると小林さんはオケに渡す寸前でルバートがかかってオケがつんのめる感じがどうしてもします。気持ちよくなれない。ピアニストの中に住む「指揮者」の部分です。こういうことは技術ではなく感覚の問題なんですが、非常に大事だと思います。彼女の流儀からかけたい気持ちはわかるんですが、西洋音楽の流儀をまずは「形」として優先した方がいいのではないでしょうか。

愛実さん、たくさん聴くに限ります。西洋音楽の流儀はピアノ音楽だけじゃなく、オペラやシンフォニーや室内楽にぎっしりと詰まっていますから、聴きまくることです。教わってもだめです。自分で体感して体得しないと、音楽の「味」として出てこない。まだ若いし、これだけの素質があるのだから無限の可能性があります。日本にピアノを習っている子が何人いるか、その頂点にいる人だからね、ぜひ世界の頂点に立って下さい。

ところでピアノ界の最上位を決めるコンテストで入賞者6人のうち国籍はともかく4人が東洋人というのは時代を感じます。移民じゃあるまいしアジア人の嫌がらせは杞憂でしたね。むしろいないと成り立たないぐらいでしょう。スポーツのコンペティションだと分が悪いですが、音楽ではこのマーケットシェア!神様のギフトが西洋だけに与えられたわけじゃない、高度に知的な作業においてユダヤ人と拮抗できるのはアジア人であるということがだんだんはっきりしてきました。

(追記)

ショパン・コンクール第1回(1927年)は音楽史に重要な役割を果たしました。ピアニストとして身をたてる志を秘めた21才の若者の運命を変えたからです。ショパンの協奏曲を得意とした彼はソビエト代表として出場し優勝を狙いますが名誉賞に終わります。落胆した彼はピアニストのキャリアを捨て作曲に専念するようになりました。ドミトリー・ショスタコーヴィチであります。シベリウスのウィーン・フィル入試とならび、後世の我々にとってはなんとも有難かった不合格事件でございました。

 

 (こちらへどうぞ)

ダリウス・ミヨー 「男とその欲望」(L’homme et son désir)作品48

クラシック徒然草《ギドン・クレーメルの箴言》

クラシック徒然草-悲愴ソナタとショパン-

クラシック徒然草-ショパンコンクールと日本人-

ショパン ピアノ協奏曲第1番ホ短調 作品11

ショパン「24の前奏曲」作品28

ショパン 14のワルツ集

 

 

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早野さん主演の「心中天網島」を観る

2015 NOV 1 12:12:28 pm by 東 賢太郎

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SMCメンバーの早野ゆかりさん主演。大変に感動いたしました。

近松門左衛門といっても教科書で知っているだけで、お誘いいただかなければ一生接することはなかったでしょう。

劇場は「上野ストアハウス」で昼の部を見せていただきましたが、早野さんから丁寧な道順のご説明メールをいただき、先日の中島さんライブのように迷子になる失態はありませんでした。阿曾さん、西室と楽しみました。

薩摩琵琶、三味線、笛・太鼓が生で入り、語りと字幕でストーリーが展開するのですが、言葉は近松のオリジナルであり、役者さんたちのセリフも阿曾さんがコーチされた関西弁(大阪ことば)という凝りようでした。このこだわりの演出は物語のリアル感を高めており大成功だったと思います。近松門左衛門が名を残した理由がよくわかりました。

紙屋治兵衛と小春が自害してしまう救いようのない悲劇シーンで終わるのですが、インパクトを感じました。しばらく言葉も出ないほど。死に至らざるを得なくなる男女の心理描写、家族との葛藤、劇の間に間に動きを止めて背景に映し出される近松の原文のオーセンティックな格調が見事に緊迫感を高めた結果です。

