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頭が良くて馬鹿 (ラ・ロシュフコー) とは?

2012 NOV 20 10:10:42 am by 東 賢太郎

「デフレ解消と経済政策」「金融緩和」が選挙の争点になりつつある。これは非常に正しい方向を国民が見始めているという証左であり、とても安心する。

経済回復の知恵も意識も具体策もなく、弱者救済、TPP反対、原発反対、減税だけで日本人が幸せになれると信じている、あるいは本当はそうは信じていないがポピュリストに徹して支持母体を安心させる嘘をついている政党は今のところ4つはある。このどちらの場合であろうともこの4政党は表題には相当しない。頭が悪くて馬鹿か、あるいは頭が良くて利口(ずる賢い)のどちらか。どっちにせよ経済が争点になってくれば馬脚をあらわしやすく、害が少ないから無視する。

家が火事になるとぞろぞろと鼠が逃げ出てくる。こんなにたくさんいたのかとびっくりする。別な家の軒下に逃げ込んで見事に元からその家の鼠だったような顔をする。きのうまで米びつを争っていたのに火が消えるまでは仲良くしようと別な種族の鼠と急きょ同居を決め込むのもいる。ぜんぶ「なりすましネズミ」だ。政治家は当選しないと政策を実行できない。しかし、当選しないと議員バッジがつけられないだけという石つぶしは鼠取りごとまとめて排除するチャンスである。国民は今回はそうはだまされないだろう。

そもそも党がこんなにたくさんあったのは記憶になく雑魚はどうでもいいが、金融緩和を「経済政策のためだけで言っている」と誤解しているらしい経済音痴党が複数存在する。そうではない、デフレ退治という重大な意味があるよと本気で言っている党が一つだけある。インフレターゲットという言葉をあげているが、その言葉がインフレ政策の実体効果(もちろんそれは必須だが)だけでなくマーケットへの心理的効果をも包含することをも知っていると思われる。その総裁自身が本当に自分の言っていることを理解しているかどうかは不明だが。そして、それを言い出すと日銀の話がどうしても出てくる。

それに対抗して「日銀が無制限にマネタリーベースを増やせば、ハイパーインフレが起こる。」「金利がゼロに貼りついた流動性の罠ではマネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えない。」との2つの批判が主に論じられている。後者は金融機関にお金がたまっても借り手がいなければ意味がないということ。そうであればハイパーどころかインフレなど起きないから両者は矛盾している。矛と盾を両方同時に主張して某総裁を批判している学者やエコノミストがいる。この連中は馬鹿なのか国民を愚弄しているのか野田首相の太鼓持ちなのかは不明である。

この2論について言えば、後者は需要創出策がなければ金融緩和効果は一時的で終わるという意味ならば正しい。前者は貨幣価値毀損リスクがあるという意味ならば正しい(過ぎたるは及ばざるが如しとなると国債暴落など副作用が確かにこわい)。こうした学者、エコノミストの意見を鵜呑みしてどちらかを主張する党が複数ある。いや、鵜が呑み込めてもいないのだが反対するためだけにとりあえず言っているとおぼしきみっともない党もある。

2論に対し、教科書的に異論はない。しかし、教科書的な策が奏功するならデフレはとうに収まっているだろう。非常事態には非常事態なりの策がどうしても必要である。マーケットを視野に入れれば、本当はやらないが脅しで言ってみるという手は金融政策に関する限り世界の常套手段で、やらない方が馬鹿である。金融政策と経済政策、財政政策の区別すら明確にする能力のない党が政権をとれば、今後も財務省、日銀によるマーケット感覚0%の金融政策が堂々と継続し、デフレ退治はおろか経済回復もおぼつかないことはほぼ100%間違いないだろう。

