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クラシック徒然草-ブーが飛ばない国-

2014 NOV 1 2:02:18 am by 東 賢太郎

阪神ファンには悔しい結果でしたが、野球としては昨日の日本シリーズ最終戦は本当に素晴らしいゲームでした。幕切れがああはなりましたが、西岡も命がけでセーフになりたいという結果です。特別な試合ということを割り引いても、TVでも手に汗握るあんな鬼気迫る一戦はそうはありません。人間何事も懸命な姿は人の心を打ちます。

だいぶ前ですが日経新聞のコラムで元西鉄ライオンズの豊田氏が、バント成功で「いい仕事できてよかったです」と選手がいうのはおかしいだろ、と書いてました。オリンピックや甲子園でそんなこと言うか?懸命にやってんなら「お仕事」はねえだろというニュアンスで。まったく同感ですね。昨日はバントひとつ四球ひとつに魂がこもってました。スポーツの命がけとはああいうもんです。

相撲にはガチンコという言葉があり人情相撲というのもある。八百長ではないが命がけとそうじゃない取り組みがあるということを暗に意味しているのです。同様に野球も時々「野球ショー」みたいな試合があってがっくりきます。個人タイトルがかかると欠場させたり、そんな芸能みたいな試合をカネを払って誰が見るだろう?あれじゃあ人気が落ちても文句は言えんでしょう。

そういうことは音楽演奏にも感じます。

ピアノ・リサイタルや室内楽は個人技だからまだいいのですが、オーケストラというのが曲者で「お仕事」の無気力演奏が頻出します。誰もハナっからそうするつもりはないんでしょうが、指揮者がボケだったりどこかがうまくいかなかったり集団としてなんとなくノリが悪かったりして、俺だけじゃどうにもならんがなという空気がでてきて、まっ、お仕事だけはせんとなって感じで終わってしまう。大過なく曲なりに盛り上がってシャンシャン。

もう何回ブーを飛ばして野次り倒してやろうか思ったか知れません。日本だけじゃない、世界のトップオケでも時々あるんです、そういうのが。ところがプロですからね、別に技術に破綻はないです。だから曲の盛り上がりにだまされてそんなものにご丁寧にブラボーまで飛んでしまったりする。専門のブラボー屋でも雇われてるかと思ってしまいます。

コンクールはともかく音楽会で「勝てば優勝」みたいな命がけプレッシャーはありません。スポーツとはちがうので難しい。だからブーイングというペナルティぐらいはあるべきなんじゃないでしょうか。何でも間違えずにそこそこ弾けばブラボー?こっちもあほらしいが本物の演奏家もそれじゃ育ちませんね。

だいぶ前に某著名フランス料理店の東京店がオープンして、僕はスイス時代にパリ本店のファンだったのでさっそく行ってみました。それが値がものすごく張るくせに料理は実にフツーでして、バカヤローってなもんです。それが後日に評判をきいてみると皆さん行って感動してるんですね。名前負けというか、高いけど仕方ないねって・・・。こういうのにこそブーが必要なんですね。

西洋音楽なんだから西洋で勉強しないとというのは、した方がベターでしょうが本質ではないと思います。ここでの意味で西洋でない米国で勉強して西洋で活躍してる人はいくらもいるし、スズキメソッドみたいに西洋に取り入れられた日本の教育だってあります。問題は勉強じゃなく、西洋の厳しい聴衆の面前でやってブーの脅威とプレッシャーに晒されないとダメということではないでしょうか。勉強は所詮ネタの仕入れです。ネタが良くたって客が満足しなきゃ何の意味もなしでしょう。

ブーは周囲の感動に水をぶっかける可能性があります。だから飛ばす方も体を張ってます。それは聴衆と演奏家が丁々発止に火花を飛ばしているという証です。忘れもしませんが昔行ったローマ歌劇場で強烈なブーの嵐になって、歌が特に下手だったわけでもないので何がいけなかったかわからなかったのですが、野次られた歌手の方も堂々と受けて立っているのを見て、こいつらすげえなあ肉食獣だなあと思ったものです。ああやって鍛えられるんですね。

しかし、こういうことが起きない優しい草食文化の日本では、その指揮者やオケの演奏会はもう行かないというサイレントな意思表示しかありません。それが一番怖いんですが。特に外国演奏家は、ちょっとどうかなと思っても敬意とお義理をこめて割れんばかりの拍手を送るのが我が国聴衆のしきたりであります。まあ一種のおもてなし精神ですね。高いカネ払ってるほうなのに、これぞあのフランス飯屋と同じ現象なのであります。

だから某日本人ピアニストの名曲演奏会みたいなのを聴いているうちにソムリエを思い出したんです。今日はとっておきのボルドーを5本ご用意しました、なんて。ソムリエだからワインの味を変えることがない。フランスの先生に習ったとおり。それなら名人であらせられる先生のを聴きたいしCDも持っている。いったいあなたは何ができるの?という気持ちになってしまう。厳しい事を言うようですが、ブーが飛ばない国でぬるま湯につかっていてもせっかくの才能がもったいないと思うのです。

外人指揮者で日本の聴衆を悪く言った人はほとんどいません。当然です。最高にいい客ですよね。クラシック音楽なんか誰一人わかってないとボロカスに言って日本はもう行かないと明言したのはミヒャエル・ギーレンぐらいです。あっぱれです。こういう人好きですね。試合でケガした選手を「ライオンに追われたウサギが肉離れになるか?」と静かに罵倒したサッカーのイビチャ・オシム全日本監督を思い出します。

相撲や歌舞伎ほどクラシック音楽は客が育ってません。輸入もんだから仕方ないですが、相撲と一緒で横綱がだらしなければ座布団投げる、そういう感じで聴けばいいと僕は思ってます。聴き方にマストはないですから好きなものを好きに聴いて好きなことを語ればいい。それでだんだん「横綱相撲」がどういうものかわかってきますが、横綱じゃなくても十両だっていい相撲はあります。それこそが、命がけでやった手に汗握る鬼気迫る一戦です。

一流の演奏家でなくても有名な録音でなくても、そういう演奏はあります。単純に素直に心を開いて音楽を聴いていれば、それは誰にも子供にもわかるものです。人間のパフォーマンスだから正直で、ワインテースティングみたいな知識がなくてもわかります。なるべく録音でそういうものをご紹介するつもりですが、やはり眼で見た方がわかりやすいのでどんどんコンサート会場で実演に接することをお薦めいたします。

 

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