内容については早野さんのこちらのブログを是非お読みください。心中天網島』|早野ゆかりのブログ – アメーバブログ 早野さんの小春はお世辞ぬきに迫真の名演技でした。さすがですね。ほかの役者さんも熱演であり、なかなか接する機会のない日本の古典を楽しめ、素晴らしい満足感をいただけますよ。11月3日まで上演ですので、近郊の方はぜひ足を運ばれてはいかがでしょうか。

 

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石川さゆり 津軽海峡冬景色(今月のテーマ・英国)

2015 OCT 31 23:23:50 pm by 東 賢太郎

なぜこれが「英国」なのかというと、ノムラ・ロンドン勤務の頃にさかのぼりますが、株式営業課の大先輩Aさんのオハコでありまして、カラオケでだんだん「お前らも全員でやるぞ~!」となってきて、酔っぱらい十何人が振付けいりで熱唱して夜中におひらきというパターンが定着したなんてことがあったからです。

さらに、それが当時ロンドン社長であられたT副社長のお目に留まることとなり、鶴の一声でロンドン社歌にまで昇格してしまったという大変な曲なのです。

先輩の振り付けは、このビデオがもっと派手になったものでございました。デビューの年の石川さゆりさん、昭和52年(1977年)、19才でしょうか。

素晴らしい曲です。「ゆき~のなか~」がB7(ドッペル・ドミナント)という効果的な和音になるうえ、「の」がd#でなくdの不協和音で長調に短調がぶつかるなんてビートルズですね(サージェント・ペパーズ)。

こちらがオリジナルのレコードのようです。安いですね、600円です。同年1月1日発売。エンディングはフェードアウト。

このTVテイクは何年のものでしょうか。エンディングがちがいます。

僕はこのテイクを最高傑作に認定させていただきます。「さ~よなら、あなた」の情感はオリジナルより円熟味がまし、「あああ、あ~~」の「あ~~」(c)と「津軽海峡」の「い」(最高音d)が裏声になりますが、前者のヴィヴラートの奥深い色香!後者の絶妙のピッチ!もう名人芸と絶賛するしかございません。他の歌手さんのビデオもありますが、これをコピーできている人は皆無です。裏声にしないせいでしょうか、イ短調を半音下げている人もいます。

プロ中のプロであるのは、3回出る「ふ~ゆげ~しき~」の「し」(g#)を、1回目は高めにとって終止感をあえて希薄にし、3回目はしっかりg#にとってドミナントをだして、これでおしまいという盤石の終結感で曲を閉じることですね。ヴァイオリンやチェロの大家がかくし味でやることを自然にやっている。ピッチが良いからできるのであって、天才的な歌であり素人がカラオケでまねできる域には到底ございません。

石川さゆりさんの声質は極上の弦楽器、ピッチに対する感性の良さはユリア・フィッシャー並み。世界中のどこへ出しても一流。この歌は日本リートの名曲であり、海外でも広く聴いていただきたいと思います。

 
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癒しの声、アニタ・ベーカー

2015 OCT 31 0:00:20 am by 東 賢太郎

ペットロスというのがありますが、これからしばらく野球ロスの日々となります。感情移入して観てると疲れるし贔屓が負けるとストレスにもなるんですが、取りあげられてしまうと今度は虚無感におそわれます。

そうしたら、昔よく接待に使ってた赤坂のクラブから「閉店のごあいさつ」なんてのが来てたりして、さらにロス感がつのります。どうもこの季節は苦手です。

毎年この空白は音楽が埋めてくれるのですが、今週は仕事の心労もあってどうもクラシックは重たい。こういうときはだいたいスコッチで酔っぱらって歌を聴きます。きまって女性シンガーですね。男の声というのはどうも和まないのです。

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ところが酒棚にスコッチがない。うまくいかんもんです。そうしたら奥の方からどこで買ったんだか紅星二鍋頭酒なる中国の安酒が出てきて、56度ある白酒(パイチュウ)ですね、香港時代によく飲んだんでこれを一杯やったらぐっときました。こりゃあ疲れが飛びますわ。

