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ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18

2014 FEB 22 16:16:34 pm by 東 賢太郎

浅田真央のフリー、何度見てもいいなと思い、今日もまた見てしまいました。キム・ヨナさんのオリンピック最後の演技も大拍手を送りたいし、優勝のロシアの子のジャンプも凄かった。しかし、それでも、真央さんのあの試合直後のインタビューには演技と同じほどの驚きと感動と涙を何回もいただいているのです。あの心の底からでてくる数少なくて重たい万感のこもった言葉にはもう年齢など関係なく、畏敬の念しかわいてきません。修羅場をくぐって何かをやり遂げた人は静かで美しい。

彼女がこの曲にのって劇的リカバリーを演じたというのはとても意味があるように思います。というのはラフマニノフも彼女と同じ24歳のときに大失敗をしてどん底まで落ちこんだ人だったからです。それは自信満々だった交響曲第1番が評論家から想定外の低評価を受けたためでした。ショックから作曲不能に陥った彼を救ったのはニコライ・ダーリという精神科医で、快方に向かったラフマニノフが書き上げた起死回生の一曲がこのピアノ協奏曲第2番だったのです。

そういう生い立ちのせいでしょうか、この曲は切ないセンチメンタリズムに聴く物を酔わせ、暖かくハグしてくれるような包容力に満ちあふれ、勇気と生きる力を与えてくれて鼓舞してくれます。圧倒的に素晴らしい「第1楽章展開部の終わりの数ページ」はいつ聴いても血沸き肉躍りますし、夢うつつのように安らぐ第2楽章。最後の1~2ページ、秋空の夕焼けが広がってこころに希望と深い平安が訪れます。終楽章はロマンスと歓喜の嵐であり、全曲を締めくくるコーダの興奮となにか難事を達成したかのような充実感!修羅場をくぐりぬけた人だからこそ書くことができた音楽に、生きる喜びがぎっしりと詰まっているのです。本人のピアノです。

この曲との42年のつきあいは17歳の時、チャイコフスキーPC1番の稿に書いたヴラディーミル・アシュケナージ盤(コンドラシン指揮モスクワ・フィル)によって始まりました。そのLPで知って、こっちの方が好きになってしまったのです。すぐに夢中になってしまい、第3楽章のエキゾチックな第2主題、あの変ロ長調をそこだけ何度も何度も練習してついに弾けるようになった快感といったらありませんでした。そのアシュケナージの絶妙のテンポ・ルバート!今これを聴いても初恋の記憶がリアルによみがえります。

3番は技術的にはより難しいといわれます。その2と3を両方弾く人が多いのですが、どちらかだけというこだわり派の人もいてなかなか面白い。リヒテル、ルービンシュタインは2番だけ、ギレリス、ホロビッツ、アルゲリッチは3番だけ、ですね。ミケランジェリは4番だけという変人ぶりを発揮していますが。ラフマニノフは弾かない人もいます。アラウ、バックハウス、ケンプ、ゼルキン、カサドシュ、ブレンデル、ポリーニなどです。

いろいろ聴いたライブでは01年にオペラシティでテミルカノフ/ザンクト・ペテルブルグ・フィルとやった中国人のラン・ランのテクニックの冴えには驚きました。アメリカでFM放送で聴いた故アリシア・デ・ラローチャのサンフランシスコ響(エド・デ・ワールト指揮)での84年のライブは忘れられません。彼女は一度香港でリサイタルを聴きましたが小柄で手が小さい人でした。しかしそれを補ってたおやかで優しく、ツボを押さえた名演が非常に印象に残っています。第2楽章の夕焼けはこれを凌ぐ演奏を知りません。

それを髣髴とさせる美しさがあったのが、N響で聴いたアンナ・ヴィニツカヤでした( N響 フェドセーエフ指揮アンナ・ヴィニツカヤの名演!)。これも正統派の名演ですね。タッチの折り目正しさがいい。これでスケールを身につけていったら将来非常に楽しみと思います。

最後にもう一つ。花ごよみさんに教えていただいたカティア・ブニアティシヴィリです。まずお断りしますが、僕はこの演奏を買いますが全面的には支持できません。テクニックはけっこうラフであり、第1楽章提示部の最後や終楽章コーダの入りの加速などあまりに唐突で僕は到底ついていけない。前者など満場あ然の急発進でオケはマンガ的スピードにされたまま置き去りとなり、再現部冒頭は指揮者がわけがわからなくなってピアノとばらばら。この楽章の白眉がぶちこわしです。局部的にかきたてる興奮、最後は前代未聞の超特急ぶりで聴衆はロックコンサート並みに湧いてますが、この曲は真っ当にやってもっと巨大な感動を生み出せるのです。

そうは思いつつも、このお嬢さんの天衣無縫のじゃじゃ馬ぶりはいとも抗しがたき魅力がある。この人は他人を理屈でなくオーラで巻き込んで説得し、えいっとねじふせて支持者にしてしまう何かを持って生まれているのです。そういうものを肯定してしまうDNAを持って生まれているらしい自分として、理屈でなく感性で賛成票を投じている。人間とは不思議なものです。

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Categories:______ラフマニノフ, クラシック音楽

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