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レーゼルとゲヴァントハウス弦楽四重奏団を聴く

2014 NOV 9 1:01:58 am by 東 賢太郎

あまりに魅力的なので抗い難い。こういうのを英語でirresistibleというが、このコンサートのプログラムはまさにそれ。

メンデルスゾーン弦楽四重奏曲第6番ヘ短調op.80

シューベルト弦楽四重奏曲第12番ハ短調「四重奏断章」D703

ブラームスピアノ五重奏曲ヘ短調op.34

(ピアノ:ペーター・レーゼル、紀尾井ホール)

調性の並びもいい。しかもカルテットはベートーベンでいい録音をしているゲヴァントハウス弦楽四重奏団。

このカルテットは世界最古の弦楽四重奏団であり、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の主要メンバーで構成される。クララ・シューマンやブラームスらと共演し、メンバーであったF.ダヴィッドはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の初演し、J. ヨアヒムは、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を初演している。

当然人は入れ替わっているがカルテットの多くはそういう場合解散してしまい、最近も好きだった東京カルテットのようにメンバーは入れ替わっても名前だけは継承されてきた団体がついになくなった。これのように205年も存続するのは稀であり、独墺系のレパートリーは彼らにとって歌舞伎のような伝統芸になっているかもしれない。一度ライブを聴いてみたかった。

メンデルスゾーンの作品80は姉のファニーが1847年5月に急逝というショックの中で書かれ、9月に完成、10月に自邸で私演、そして自身も11月4日に急逝という重たいものを背負った曲。もうここには真夏の夜の夢を書いた彼はかけらもおらず、全曲にわたって沈鬱な激情とテンションがみなぎった弦楽四重奏曲の傑作で、僕の愛好曲である。

冒頭、チェロのトレモロから入るが、ユルンヤーコブ・ティムの音の素晴らしさにいきなり圧倒される。一応チェロを触った者として羨望を抱くしかない音!この楽器は何だろう?厚みある倍音、滑らかな発音、ppでも浸透力のある音、ふくよかによく通るピッチカート、もちろん音程の良さも相まって奏者ティムの腕あってのものだが・・・。

ヴィオラも同質の音であり中音域が和声に独特のふくらみを持たせ、第2楽章の中音域はききものだった。アダージョでヴィオラと第2ヴァイオリンで造るアルト、テノールのロマン的な内声の動きも美しく、第1ヴァイオリンが協奏曲のような激しい動きを見せる終楽章も見事。それにしてもがっちりと和声を支えるチェロが効いていた。

シューベルトのハ短調は弦楽四重奏の「未完成」に他ならない。僕はこれが大好きで、こんな素晴らしい第1楽章をどうして放り出したのか??気になってならない。これを探り出すと未完成交響曲と同じことになってしまう。これも不安げな弦のキザミで始まる。

2番目の主題の高音での繰り返しでハーモニーを作るチェロの高音の美しさ!この曲には未完成交響曲も最後のハ長調交響曲の第2楽章も聴こえる。無い物ねだりしても仕方ないが、完成していたら大変な傑作になったろうに。ここもティムのチェロの音、音程の良さに耳がくぎづけになった。

最後はレーゼルが登場してブラームスだ。この曲の第1楽章は交響曲第1番を用意している。終楽章の長い序奏もそうだ。ピアノの書法はピアノ協奏曲第2番も。もともと弦楽五重奏で発想され、批判を受けて2台ピアノ版にしたが再度改作されて現行のものになった曲だが、そういう感じはしない。

演奏はレーゼルのピアノと弦のバランスが良く、安定感の中からじわじわと熱くなる音楽は見事。なんていい曲だろう。これぞブラームスという言葉しかない素晴らしいブラームスを楽しめた(アンコールは第3楽章であった)。たまたま前回テツラフ・カルテットを聴いたのと同じ1階4列目左端の席だったが室内楽にはふさわしい音である。これぞ音楽の喜びという夕べであった。

 

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Categories:______演奏会の感想, クラシック音楽

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