こういうときの女性シンガーといって、僕はどちらかというと黒人の低めのアルトが好みで、今日はこれがしっくりです。なんでコーリャンの酒とアニタ・ベーカーなんだ?さっぱりわけがわかりませんが、もう完全に酔ってますんで・・・。

 

(こちらへどうぞ)

ドリーブ 歌劇 「ラクメ(Lakme)」

 

 

 

 

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ホークスの野球は圧倒的最高水準である

2015 OCT 29 22:22:55 pm by 東 賢太郎

1 2 3 4 5 6 7 8 9
ソフトバンク 0 0 0 2 2 0 0 0 1 5 10 0
ヤクルト 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 1

 

最後の頼みの綱の石川が4回にイデホにツーランを浴びてしまい、あそこで緊張の糸が切れました。

それは伏線があって、3回に上田が四球、川端がヒットで出た押せ押せのチャンスで山田が三振、あれがすべてでした。長い攻撃で気をもたせて零点。そこから先発石川がおかしくなりました。次の回、イデホの当たりはビデオ判定で中断してやっぱりホームラン。そして次の回、石川はついに投手スタンリッジまで警戒してしまって信じ難い四球。そこで出た川端のエラー・・・。

結局シリーズはホークスの4勝1敗でしたが、よく1勝できたなと思うほど実力差はかけ離れてました。高校野球でいうなら、甲子園優勝校をホークスとするなら、地区予選の4回戦あたりで倒した相手がヤクルトというところでしょう。10回やって1勝できるかどうか、それが5試合で1回勝っちゃった、よくやったね、というイメージであります。

スタンリッジは打てそうに見えましたが、ヤクルト打線がホークス投手陣の剛速球とタイミングをずらすカーブの残像で縮こまってしまい凡打の山でした。5安打しましたがぜんぶ単打で点が入る気配がないのはシーズン中の広島打線を思い出して懐かしくもあり。7回から剛球の救援陣、森、バリオス、サファテにかわると、もう気持ちは消化試合モードの観戦になってしまいました。

山田は3連発のあと五十嵐に三振取られて、あれ以来変になってしまった。バッターっていうのは不思議なものです。やっぱり、投手は球が速いのが最も打ちにくいんですね。ホークス投手陣のボールの速さ、強さ、破壊力はセリーグにないもので、打っても外野に飛ばない感じ。打線のつながりと選球眼とねばりとフルスイングの迫力もさることながら、投手陣の能力の高さは目に焼きつきました。最高水準の野球を見せていただきました。

さあこれで、年に二つしかない季節が後半の「野球のない季節」に入ってしまいます。寂しいことです。ここからやってくれるなら冬はオーストラリアに住んでもいいなとさえ思います。

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ヤクルト痛恨の敗戦、館山の不調が痛い

2015 OCT 28 23:23:18 pm by 東 賢太郎

1 2 3 4 5 6 7 8 9
ソフトバンク 1 0 4 0 0 1 0 0 0 6 6 1
ヤクルト 0 0 0 1 0 3 0 0 0 4 9 1

 

惜しい試合でした。先発の館山がまったくの誤算。例のリーグ優勝がかかった広島戦をネット裏で観ましたが、本塁打2発で3失点KOだったあの時と同じです。右打者にシュート回転した球が真ん中にはいってしまう。イデホに左中間を破られたのがそれ、そして試合に出てなかった捕手の細川にも。しかもその直前にファーストのファウルフライを畠山が深追いして捕れず、それが災いした失点だったのが痛すぎます。あれはライト雄平が捕らなきゃいかんでしょう。この回で昨日の山田が作ったミラクルムードがいっぺんに盛り下がってしまいました。

