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田中将大と戦力外選手リスト

2013 OCT 22 14:14:31 pm by 東 賢太郎

楽天田中マー君の連勝記録はCSにまでおよび前人未到の領域に入った。雲の上を通りこして成層圏に突入している。投手は何キロの球を投げようがスピード違反はないし何種類の魔球を投げようがルール違反でもない。だから誰だって打たれない球を投げたい。

若い時の身体というのは自分でも信じられないぐらい「動く」ことがあって、我々はるか下界の選手であっても毎日やっていると自分でほれぼれするほど球が速いと思うことがあったりした。キャパの巨大なプロ選手が、そういう「極限ハイ」な状態でずっといられればきっといい成績になるんだろう。そうすると対戦する打者のほうが餌食になるだろう。

しかしところが、打者の方にも「極限ハイ」なのがいて、そういう投手を打ってしまう。最高の身体能力である連中が毎日訓練しているのだからそういう選手が必ずグラウンドに何人かいるのであり、その連中の食ったり食われたりの生存競争を我々は球場やTVで見ているということだろう。そのハイ状態がシーズン中続くと打者は3割、投手は二桁勝利という感じなのかと思う。

巨人、西武にいた某氏(投手)とゴルフをしたことがある。1m90cm近い巨漢で年も30ぐらいだったから飛距離も半端でない。それでも「球速はなかなか140km出ませんでした」という。体格は特にどうも思わないが、西武時代に工藤公康とキャッチボールをしていて不意にカーブを投げられ「怖かった」という話となるとちがう。プロが「立ち投げ」で怖いカーブっていったい何なんだ?こういうところに格段のレベルの違いを感じるのだ。

松坂大輔が先発の日は彼ら中継ぎ陣は本音はお休みモードだったそうだ。それをコーチに悟られないように緊張顔であえてブルペンに行ったりしたというからプロ野球選手も結構サラリーマンしているわけだ。「そんなことをしていても一軍にいればそこそこ年棒はもらえますから中継ぎはすごくいい商売ですね」、と笑った。金融を学ぶほどのインテリでもある氏は引退後は実業家になられている。

彼らの天性の身体能力をもってしても「極限ハイ」の状態は長くは続かないのだろう。今年も戦力外選手の記事が出るといろいろ感慨深い名前がある。

西武の坂元弥太郎投手(31)。浦和学院3年夏の甲子園1回戦・八幡商戦で大会タイ記録の19奪三振をマーク。これはTVで見ていて強烈な記憶がある。桐光の松井君の22に抜かれたが、あのスライダーを打てる高校生はいなかった。それでも、プロでは初登板初打者にホームランを打たれる(現カープ監督の野村謙二郎)。巨人戦で8回までノーヒットノーランだったのを元木にホームランを打たれて逃した。「極限ハイ」の打者がいたのである。彼は肩を壊した。無念だろう。

ヤクルト正田樹投手(32)。桐生第一で3年の夏の甲子園で全国制覇した。その大会で3完封した。99年ドラ1で日ハムに入団。確か同期のカープ河内(国学院久我山)とは同じ左腕だが、正田は剛球派ではなく柔らかいフォームからスピンのきいた伸びのある球を投げていた。一度西武ドーム3塁側で見たが、全盛期の小久保が高めを内野フライだった。日ハム退団後は台湾、米国、独立リーグを経てヤクルトに返り咲いた。

千葉ロッテ工藤 隆人外野手(32)。弘前実業では1年の夏に外野のレギュラーを獲得し、夏の甲子園に出場。それは海外にいたので見ていないが、プロ入り後の日ハム時代にすごくいい外野手だという印象がある。「いい」というのは、投手の眼で見て「いやな」ということだ。スレッジが来て日ハムを出された(巨人へ)のがついてなかったのか。それでもサブローと交換でロッテへ行ったのだからそういう評価はあったはず。

横浜DeNA牛田成樹投手(32)。徳島商業で夏の甲子園に出場、北海高校から13奪三振。卒業後は明大へ。プロ入りして初奪三振は阿部慎之介だ。たしか3年前に横浜スタジアムでカープ戦を3塁側から観戦したが栗原らを三者三振にとった球は僕が見た最も凄い速球の部類に属する。この年は52イニング投げて69奪三振であり、生涯(9年)で233イニングで277奪三振である。こんな資質の投手がこういう数字のまま戦力外というのはいったい何があったのだろうか。

プロの世界が厳しい、それは当たり前だ。そうではなく、怪我をせず、しかも「ハイ」な状態を続けるという条件が極めてナローパス(厳しい)なのだと思う。学生なら親からもらった資質だけでなんとかなるが、みんな生活と家族の幸せをかけてやっているプロでは性格や探究心や真面目さも資質の内なのではないだろうか。それは我々ビジネスの世界でも同じことだが。田中マー君はそれも含めた資質が他人より上だということなのかなという結論になりそうだ。

Categories:______プロ野球, 野球

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