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シューマン交響曲第3番の聴き比べ(2)

2017 JAN 17 1:01:58 am by 東 賢太郎

オットー・クレンペラー / ニューフィルハーモニア管弦楽団

200x200_P2_G1606500W古老がゆったり人生を回顧するように、されど雄大なスケールで開始します。第2主題に悲しい陰りがありメンデルスゾーンのスコットランドを思い出す、これは本当にユニークな表現で敬服です。第2ヴァイオリン、ビオラの内声部が生き、木管も意味深い。ホルンはここではライン河畔の古城を強く想起させます。コーダは一切の加速なし、そんな小技には目もくれない大人の芸格ですね。第2楽章もダンスには遅く中間部は愁いを帯びる。第3楽章は情緒綿々たる真にシューマネスクな世界です。第4楽章は一転して峻厳なバッハの宗教世界。そして死のにおいのするそこから人間界の生の喜びに回帰する終楽章。ここも人生急がず一歩ずつでこんな遅いのはめずらしい、僕はもっと速くしたいがクレンペラーなりのユニークの極み。極く少し速くなるコーダに至り、そこからまた減速してどっしりと終る。このスコアはこうも読めるのかという印象です。

 

カール・シューリヒト / シュトゥットガルト放送交響楽団

11_1101_01冒頭からいきなり弦がなよなよのヴィヴラート、レガート、ポルタメント攻めで絶句です。実に薄気味が悪い。マーラーより対旋律の楽器を増やしてそっちの方が目立って奇異な音が鳴るというのは、もういったい何が始まったんだというレベル。コーダの加速にヴァイオリンのオクターヴ上昇など怒りすら覚えます。しかしそんなのは序の口。第3楽章の木管への楽譜の漫画的改変はひどい、なんだこりゃディズニーか?第4楽章、最後の厳粛な和音に能天気な弦をかぶせるなんてシューマンの意図台無し、勘弁してくれよですね。終楽章はいいテンポで始まったと思ったら弦のままのはずが突如木管に切り替わり、悪いジョークかと笑うしかない。ストコフスキーも改悪と言われましたが、こんな珍妙で下品なのはない、まさに空前絶後である。シューリヒトは敬愛する指揮者ですが、彼にしてラインはこんなゲテモノになってしまう。いかに特殊な、特別な音楽かということが逆にお分かりになっていただけると思います。

 

アルトゥーロ・トスカニーニ / NBC交響楽団(1949年)

783開始のテンポは堂々たるものですがトゥッティのオケが乾いた音でシューマン的とはほど遠いです。トスカニーニのカンタービレの技が生きないしピッチもNBCにしては甘い。そういう曲ではないのですね。コーダを加速しないのはさすがですが、オーケストレーションも耳慣れない楽器バランスがありどうもひたれません。第4楽章は暗めの音で雰囲気をつかんでいますが金管のフォルテはやはり外面的に響きます。終楽章の弦はNBCと思えぬほどがさつ。指揮者の共感がないんでしょう、コーダの金管の合いの手も下品であり、加速こそないがどうしてこれを振ったのか不可思議であるかなりずれた演奏ですね。

 

フランツ・コンヴィチュニー / ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

706 LGOの弦は4番ニ短調では良く鳴ってますが変ホ長調のこれはくすんでます。ドイツのホルンの古色蒼然の音色がまたそれに合っていて、ティンパニも響かず、全体にどことなくヌケの悪いのがこの曲調にはいいんです。そして、何といってもテコでも動かないテンポ。これですよ、コーダはこうでなきゃ。第2楽章も朴訥な農民のダンスです。第3楽章の暖かみあるクラリネットも昔の風情。第4楽章は暗い森の中のような色調。終楽章もあか抜けない田舎の村の集いの風情で、たぶんシューマンが指揮してもこうなるんだろうと連想します。彼は田園交響曲を書いたんです。再現部まで来ると音楽が暖まってきます、そしてコーダは少しだけ快活なテンポになりますがそのまま終わる。これですね。

 

ディミトリ・ミトロプーロス / ミネアポリス交響楽団

R-7955764-1452373254-5198.jpeg「耳の化け物」の興味深い録音です。やや遅めの出だしで第2主題は大きく減速。ロマンティックな表現です。展開部前のパウゼ、デクレッシェンドはユニーク。コーダの減速!はすごいですねえ、しかし悪い印象はなしです。第2楽章の加速、なるほどこれはスケルツォだったんだ、驚きますが見識です。こうなると音は悪いがきいてしまう。第3楽章もテンポは絶え間なく伸縮。終楽章はやや速めですがいい。恣意的のようですべてが手の内にはいった自在さで名人芸ですね。

 

パーヴォ・ヤルヴィ / NHK交響楽団(2005年6月11日)

これはいい演奏です。この演奏会はNHKホールにて聴いておりました。基本的に動かず盤石な全曲のテンポ設計、弦のくっきりしたフレージング、デリカシー、金管のリズムの嬉しげなはずみ、どれも一級品。指揮者が音楽に共感しないとこうはいかないだろうという場面が連続です。オケの音もいつもより暖色系でシューマンにはまことに良し。終楽章のコーダ前に速度を落として見えを切ってから加速するアプローチだけがリザベーションで当日も失望したのを覚えています。そんなことをしなくても曲がいいのだからと思います。

(こちらへどうぞ)

シューマン交響曲第3番の聴き比べ(3)

 

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