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マーラー 交響曲第3番ニ短調

2015 JUN 8 0:00:37 am by 東 賢太郎

先週、本当に久しぶりにライブでマーラーの3番をききながらあのテンシュテットを思い出した。なにせ3番はコンサートホールではあれ以来一度も聴いていないのだから・・・。

何度も書いたことだが、世界のクラシック好きで僕ぐらいマーラーがだめな人間も少ないだろう。退屈で聞かないんじゃない、はっきりだめなのだ。それも生理的に我慢の限界に近いといったほうがいい。

マーラーの交響曲はどれも純粋な絶対音楽ではなく何らかの人間くさい主張があると思う。それが何かははっきりはしていないが。ということはそれが彼に大曲を書かせた何かだと思うのが常識だろう。しかし、それってそんなに大事なことなの?という感じが常にしてしまうのだ。僕にはついていけない。

これは人間性や人生観の相違だ、どうしようもない。テンシュテットは「マーラーは遅くにやって来た」と語っており、中年になって共感を初めて得たらしい。マーラーが1時間半かけないと語れない「何か」が大事に思えるようになる年齢があるのかもしれないが、還暦になってまだその訪問がない僕にはきっと縁がないものなんだろうと想像する。

さらに僕は閉所恐怖症なので、狭いところに閉じ込められて耐えるのが難しくなることがある。だから飛行機も床屋も苦手だ。あの日も実は途中で退席しなくてはならないかもしれないと危惧したが、幸い端から3つ目の席だったのでそこは安心した。

こういうことだからそもそもマーラーを聞きに行くなんて異例だ。たぶん4、5年前にN響がやったデュトワの8番以来だろう。もちろんそれも知らずにホールに行ってみて、あっそうだったのかということで遭遇しただけだが。

テンシュテットの3番は2回聴いている。記録を見ると1回目はフィラデルフィア管で82年の11月5日だったが、MBA1年目で勉強が忙しい時期だったせいか何も覚えていない。

そして2回目が29年前のことだ。こちらは違う。この時ほど芯からうちのめされてコンサートから帰った記憶はそうはない。ロンドンに着任してまだ2年目のことだったしマーラーを聴く機会はほかにもあったわけで、あれだけが僕の中で今も暖かい光を放つ残像となっているのはすこし意外なことだ。

これが僕が聴いたそのコンサートの録音だ(第5楽章)。

このコンサートに衝撃を受けて3番に関心を持ったのはもちろんで、すぐにいろいろ聴いたはずだ。はずというのは誰のかあんまり覚えてないからで、それでもそう思うのは昨日それを耳にしながら随分と音楽の先々がちゃんと頭に浮かんできてあれれと思ったからだ。
mahler3

 

もしやと思って本棚を探すと、ちゃんとあった。けっこう厚めのポケットスコアだ。でもあんまり開いた形跡がないし書き込みなどもしてない。表紙の11.40(ポンド)でこれはロンドンのトッテナムコート・ロードにあるFoylsで買ったことがわかる。テンシュテットを聴く前ということは絶対にないからまだコンサートの熱の冷めてない86年の暮れあたりのことだったろう。

 

mah3LP棚を探してみるとこれがあるだけ。だから大学時代は聴いてないし、LPを最後に買ったのはロンドンだから、やはり86-7年あたりだったろう。チャールズ・アドラーがウィーン交響楽団を振って52年3月27日に録音したものだ。これは覚えている。値段が安くてラッキーと思って買ったがモノラルで音が貧しくてがっくりしたのだ。ハルモ二ア・ムンディ(フランス盤)だから解説が読めないし、なんでCDが出る時代にこんな音のが売られてるんだと思って1回しか通針してないんじゃないか(だから安かったんだ、価格原理でしたね)。ところがさっき調べるとアドラーはマーラーの直弟子で、これは3番の初録音かどうかとにかく最初期のひとつで希少のようだ。そう思うと音はそう悪くはないと思えるんだからそういう印象や判断というのは実に主観的なものだ。これはすこし聴き込んでみるのもいいかもしれないと思う。

これがそのアドラー盤の最後のところだ。

MI0001046374ということで、ロンドンでしばらくはこれに落ち着いていた。ただし、これと5番はその頃にCDという新メディアが出てきて初めて買ったもののひとつで、購入動機は録音が良かったから。デモCDとして聴いていたようなものだから次々といろんなものを買っていくうちに存在価値が薄れてきたようだ。最初のホルンのユニゾンに打楽器が絡むところのかっこよさはしびれたが、そこからやおら音楽がわからなくなって降参だった。

MI0001031542CD棚にこれがあったのでさっき聴いてみた。ヴァ-ツラフ・ノイマン指揮のチェコ・フィルハーモニー盤、こりゃあたしかチューリヒ時代にロンドンのショップからメールオーダーで買ったものだ。全く忘れてたが、滋味あふれる高雅な音だ。このオケとウィーン・フィルとコンセルトヘボウ管、どれも管の音程がどうしてこんなにいいんだろう?周波数測定してみたくなるぐらい。演奏は実にあっさり系だ。速い部分でのオケのクリアな早口言葉的発音も小気味良し。クリスタ・ルートヴィッヒのO Mensch! はヴィヴラートが大きすぎて好みでないが、この楽章の彼岸の境地は魅力を感じる。これでマーラーが好きになるとは思わないが、僕にとっては浸っていて心を幸福で満たし頭をすっきり快調にしてくれる演奏だ。

その第3楽章である。

さて、結局のところ、こうして振り返るとマーラーとはこうしてニアミスを重ねながらもちっとも親しくはなれなかったわけだ。テンシュテットの3番は、その後に聴いたどの3番の録音より記憶に残っているというのはあの演奏の力だったと考えることになろう。しかし、音楽にないものが演奏家の努力で出てくることはないのだから、3番のスコアにその源が隠されているはずでもある。こういう経験をした音楽はまたとなく、ちょっと気になる交響曲である。

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Categories:______マーラー, クラシック音楽

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