Sonar Members Club No.1

since September 2012

権力は金なりである国家の品格

2014 JUL 2 1:01:11 am by 東 賢太郎

すごく若いころ、メキシコのテオティワカンという古代遺跡に行った。入り口の通路は10mぐらいのトンネル状のものが2本並んでいる。どっちが進入路、退出路ということもなく人が行き来していて何の気なく左側へ入って歩いて行った。すると急に真ん中あたりにいた警備員風の男がピピーと笛を吹いて通せんぼをし、何か不明の言葉でここはだめだあっち側へ回れ(たぶん)と指をさした。仕方なく入り口まで戻って、右側のトンネルを抜けて外に出た。ふりかえると、だめといわれた左側を人が平然と歩いてくる。

「おい、なんだ、あの野郎、日本人だと思ってなめてんじゃねえか」             「東、ちがうんだ。あいつな、要はやることないんだ。仕事のふりだよ。」          「うそつけ、やけに偉そうじゃないか」                               「あのな、こういう国はな、わけもなく権力をふるいたいんだよ。賄賂もらえるから。」

なるほど。そういえばインドネシアやベトナムでも同じようなことをいわれた。何事も賄賂次第だ。ODAなんかも半分は軍や役人の懐に入ってしまうんだと。公権力、イコール、お金なんだ。権力を持つと賄賂を取って財力がつく、するとその金で権力を買えるようになってますます財力がつく。中国の高官が何兆円(!)も貯めるのは、そういう加速度的な増殖原理でも利用しないと物理的に一代でできる金額ではない。あの警備員もそのうちトンネル通行税でも取って太ろうとしていたのかもしれない。メキシコの名誉のため、これは四半世紀も前の話だということは記しておかねばならないが。

先進法治国家では賄賂は収賄、贈賄として法によって処罰される。だから口利き料、キックバックなどに形を変える。裏金になってしまうが表に出す方法はある。マカオのカジノはそういう連中を客にするためジャンケットと呼ばれる営業マンを置いている。負けた金の4割ほどをスイス口座等に振り込むサービスがあるらしい。裏の10より表の4の方が価値があるという所で料率の相場が決まってくる。宝飾品で渡すという手もあるが指輪等は税関でひっかかるから時計を使う。ダイヤのついた5千万円のロレックスなんかを誰が買うのかと思ったら、賄賂でもらっておいてそれを何気なくはめて海外で6-7掛けで業者に売ると表になるそうだ。パチンコの景品交換みたいなものだ。

権力者がいちいち「場代」を取っては著しい不公平と非効率を生む。この場代と税金がどう違うかは非常に深い問題である。もちろん役人の懐に入るか国庫に入るかは決定的に違う。しかし国庫に入ったところで自分のして欲しいサービスにそれが使われる保証なんてない。そもそも歴史的には払う側にとっては、それがどっちであれ身と生活の安全が保障されるなら同じという時代も長くあった。公共サービスが身の安全保障だけではなくなった現代になって、サービスを行う行政府が配分を予算化して国会で国民の承認を得るというシステムは、それでも一応は民主的であり合理的でもあろう。

しかし最近いろいろな事件を見るにつけて、行政府に対する国民の目というのが予算承認までしか届かないのはどうかと思うようになってきた。予算さえ通ってしまえば役所のやり放題ということにならないかどうかだ。国家安全保障と外交。これは国家にしかできない専管事項だから政権のジャッジに従うしかない。民主党の事業仕分けのように予算の入口から断とうとしても何が不要不急かの判断は難しい。それよりも予算執行にあたっての監視機能を強化する方が現実的だと思う。例えば私見だが東アジア情勢からしてこれから防衛予算が増えるならそれはそれで仕方がないだろう。だからそれを監視する機能も必要だ。集団的自衛権は安保条約あっての概念で、独立国家に当然存在するものをなぜ容認するのか先日イギリス人に説明するのに苦労した。そういう性質のものであり、安倍政権には毀誉褒貶あることは承知の上で僕は現在のところまで特に大きな違和感を抱いていない。逆にあのまま野田政権が続いていたらと思うと、消去法的にではあるが是とする部分も多い。

安倍政権が信任を得たのはアベノミクスの第一の矢が成功を収めたからだ。アベノミクスというのは金融政策で始まった。それは自殺行為だという指摘は、それが財政均衡と経済成長に帰着しなければ通貨価値を犠牲にするだけだという意味においてなら正しいが、金融政策は所詮問題の先送りで無意味だという批判は理論的には一理あるが政策論としてはそう言い切れるものではないと思う。しかしその僕でもやや危険と感じるのは、政権(日銀ではなく)の量的緩和政策(QE)へのこだわりである。これはサブプライム問題を発端とする米国の金融危機への対症療法の劇薬であって(だから米国だって終焉させようとしている)、その傷が相対的に浅かった日本で別な目的で利用して副作用のない療法かどうか歴史的に検証を経たものではない。基軸通貨特権で通貨価値をマニピュレートできる米国だから許されるものであって、そうでない円がそれに耐えられるかどうか、米国のご指導で危険な実験をさせられているようにも見える。株式市場でも似たことをする目の粗い神経の人たちが本当にリスクをわかっているのかどうか不安になってきていることを指摘したい。

