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ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番の名演

2014 FEB 23 0:00:34 am by 東 賢太郎

前回のフォローアップです。曲にはおなじみという方にお薦めしたいCDです。世評の高いリヒテル、ルービンシュタインは好みでなくコメントは世の中にいくらも出ているので控えます。今後も良いと思ったものは日々追加してコメントしていきます。また、過去に書いた他のすべての曲についても同様でCDリストはだんだん長くなっていきますので、僕のブログページの右下の方にある「カテゴリー」から検索して適時ご覧ください。

セルゲイ・ラフマニノフ / レオポルド・ストコフスキー / フィラデルフィア管弦楽団

mzi.hggxgout.600x600-75作曲者のピアノによる自作自演盤です。1929年、僕にとっては2年通った思い出のアカデミー・オブ・ミュージックでの録音です。このテンポの速さはSPの収録時間かあの残響のないホールトーンと関係があるかもしれません。あまり粘らないロマンにひたらない演奏であり、下記ヴァ―シャリ盤はこの対極です。和音のつかみには手の大きさを感じますし、指の回りと打鍵の強さからは大変なヴィルトゥオーゾだったことがわかります。彼のピアノのフレージングは音が高く登ってまた降りてくる場面で、登りはだんだん遅くなり下りはだんだん加速するという傾向があり面白いですね。重力加速度のイメージです。こういうことは楽譜に書けないのでこの録音は非常に貴重です。

 

タマス・ヴァーシャリ / ユーリ・アーロノヴィッチ / ロンドン交響楽団 uccg5270-m-01-dl

アーロノヴィッチが熱くうねるようなフレージングでこの曲のロマンを徹底的に味あわせてくれる名演です。この曲にひととき身をゆだねたい人に強くお薦めします。雄大な起伏で盛り上がった頂点から崩れ落ちてくるかのような第1楽章展開部はカタストロフィー寸前のものすごさ。終楽章第2主題の登場にいたるリタルダンドと一瞬の静寂の間など、これはもうマーラーの世界です。気迫をこめて低音を打ち込むヴァ―シャリのピアノも感情の振幅を押さえる気配すらなく、オケとのバランスなどものかは感じるままの起伏で対峙します。それでいて第2楽章中間部の叙情、細かいパッセージの切れ味とも一級品。これがライブだったら! 第1楽章です。

 

アレクセイ・スルタノフ / マキシム・ショスタコーヴィチ / ロンドン交響楽団 41GSRXWNMFL._SL500_AA300_

これは多くの人に聴いていただきたく、ここに取り上げます。ピアノのスルタノフはウズベキスタン生まれで89年にヴァン・クライバーン・コンクール優勝、95年にショパン・コンクールで1位なしの2位、オリンピックなら2大会で金メダルという人でしたが2005年にくも膜下出血のため35歳で亡くなりました。これは19歳の演奏で若々しい詩情とデリカシーに満ちており、ショスタコーヴィチの息子マキシムの指揮も貴重で大きな流れを作って感動的です。

 

ベンノ・モイセイヴィッチ / ヒューゴ・リグノルド / フィルハーモニア管弦楽団 761

モイセイヴィッチ(1890-1963)は作曲者自身が「精神的な後継者」と折り紙をつけ、ヨゼフ・ホフマンにも称賛されたユダヤ系ロシア人ピアニストです。55年録音のこの演奏は独自の緩急とアクセントのあるピアニズムで弾きとおした個性的な演奏です。作曲者自身がショパンの楽譜を自由に解釈して演奏していますから自作に対してもこういう解釈であれ何の問題もなく許容していたと僕は思っています。これぞ19世紀のピアノ演奏であり、自演盤よりずっと録音のいいこの演奏はラフマニノフ存命の時代の空気を濃厚に感じることのできるタイムマシンです。

アビイ・サイモン / レナード・スラットキン / セントルイス交響楽団 MI0000977943

ホロヴィッツのようにそれが前面に出る奏法ではなく録音も地味なので目立ちにくいのですが、最もピアノの技術が高い演奏の一つであること間違いないと思います。弾きながら歌う声が聞こえますが、恐らくこの人は実演でもミスタッチをするイメージのまったくないピアニストでしょう。本当にうまい。野球でいえば井端や宮本の守備のようなもので、あまりにうまいので難しいゴロをさばいても一般の人にはファインプレーに見えず、野球をやった人は鳥肌が立つという。幸いこれは音楽だから心して聴けば誰にもわかります。スラットキンの指揮もサイモンの呼吸にぴったりと合ってシンフォニックなメリハリが最高です。僕は愛聴しています。

 

セシル・ウーセ / サイモン・ラトル / バーミンガム市交響楽団

unnamed (55)ウーセはヴァン・クライバーン・コンクール優勝のフランス女性です。今年まだ78歳ですが残念なことに病気で引退され、後進の指導や世界のコンクールの審査員をされているようです。僕は彼女のフランス物を愛聴していますが、ブラームスの2番を弾いてグランプリを受賞するほどの剛腕でもある。この2番の男勝りのタッチでばりばり入るバスの効いた第1楽章、いいですねえ。僕は第1主題の伴奏ピアノが聞こえる方が好きです。第2楽章も速めでさらさら流れ、ラテン的感性でいっさい粘りません。同じフランス人のグリモーも以前はこんな風だったかもしれません。終楽章はラトルの指揮がやや僕の感性とは合いませんがメリハリは充分で、ウーセのピアノを聴いているだけでなぜか気持ちがいいのです。スイス勤務時代に車に入れて毎日聴いていたほど気にいっています。

 

フェリシア・ブルメンタール / ミヒャエル・ギーレン / ウィーン国立歌劇場管弦楽団

51GvxNRLVbL__SS2801958年録音。ポーランドのピアニスト、ブルメンタール(1908-91)はLP時代に廉価盤の常連で、レパートリーは広いがその程度のピアニストと思ってました。しかし彼女はシマノフスキーの作曲の弟子で、ヴィラ・ロボスにはピアノ協奏曲第5番を献呈された20世紀前半の需要なピアニストである。このラフマニノフ、ギーレンの硬派の解釈と曲をやり慣れてないお仕事風情満載のウィーン・フィルの伴奏が実に面白く、ピアノは弾けてしまって流してる感じの所もあるが、最後は帳尻があっていい音楽を聞いた充実感を残してくれる。曲ができたころの息吹があり、演奏者がつまらん小技など弄さなくても偉大なものを聴いたと感動できる。ラフマニノフの作曲能力の高さがおのずと語る演奏であり、彼の自演がまさにその見本であり、合成甘味料フリー。マニア的視点からは完璧主義でないスタジオ録音というのが希少品で、最近のいたずらなお上手主義で大仰にプレゼンされた、実は何の主張もない「大演奏」に飽き飽きしているのでこれは高級なお茶漬けの味であり、時々聴いてます。 i-tunesで600円です。

 

ラフマニノフ交響曲第2番ホ短調 作品27

Categories:______ラフマニノフ, クラシック音楽

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