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人間ドックはワンダーランドである

2017 NOV 7 1:01:53 am by 東 賢太郎

人間ドックというのは不思議なところだ。問題はありませんという答えを待っていて、期待どおりそういわれると高い金を払って損した気分になる。今年は夏休みもなく心配なぐらい疲労感があったが、結果は「体重を落としましょう」だけだ。先生こんなこともあるんだけど、いえ全然心配ないです、で、前回は2年前ですね・・・それを何とも思ってなかったほうが問題なのか。

周囲を見ていると面白い。来ているのは例外なく、病気かもしれないがきっと病気ではないだろうと思って今日までは来ていて、そう思ってる自分を疑っている健全な猜疑心を持った人たちだ。年齢はほぼ40代以上。6割ぐらいが男性で、女性より高齢者比が多い。7割はスマホ、残りはほぼテレビを見ており、自分の本が数名、新聞はスポーツ紙を数名、2年前は取りあいだった最新の雑誌は余っている。こんなところにも世相が見える。

今回、かつてなかった妙な感じに気がついた。僕は手術も入院も経験がない。両親の看病で病院通いは多かったが、お見舞い人というのは病院にとっては来なくてもいい、長居すると迷惑なお客さんだ。それが人間ドックでひとたびガウンを着ると、とりあえずなんちゃっての主役である。担当の女性アテンダントなぞがくっついて、かいがいしく万事やってくれる。うん、ぶっ倒れて患者になっちまうのも悪くないかな、なんてあらぬ気分になってしまった。

僕は採血が大の苦手である。横を向いて体がこわばってるので、たいてい看護師さんが注射針を構えたまんま「大丈夫ですか」と心配する。大丈夫じゃないよ、見てないうちに早くやってよ!というのがお決まりだ。やれやれ、やっと終わってロビーの椅子に座ってると、きっと顔が青い。するとアテンダントがご気分悪くありませんかとくる。良くはないと答える。いままではこういうのが煩わしいと思っていたけれど、今回は妙にありがたかったりするのも不思議なものだ。

先生に問題ありませんといわれてもそれは人間にとって乗り物であるカラダのほうの話であって、のっかっているココロのほうはデータに出ない。その妙な感じというのは、ひょっとして心のSOSかもしれないぞと思った。僕の仕事は道なき道を行くので地図がない。背負ってる荷物は重たいがガイドもいない。だから日々恐怖がある。それなのに、物作りするわけでない金融屋というのは崖から落ちて死んでもきっと誰も同情しない。それでもう7年だ。

健康なんだから親に感謝すべきことではあるが、それだけで人生楽しいわけではない。いや、万一楽しくないとすれば、体が壊れるまで死ねないというのはむしろ苦痛かもしれない。ガス欠にならない頑丈な自動運転車にドライブ嫌いが閉じ込められて、永遠に走り続けるみたいなものだ。たまにはエンストかパンクぐらいして修理工場のお世話になるのもいいよと、精神のほうが妥協を求めているのかもしれない。

そういえば、車中でドライブに退屈しないことこそが「人生の極意」なんじゃないかと思うことがあった。つい先日のことだ。綱島の天然温泉に行って、東京特有の黒湯につかって2時間ほどぼ~っとしていた。周囲はヒマそうなおじさんばかりで、まったくなんということもない。ところが翌日、寝覚めがやけに良くて快調で、なにか良かったのかなどうしてかなと考えてみるがわからない。要は、ぼ~っとしていい気分の人たちに囲まれて、それをおすそ分けしてもらったのかもしれない。

これが英語でパースタイム(pastime)というものなんだろう。いい言葉だ。学校では趣味、娯楽、気晴らしと訳すことになってるが、ちょっとニュアンスが違う。ここが非常に大事である。趣味は要するに道楽のことであって、自分から積極的にはたらきかけて時間を使うこと、つまりホビーだ。娯楽は楽しくさせてくれる活動のことだからアミューズメントが近い。気晴らしはいい線いってるが、憂さを晴らすという感じがはいってくるのでやや違うと思うのだ。

ではパースタイムとは何か?「本業ではなくて、どうしてもやりたいというほどのことでもないが、別にいやでもなくていい暇つぶしだね」ぐらいのあっさりしたお味と距離感のものだ。受け身だから疲れない、ここがポイントである。僕の綱島温泉は近場でお手軽で、ドンピシャでまさにそれだったわけだ。なるほど、もしかして、そういうものこそが人生を明るく照らす宝なんじゃないかと真剣に思うようになってきた。

ところがだ。じゃあ何があるかなと考えてみると、それが意外にないことに気づく。皆さんいかがだろうか?趣味じゃない。娯楽でもない。気晴らしでもない。明日はゴルフだぞみたいに積極的なものではなくて、家内や娘に買い物に引っぱって行かれてめんどうだなと思いながら、行ってみるとけっこう楽しくて時間を忘れたというたぐいのものだ。受け身なものだけに自分から探しに行くと逃げてしまう。それで意外にないのだ。

人間ドックは貴重であった。気を使っていただいて安楽に感じたのはそういうことの発見だったかもしれない。採血さえなければ毎月ぐらい通いたいものだ。思えばこういう気持ちになるとトシをとったということなんだろうか。

 

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