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忘年会は台風一過である(「吉田栄作Acoustic Night Vol.V」をきく)

2014 DEC 20 16:16:06 pm by 東 賢太郎

忘年会とは不思議なシステムである。ぱあっと食べて飲んで騒いでというなら西洋のクリスマスも似たところがある。だが、あちらはお正月は何もしないのにこちらは3日も休んで新年を祝うのだから、忘年会はその名のとおり終わった年を忘れるものなのだ。

西洋に住んでいて思ったのは、クリスマスもそうだがイースター(謝肉祭)やサンクスギヴィングデイ(感謝祭)のような宗教色のある行事が国民的に大事であり、ニューイヤーズデイ(元旦)というのは扱いがずいぶん軽いということだ。我が国では宗教行事でのお盆と並ぶ最大行事であるお正月なのに西洋ではカウントダウンで盛り上がる程度の単なる天文現象といった感じであり、夏至や冬至なみの軽さしかない。

では、そんなに大事なお正月の前哨戦である忘年会とは何なんだろう?wikipediaには「宗教的意味付けや特定行事様式の無い日本の風俗の一種である」とある。風俗?とすると民族的俗習ということか。しかし「一種」なのだそうだ。とするとフーゾクなんかとも親類関係になるのだろうか?さっぱり意味が分からない。

これも西洋にいて思ったことだが、和辻哲郎の「風土」流にいえば、我が国には「台風一過気質」とでもいうものがある。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」メンタリティーでもいいが、なんといっても「台風一過」だ。最近は「台風一家」と書く子もいるらしいがそうではない。「台風が去った後の雲一つないすがすがしい青空」のことだ。「after a sorm」のたったひとことで一律に「晴天」の意味になってしまうことは、西洋語ではない。

北海道を除けば、我々台風に何日か堪えることを余儀なくされる民族だ。強い風雨の恐怖に震え、時には家に閉じこもり、ひたすら耐える。数日たつと必ずそれは去り、うそのような青空に恵まれる。これを2千年もくりかえして出来たことばが台風一過だ。「誰だって耐えれば天のご褒美がもらえる」という万民共通の法則化していると思われる。

まあともかく、今年もみんな1年我慢して耐えてきたんだから終わりの時ぐらいはお互いに忘れっこ許しっこしようよ、「としわすれ」はそういうことことだろう。そうやって酒宴をやってみそぎをしてから神事である元旦を迎える。そう考えると我が国なりに筋の通った風俗には違いない。「まあまあ、ご両人、これでさっぱりと水に流して・・・」の水に流すという表現も大雨で水が流れる「台風一過気質」の一部であると解釈している。

僕は「としわすれ」したいと思ったことはない。忘れたいことはたくさんあったが、何も年末にまとめて忘れることもない。それでもサラリーマン身分だったから忘年会はたくさんやって、ある意味プロである。組織の長になるとそれは一種の神事でもある。飲むのは嫌いでないから楽しんでもいた。だからいざ始まってしまうと年を忘れる以前にその飲み会がなんであったか忘れることになる。

しかしサラリーマンを卒業してからというもの、それは神事の域を超越してきている。この木曜日は恒例のSMC忘年会だったが、毎日会っている同僚とはわけが違うから新鮮である。今年は新顔のSさんのご参加もあった。このクラブがどうなっていくか、誰もわからないがそれはメンバー次第だし時の為すがままだ。忘れたいものはみなさんまちまちだったようだがそれなりに盛り上がり、7名のうちお酒が最弱であるゆえしゃぶしゃぶが出てくるころ以降のことをむしろ忘れる事態になっていた。

昨日金曜日はさらに大変であった。知己Mさんの忘年会で、まず、そういうものをきこうとは夢にも思っていなかった「吉田栄作Acoustic Night Vol.V」を観に表参道GROUNDに行く。これは渡辺エンターテインメントの地下にある小ホールだ。ちなみに、あえてMさんを知己と書くには理由がある。友人はおこがましいし、お客様ならこっちが接待するのが筋なのになぜか僕が招待されているからだ。今年はそんなに仕事でお役にたったという自覚もないしちょっと申しわけなかった。

Mさんが俳優吉田栄作ご贔屓筋なのは映画「山本五十六」収録以来だ。昨日はこっちが途中で出てきてしまったがよく銀座へ連れだして飲んでおられる。しかし健さん世代の僕はそんな新しいのは知らなくて顔ぐらい見とこうと劇場前でネットで調べたぐらい。でも前座の2人から歌はうまかったしライブは面白かった。

150人ぐらいのスペースは満員で立ち見もいっぱいだった。生の歌をきくのはなかなかいい。アコースティックギターの音もいい、あれは弾いてみたいとさえ思った。まわりはほぼ娘ぐらいの若い女の子ばかりだ。異次元世界である。ここから午前様になるまでもったいなくもずっとそういう状態だったが、なんとなく気持ちが元気になるのは不思議なものだ。そんなのはほかには屋久杉とネコぐらいのもんだ。

そこから六本木で本チャンがはじまり忘年会の宴はたけなわになる。吉田栄作は歌も歌うんだね、なんてクラブの子にきいたら吉田栄作って誰ですかときた。そうか、そっちは若すぎて知らないのかと多方面の勉強になったりもする。やがて終電がなくなる。これは想定内だ。ところがなんとタクシーもなくなっていた。そうか、この木金は忘年会のピークなのか。昔は銀座で2時まで飲むとこうなった。タクの戻り待ちで3時4時というのが何度もあったっけ。でもこんなことは最近とんとない。

そこで当然のごとくもう一軒となる。たぶん、もう一軒だけだった、今回は。既に意識はほぼない。よって記憶はない。帰りのタクシーで空がうっすらと白んできて、早朝のジョギングのおじさんを見て「こういうの、私らも何年ぶりですかね・・・」と運ちゃんがなつかしそうにつぶやいたぐらいだ覚えてるのは。アベノミクスはまだ道半ばなのか・・・。

忘年会というのは僕の場合いつも忘宴会になる。

 

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