僕は次の首相が誰になるかと同じぐらい次の日銀総裁が誰になるかが経済の浮沈に影響がある、つまりすべからく日本国民全員の幸せに影響がある、と固く信じている。日銀白川総裁は「資産買入れは日銀が世界で先鞭をつけた。それが評価されないのは悲しい。」と言っている。効果はなかったが先にやった?確かに。「日銀のBSはGDP比最大級だ。政府の経済政策と両輪であるべきだ。」と政府のせいにする。確かに。ではなぜそんなにがんばったのに効果が出ないのか?それが国民にとって一番大事なことなのに。日銀の言う通りだと認めよう。インフレ退治は日銀の専管事項だがデフレ退治は一人ではできない(できなかった)のである。

社会主義者で経済音痴の政府がデフレ対策を日銀に丸投げ、日銀はそれを幸いとして念願だった独立独歩路線を堅持すべく一人で頑張る(ふりをする)。これがガン以外の何物でもない。経済通の政府が主導、日銀が方法論の独立性だけはキープしながら金融政策の目的を共有し、方法論に瑕疵が発覚すれば日銀総裁に責任をとらせる。それがマストとは言わないが、結果がこれなのだから現実論としてほかに手はないだろう。ところが現行の日銀法によると日銀総裁の任命権は国会が持つが、罷免権は誰にもない。日銀と政府の目標と役割分担の明確な規定すらない。仮に政府と日銀が「また裂き」になる政策をやった場合に、国民は国会議員をクビにできるが、日銀総裁はできない。だから総裁は国民が選べる政府(国会議員)がクビにできるようにしなくてはいけない。だから日銀法は改正すべきである。

以前、安岡氏のブログのコメント欄に白川総裁のことをボロカスに書いたが、もちろん総裁に恨みなどない。大学の先輩であり非常に真面目で温厚で頭の良い方であることは間違いない。しかし、彼がノーベル賞学者のクルーグマンから「銃殺刑に処すべき」とまで言われたポイントについては是とするしかない。もうひとつ、マーケットの住人として申し上げると、彼は聡明かつド真面目すぎて「言っていることの先が読めてしまう」。これはダメである。特にこういう時期の中銀総裁にはもっとも不適格である。

なんと円ドル介入目標値を先にマスコミに言ってしまうという真正の馬鹿であった財務大臣と人物の出来まで比べては失礼だろう。しかし世界中のマーケット(SWF、年金、ヘッジファンドなど資金運用者、為替ディーラーなどから成る)にナメられ、馬鹿にされまくっている悲しい実態を僕は生々しく知っている。おそらく、ラ・ロシュフコーは「箴言集」でかような方々を「頭が良くて馬鹿」と表現している。いや馬鹿なのはそういう総裁を替えられない法律を放置している国会議員であり、そういう議員を選んでいる我々国民であるが。

米国の中央銀行総裁に相当するFRB議長のグリーンスパンもバーナンキも、タイプこそ違うが頭の切れる大嘘つきでありタヌキおやじである。合衆国財務長官だったルービン、ポールソンは証券会社ゴールドマン・サックスの元共同会長、CEOであり、同業界の生態系として超一流のワル、「インテリやくざ」でなくしてその地位まで行くことは絶対に不可能である。タヌキもやくざもマーケットを脅す時はまじめな顔をして何を言っているか意味不明になったりする。これを教科書論を振りかざして馬鹿というものは世界に一人もいない。市場は焦る。動揺してビビる。何千億ドルも他人のお金を運用しているのだからだまされて運用に失敗することはプロフェッショナル人生では死刑に匹敵する。高給を食むのだから当然のことである。

世界の金融市場というのは学者と教科書で動いているのではない。善人はケツの毛までぬかれるジャングルのような場所である。70円台の理不尽な円高というのは毛がなくなった末のみじめな姿なのだ。そのツケは日本の輸出企業と国民が払わされている。為替レートは財務省でも日銀でもなく、マーケットが決めるのである。マーケットが視野にない金融政策は国を滅ぼす。日銀総裁にはポーカーゲームに強いタヌキおやじをすえるべきである。しかし学究肌の多い日銀にそんな芸当の出来る人材はいないだろう。であれば嘘つき同志のポーカーに長けた政治家が日銀と金融政策の目標を共同設定するしかないということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

Categories:______国内経済, 経済, 若者に教えたいこと

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