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チャイコフスキー バレエ音楽「くるみ割り人形」より「花のワルツ」

2015 DEC 20 1:01:41 am by 東 賢太郎

APTOPIX Germany Christmas Market320px-Nussknackerドイツの冬は寒くて長い。それがクリスマスに近づいてくると、街がにわかに活気づき始める。お店のショーウィンドウはかわいい人形で子供用のエンターテインメント一色になり、ぬいぐるみやキラキラ眩しいクリスマスの飾りが出店に所せましと並ぶ。上の写真は我が家が3年住んだフランクフルトのレーマー広場のクリスマス市である。今年はどんなプレゼントで子供を驚かそうかと愉しみだったのを思い出す。

そういう年齢だったのでドイツは感慨深い。我々親も30代で若かったからいっしょに童心に帰ってもいる。ドイツは強く心に焼きついているが、その思い出が大きな部分を占めている。そしてそのクリスマスが舞台となるバレエ「くるみ割り人形」をマインツのオペラハウスで娘たちと観た思い出が。

全曲の数ある名ナンバーの中でも「花のワルツ」は驚異的な名曲と思う。このバレエ音楽の華であり、作曲家チャイコフスキーの代名詞であるばかりか全クラシック音楽中でも最も有名なものの一つだろう。ほどなくしてあの悲愴交響曲で慟哭の響きを奏でることになる作曲家が、奥儀の限りを尽くして聞く者を愉悦と華やぎに充ち満ちた気分にしてくれる。

このワルツの主部(楽譜)が弦の合奏で鳴りだした時のワクワク感はなんだろう?音楽を聞く喜びが胸いっぱいに広がり、なんて良い音楽なんだろうと我を忘れて夢中になり、作曲家への感謝以外に心を占める物はなくなってしまう。

kurumiwari

このピアノ譜は作曲家自らの物だが、フルートの5連符が3連符になっている。悲愴の第3楽章ではヴァイオリンに似たように装飾的な7連符が書いてある。打楽器的に響くピアノより軽いアジリタに適した楽器の場合は音を増やしてより華やかさを演出しているのだろう。チャイコフスキーのオーケストレーションの職人技と思う。

和声は第1小節からd-c#がぶつかるなど創意に満ちているが、このワルツはそんな浅はかな分析を寄せ付けない人智を超越した絶対的尊厳がある。猫好きの僕は彼らのシェイプを見ていて時に問答無用の美を観ることがあるが、これはそんなものだ。高貴さとも違う、それは人間界のささやかな序列であって、この音楽は何か神様の喜びのほとばしりが作曲家の頭脳を通って音符に刻みこまれたかのようだ。

youtubeにある演奏を片っ端から聴き比べた。そんなことをしたためしはない。ところがやってみて驚いたことには、満足な演奏がきわめて少ないのである。まず、ほとんどでオーケストラが、弦の合奏が、ホルンの合奏が、クラリネットのソロが、へたくそだ。合奏がだらしない。これが田舎のオケならわかるがベルリンフィルでもそうなのだ。

僕は自分で弾いたりシンセでも録音して確信あるテンポができている。6分40秒前後だと思う。ところが多くの演奏は7分を超えており、特にバレエが付くと踊りに合わせるのでますます遅い。そんなテンポで合奏が合わないだらしないとなると全く耐えられない代物というしかない。

こういうことは主観、好みだから押しつける気は毛頭ないが、ライトミュージックとして軽めのアプローチでいこうというのか、手を抜いているとまでは言わないが悲愴交響曲をやる気構えよりはテンションが低いのばかりだ。たしかに「組曲」に入っている音楽が全曲の中で質の高いものばかりかというとそうでもなく、漏れている部分にもっと高いものがあったりする。ムラヴィンスキーのようにオレ流組曲を編んでしまう人もいるのだ。

ということで、数少ない「許せるもの」だけをピックアップしておこう。まずテンポだが、これが僕のイメージに最も近い(6分36秒)。リチャード・ボニング指揮ナショナル・フィルである。

この速さで踊れるか?大変だろうが踊ってもらわにゃ困るということだ。音楽はダンスの奴隷ではない。

この演奏、技術水準は何の問題もなく不可ではないのだが優良可の良の下という所だ。ちょっと美感には欠け、指揮のセンスと勢いだけでもっていってる。それもクリアしている演奏がひとつだけあった。シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団である。

テンポはボニングより遅いが耐えられるぎりぎりには入っている(6分54秒)。ワルツ主部のフレージングの切り方が独特だが慣れれば気にならない。そして、なによりオケがうまく、合奏のブレンドがいい味に仕上がっている。これでなくては花のワルツの浮き浮き感は出てこないのだ。

 

(こちらへどうぞ)

 

チャイコフスキー バレエ音楽「くるみ割り人形」

 

ルロイ・アンダーソン 「そりすべり」 (Sleigh Ride)

チャイコフスキー交響曲第6番ロ短調 「悲愴」

 

 

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Categories:______チャイコフスキー, クラシック音楽

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