ヤクルト投手陣は9つも四死球を与えてしまいました。ホークス打線の圧力、威圧感に押されましたね。特に1、2番の福田、明石は構えからして何かやりそうで、塁に出るとかきまわしてイデホのヒットを呼び込んだと思います。そして、これも残念だが5回に出した松岡をひっぱって6回、その細川に不用意なストレートを投げてレフトにありえないホームラン。今季は59試合しか出ず打率1割でホームランなしの打者にこういうところで打たれてしまう。あの回から秋吉でいくべきだったでしょう。

ホークスが強いのはこの「ありえない」が起きてしまうところです。第1戦で松田が本塁打を打ったら打線が爆発して6連続安打でしたが、そんなことは6人全員が仮に3割打者としたって確率的に1万回に7回しか起きないのです。そういうのが大事な第1戦で出てしまう。相手はびびります。

摂津はスピードは抑え気味でしたが山田をうまく攻めました。変化球で入ってタイミングを取らず、最後はすばらしい低めの速球で2回見逃し三振。あっぱれです。バレンティンがやっとバットにかろうじて当たりだして、中村、上田のヒットで3点返しました。この6回の加点は救いでしたが、ホークスのリリーフ陣は球が速い。なかなかあの150kmは打てないでしょう。

ヤクルトはがけっぷちに来てしまいましたが、完敗というゲームではなかったです。久古が柳田を三振ゲッツーという昨日のリプレーのような好投があったし、彼に打たせなかった中村のリードは冴えてました。しかし彼にビビって2回も四球を与え、2回ともイデホに痛打された館山の不調につきます。

あすは中4日で石川でしょうか、いえ、石川で行くしかないでしょう。あとプロ野球も1,2試合しか見られない、さびしいことです。ヤクルトがんばれ。

 

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神に見えたヤクルト山田哲人

2015 OCT 27 22:22:37 pm by 東 賢太郎

1 2 3 4 5 6 7 8 9
ソフトバンク 0 2 0 1 1 0 0 0 0 4 8 0
ヤクルト 2 0 1 0 2 0 0 3 X 8 8 0

 

この試合を落したら4タコ間違いなしのムード。川端も畠山も打てなくなり、バレンティンはノーヒットのまま。山田が打たなきゃもう終わりだと誰もが思ってました。

そこで初回から3打席連続ホームラン!鳥肌が立ちました。

しかしホークスも強い。山田が初回にツーラン、するとすぐ次の回に2点取って同点。山田が3回にソロ、するとすぐ次の回に今宮のホームランでまた同点に。そして5回にはついに明石のホームランで4対3とひっくり返してしまいました。

この時点でヤフオクの悪夢がよみがえり、ああやっぱりソフトバンクは強い、今日も負けるのかという暗雲がたちこめるのを感じました。

そしてその裏です。CSロッテ戦での150km台の剛速球が凄すぎて誰も打てそうもない千賀がマウンドに登り、山田の3打席目です。首を振って投げ込んだインハイの渾身のストレートをレフトスタンドに叩き込んだのです。

この3本目はまさにこの時に神宮で目撃した一発の再現です。

山田の2打席連続ホームランに驚愕

いえいえ今回は驚愕を超えてます、絶句です。もう惚れこんでしまった。このブログをもって、男の中の男、山田哲人に最大限の賛辞をさしあげたい。ここぞに強い奴が常に勝つ サインもらってお守りにしたいぐらいです。

最後の打席は五十嵐に三振を喫しましたが、そうしたら次の畠山が仇討のホームラン。これも最高のインパクトだ。中村のリードが冴えてきて、久古が柳田の内角を執拗に攻めて最後は外角ストレートで三振ゲッツーに取った場面、あそこも鳥肌ものでした。バットでもツーベースで2打点。守りは中村が要になると思うので、この試合はベストの展開になりました。中継ぎ、抑えも完ぺきでした。

それもこれも、とにかく山田です。すべてのモヤモヤを吹き飛ばすダイナマイトだ。日本シリーズで試合マタギでない純正の3連発は史上初です。山田哲人は長嶋茂雄をうわまわりました!

 
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