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ネルロ・サンティ指揮N響をきく(11月22日Cプロ)

2014 NOV 22 22:22:15 pm by 東 賢太郎

以前ブログに、曲が良ければ演奏者は誰でもよいと書いた。今日はそのメッセージを撤回しなくてはいけないかなと思っている。最近仕事でつかれ気味で今日も居眠りしなければいいなと心配したが、1時間の昼寝が効いてコンディションはOK、冴えた頭でじっくりときかせていただいた。

ロッシーニ歌劇「どろぼうかささぎ」序曲                             ベルリオーズ序曲「ローマの謝肉祭」作品9                            チャイコフスキー「イタリア奇想曲」作品45                            レスピーギ交響詩「ローマの松」

というプログラム。サンティは国内外で何回も感銘を受け、2009年にN響とやったラ・ボエームはあまりにすばらしく2日とも聴いてしまった。そして1996年チューリヒ歌劇場でのラ・ボエームでのことは忘れられない。 プッチーニ 「ラ・ボエーム」 第1幕の絶不調のテノールを指揮台のすぐ後ろの席で(けっこう大声で)罵倒したら振り返ったサンティさんにおっかない顔で睨みつけられてしまった。

しかしそのあとのオーケストラ・パートの素晴らしさといったら!もうヘボのロドルフォのことなどすっかり忘れてピットの中を夢見心地で覗き込んでいた。

そして、今日のN響の第1ヴァイオリンの音の良さはいったい何なんだろう?コンマスはサンティが連れてきたのだろう、チューリヒ歌劇場コンマスの岡崎慶輔であり、いつもとは全然違う、圧倒的にグレードの高い格別の音が鳴った。ヨーロッパの一流オケに遜色ない見事な音だ。普段とのあまりの差に呆然とするばかり。

岡崎は1曲ずつ、計4回のチューニングを、まず管、そして弦と入念に行った。ピッチの完璧な良い音を届けようというプロの良心があれば当たり前のことだと思うのだが、どれだけのオケがそれを励行しているか。ヴァイオリンのピッチのずれというのは、非常に微細なものであっても音色に大きく影響していると僕は思う。

そしてヴァイオリンがきたない、特に高音のトゥッティが微細に歪むオケなど僕は聴くに値もしないと断言したい。それは指揮者の耳の良し悪しでもあるがコンマスの良心でもあろう。そしてそれにヴィヴィッドに反応して評価する聴衆の問題でもある。味がわからない客ばかりであれば本気で腕を磨こう、振るおうという料理人も出てこない。

とにかく今日は1曲目のロッシーニから岡崎の率いる弦が全セクションのクオリティを規定してしまい、耳をそばだてて聴くしかない空気が客席を覆い尽くした。こんなことは過去何回もない。いつも聴いているヴァイオリン群、あのひどい音は何なんだ。彼をコンマスにして大幅入れ替えをやったらワールドクラスになるのに。

そして指揮だ。あわてず騒がず盛り上げの疾走もしないロッシーニがずっしりと腹に応えるごちそうになる。「ローマの謝肉祭」の管の色彩感がラテンを感じさせる。「イタリア奇想曲」のいささか安っぽい旋律も浮かない(この曲をこんなに真面目に聴いたのは人生初めてだ)。

ローマの松も極彩色のタペストリーではない。じっくりと曲想を掘り下げ、スコアから音楽のエッセンスを紡ぎだす趣の演奏であった。この曲に僕が何を求めるかはこちらをご覧いただきたいが、( レスピーギ 交響詩「ローマの松」)納得感の高いアプローチであり満足した。

ジャニコロの松のクラリネットの弱音はたいへん美しかった。印象派風のパッセージと和声変化をあまりあざとく印象派風に響かせない趣味の良さも大賛成。明晰なイタリアンと評するより霞の向こうのR・シュトラウスという風情。不満は鳥のピヨピヨがやや大きかったかなというぐらい。

だが辛口の言になるが、オケの方はオーボエソロの入りのテンポや、ブラスがワールドクラスにはきき劣りするなどいろいろ微細なところでの技術や集中力が気になってしまう。この曲はあらゆる管弦楽曲の中で最も大きな音のする曲のひとつだが、全力の全奏にそういう事が出てしまう。フィラデルフィア管弦楽団でこれを聴いてしまうともうどうしようもない。日本対ブラジルのサッカーぐらいの差である。

サンティさんのような耳の良い方がこのオケを「世界の一流オーケストラの一つ」(プログラム)と言ったというのは本心かなと思う。それならコンマスを連れてこないのではないか。お世辞に浮かれるのでなく、真の世界水準の楽団が必要だと切に思う。そして今日のレベルの演奏を青少年に聴かせれば、クラシックの未来は充分明るいものになるであろう。演奏家の良し悪しは、やっぱり大きな要素なのだと得心した次第。

 

(こちらをどうぞ)

レスピーギ 交響詩「ローマの松」

 

 

 

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Categories:______イタリア音楽, ______演奏会の感想, クラシック音楽

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