安倍政権の政策が米国型バイアスのあるものであることはQE以外にも散見される。生命科学、高度先端医療など科学技術イノベーション戦略へ予算投下して知的財産を輸出財としてゆく、またそこに女性登用を図るというのも米国的だ。第三の矢を従来型産業が牽引する時代でない以上そちらは法人減税で対処して、新成長分野に重点的に予算配分すること自体は正論だと思う。しかしそれが米国のようにうまくいくというのは文科省の予算取りのペーパー上の話だ。米国では産学共同研究等に資本投下するエンジェル投資家やベンチャーキャピタリストの資金が潤沢という土壌があるが我が国のそれは比較にもならないほど貧弱である。問題はお金の有無ではない。投資家は自分の出した資金の使途を厳しく監視するということが重要なポイントだ。一方、我が国は中小企業基盤整備機構が税金を赤字のバイオベンチャーに救済投資したりしている。間にファンドを噛ませているが、監視が米国並みに厳しいかどうか、それを監視するのは役人である。

和田秀樹氏の著書「医学部の大罪」によると、大学医学部は3つの機能である臨床、研究、教育のどれにおいても二流であり、それどころか、医学・医療の進歩の最大の抵抗勢力となっていることが書かれている。それは医局のボスである教授に権力と金が集まるシステムが原因だそうである。権力イコール金。何のことはない開発途上国なみの不公平と非効率がまかり通っているように見える。STAP問題は論文捏造問題と理研特定国立研究開発法人指定問題が合成された複合事件だと思っている。国家的やらせである。医局のボスの役割を理研で誰が占めるか、それに文科省の天下りポストをどうかぶせるか。CDB解体はそのプロセスの一環に吸収されれば痛くもかゆくもなく、国民にはいい目くらましだろう。ボス候補に都合のいい笹井氏が失脚すれば専門家でない天下りの居場所もなくなるから小保方再現実験が11月まで必要になる。彼女が望んでいるかどうかなどの問題ではない。秋の臨時国会まで彼を逃がす時間稼ぎとあわよくばの国民の同情票による目くらましのためである。安倍内閣はSTAP問題幕引きを間違うと政権ごとリスクを負うと指摘する外国の友人がいる。

同じ友人はこういうことが平気で行われてしまう国で米国型の外形を取った一見もっともらしい政策を導入するのは危険であるとも指摘する。ハーバードのバカンティのように日本人にリスクだけ取らせてゼロ・コスト・オプションをせしめようとする者も出てくる。米国のヘッジファンドは獲物を狙うワニのように冷静に日本国債の空売りタイミングを待っている。QEの度が過ぎて円が売られ国債が下がったら国民は大変な国難に巻き込まれるリスクがあるとも指摘している。こういうことをウォッチするのが国会だがだめだ。レンホーのSTAP問題追及などまったく見当はずれで彼女は汚名挽回を逸機した。国債のリスクを正確に理解、察知できるほど証券市場に精通した国会議員はほとんどいないだろう。

日本国民が総体としてこういうことを見過ごすほど鈍感だとは思わない。権力イコール金という図式を温存して利権取得を図る者は古代から世界のどこにでもいるのであって、今の日本だけが腐っているわけでもない。大事なのは、予算が通れば役所のやり放題という状態をチェックするのが役所であり、公務員は性善説なのか犯罪は贈収賄以外は想定されていないようにも見える現状である。しかし国民が市民オンブズマンを組織すれば済むかというと、その機能はあったほうが無難であるとは思うもののそれをまた悪用する者が出ることもある。つまるところ制度を制度で繕うパッチワークには限界があるということだろう。

最後によりどころになるのは国民の常識だと思う。世界40か国を訪問し5か国に赴任歴のある僕として、我が国は、少なくともある一定数の国民はそれができる国であると信じる。開発国並みの権力と金の構図や不届きな論文詐欺のようなものは、構図の利害関係者である行政府やマスコミがどうこうする前に国民が世論として断罪すべきなのであって、古代からのどの時代とも違って、ネット社会の住人である我々は行政でも司法でもなく何の権力もないにもかかわらずそれができるという強力な武器が与えられている。僕の投稿したあるタイトルのブログは今現在22,669人が読んでいる。これは権力ではないから金に結びつくこともない。結びつきたいのはただ一つ、品格だ。実名投稿だから間違えば自分も断罪される。そういう緊張感の中で微力でも国の品格に資するようなこと。ネット発信者に求められるのも品格なのだと思う。

 

お知らせ

Yahoo、Googleからお入りの皆様。

ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/
をクリックして下さい。

 

 

 

 

 

Categories:______世相に思う, 徒然に, 政治に思うこと, 若者に教えたいこと

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

ライフLife Documentary_banner
加地卓
金巻芳俊